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続・悪意の仮面

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続・悪意の仮面

リアクション

「顕仁さん、お茶にしませんか?」
 寮で留守番をしていたレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は、同じく泰輔のパートナーである讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)をお茶に誘う。
 テーブルには二人分のティーカップとレイチェルお手製のシフォンケーキがのっていた。
「ふむ、頂こうか。ところで泰輔とフランツの姿が見えぬが……」
 席に着きつつ、顕仁がレイチェルに尋ねる。
「ああ、あの二人でしたら……って、え!? 顕仁さん!!??」
 レイチェルが答えようとした瞬間、顕仁の姿が唐突に消えた。
「顕仁さん!? 顕仁さん!! ……もしかして、私の作ったシフォンケーキが食べたくなかったのでしょうか……」
 辺りを見回すも、顕仁の姿が見当たらない。
 タイミングから考えて、レイチェルはその思考に行き着き落ち込む。
 しかし、そこへ携帯のメールの着信音が響いた。
『ヒラニプラのどっかの神社の賽銭箱の中にいる。食べかけのケーキは取っといてくれ』
 それは顕仁からのものだった。
「なんだ、違ったんですね。ところで、何故そんな所に?」
 ホッとすると同時に疑問が湧く。
 そんなレイチェルの携帯に今度は着信が届いた。
「はい。何でしょうか、フランツさん」
『泰輔がちょっと暴走してる。アイツに殴り返される心配なしに、アイツをどつきまわして正気に戻させることができるのは君だけだ、救援を乞う』
 その簡単な用件だけを告げ、通話は途切れてしまった。
「賽銭箱……なるほど、そういうことですね」
 レイチェルは状況を判断し、急遽出かける支度を整えるのだった。

「ああ、もう泰輔!それじゃあさすがに犯罪だから!」
「ここにたくさんの小銭が入っておるんに、そのままにしておけるわけないやろ! ほら、顕仁。はよ小銭を集めんかい」
 とある一角にある神社。
 その賽銭箱の中から泰輔は小銭を盗み出そうと、顕仁をその中へと召喚していた。
 そこまでするほどの泰輔は、当然フランツの注意さえも耳に入らないようだ。
『我が盗人の片棒を担ぐとでも思うておるのか? 断る』
 そして、召喚された顕仁は頑なに泰輔の命令を無視している。
「そんなこと言うとると、一生出してやらんぞ」
「だが断る」
 そして、もはや意地の張り合いにまで到達した時、異変は起こった。
「泰輔ーー! いい加減そんなせこい真似しないでよね! これ以上みんなに迷惑をかける前に、私が成敗してあげ、る!」
 宮殿用飛行翼乗っていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、そう叫ぶと共に急降下し、踵落としを食らわせる。
 すんでのところで避けるが、それは僅かに泰輔の体を掠った。
「っ! 痛いやんか、美羽! それより頭に当たったら死ぬぞ!」
 これにはさすがに泰輔も驚いたらしい。
 泰輔の声が珍しく荒げられていた。
「美羽さん、私も今のは危なかったと思いますよ」
 空飛ぶ箒ファルケに乗っていた美羽のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も降下しながら注意した。
「いいもん! それより、はやく泰輔の仮面を壊さなきゃ! こうなったら……」
 美羽の視線が、近くにあった賽銭箱に移る。
「ふん……ぬ!」
『おわ!?』
 美羽は怪力の籠手で賽銭箱を持ち上げる。
 中で浮いた感覚に驚きの声をあげる顕仁には気付かず、美羽は泰輔にそれを投げつけた。
「ちょ……っ」
 泰輔は避ける。
 賽銭箱はそれまで泰輔のいた地面にぶつかり、蓋が外れて目を回した顕仁が中から現れた。
「まあ、大変です! どこかお怪我はないですか!?」
 ベアトリーチェは顕仁に駆け寄る。
「ちょっと、賽銭箱の中に自分のパートナー召喚してたの!? これは……もう放っておけない!」
「ああ、これ以上いくと泰輔が怪我ですまないことになりそうなんだけど……」
 美羽の怒りのボルテージが上がったのを感じ、フランツはさすがに泰輔のことを案じ始めた。
「あーもう、近遠さん。そろそろ出たほうがようございます」
 その時、近くで見物客を装っていたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が声をあげた。
「まあ、頃合ですわね」
「これ以上任せていたら、仮面も壊されかねないであろうしな」
 その声に、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が姿を現す。
「美羽さん、あとはボクたちに任せて貰えないでしょうか」
 最後に彼女たちのパートナーである非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が登場し、美羽の隣に立った。
「え?」
「ボクたちなら、彼を怪我させず仮面を取れますから。美羽さんも彼を怪我させるのは不本意でしょう? いかがでしょうか?」
 近遠の問いに美羽はしばらく悩むが、渋々といった様子で頷いた。
「……わかった。本当なら私が友達として何とかしたかったけど……」
「ありがとうございます。――さて、泰輔さん」
 美羽の了承を得、近遠は泰輔に向かい合った。
 開いた賽銭箱から飛び出した小銭に夢中になっていた泰輔は、その呼びかけに振り向いた。
「バーストダッシュ!」
 ユーリカは瞬時に駆け寄り、泰輔の体を押さえ込んだ。
「この仮面はこちらで処理させていただきますね」
 呆気にとられる泰輔から近遠は仮面を剥ぎ取った。
「仮面はこちらでお預かりいたします」
 アルティシアが近遠から仮面を受け取る。
「ユーリカさん」
「この箱ですわ」
 ユーリカは保存ケースの蓋を開け、アルティシアがそっとその中に仮面を入れた。

「あーもう! 泰輔のこと心配したんだからね! 悪意の仮面を付けるだなんて!」
 我に返った泰輔に、美羽は恨めしそうにそう伝える。
「しかも小銭を拾い集めるだけだなんてしょぼっちいことしてるだけだし」
「しょぼっちいってなんや! 金は天下の回りもんや。それを集めて何が悪いんや! ……いや、まあ今回はやりすぎだった自覚はあるけども」
 美羽に反論するも、泰輔は反省しているようだ。
「結局悪いのは悪意の仮面ですよ。それよりも怪我をしましたよね、治療しますから見せてください」
「お、それはありがとう」
 ベアトリーチェは泰輔の怪我をヒールで治した。

「結局我は今回賽銭箱に閉じ込められて、投げられて、散々な目に遭わされただけだな」
「あはは、お疲れ様」
 むすりとしている顕仁に、フランツは苦笑を返す。
「ああ、もう解決してしまっていたんですね」
 そこへ、レイチェルが遅れて駆けつけた。
「レイチェル、我の分のシフォンケーキは残っておるであろうな?」
 疲れた様子の顕仁に、レイチェルは励ますように笑みを向けた。
「もちろん。さあ、早く帰って食べましょう」

「仮面はひとつ回収しましたね。これだけ持って帰りますか?」
「いえ、他にもありそうならば回収してみましょう」
 アルティシアの問いに、近遠は答える。
「数は多いに越したことはないであろうしな」
 イグナが同意する。
「それじゃあ、次の場所に行くのですわ!」
 ユーリカの言葉に、四人は次の目的地に向かって歩き出した。