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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
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 その間にも、まだカンナ達のネット回線はつながったままだ。
 次の議題は、現時点で『御神楽鉄道』と仮称されている鉄道の名称を契約者達に募集していたのだ。
「さあ、どのような名前が飛び出してくるかしらね」
 ネットはつながっているが、休憩時間としてモニターの向こうのラズィーヤ達は席をはずしている。
 会議室には契約者達がそろそろと集まり、時間を待っていた。
「あああ、資料とかちゃんと用意すればよかったわ…」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は会議室の中で時間を待ちながら辺りを見回していた。
 自分のものと厚みの違う紙の束に、説得力の多寡を感じてしまう。
「突っ走りすぎたかな…でもやるだけはやらないとね」
 ただ横でリカインを監督にきていた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、割り当てられたモニターにふと目を落として思わず耳をぴくりとさせた。
 小さなウインドウがぽんと現れてヒパティアが顔を出し、手を振っていたのだ。
「おや、出てこられるようになったというのは本当なのですね」
『その節はご迷惑をお掛けいたしました』
 ぺこりと頭を下げて謝意を示すと、狐樹廊は気にするなと手を振った。
「手前の余計なお節介をそこまで大きく取って頂いていたとは面映ゆい。まあ…悩むことに重いも軽いもありません」
『私のわがままが、何人もの人を振り回したことは事実ですよ』
「いやいや、先までの苦悩も、レール予定地の選出も、傍目には同じ「悩んでいる」でしかないのです。そして人が悩むのは、けして答えを出すためではない。また同じような状況に置かれた際少しでも早く行動するための準備をしているに過ぎません。これからも悩むことはいくらでもあるでしょう。その度あなたには得る物が必ずあるはず。そう今のように、誰かの助けを得たり、何かに気付いたり、あなたの求める転換があるかもしれない。
 失うことばかりではないということ───くれぐれもお忘れなきよう」
 そろそろ会議がはじまりますね、と時間を気にして話を終え、モニターからぱちりと余韻を残してウインドウが消えた。
 その時サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は隅で環菜にレール予定地の進捗を訪ねていた。同じ部屋にいるのだから、今聞いておかなければなるまい。
 サンドラが懸念していたのは、巨獣がレールを脅かし、レールに小動物達や、近隣の住民の生活が脅かされるかもしれないという点だった。
「レールの安全の懸念は会議に組み込んだわよ、今計画を修正している所だから、全区域には無理かもしれないけど」
「よかった、わかりました」
 ほっと胸をなで下ろし、サンドラはひとまずの満足を得た。
「さあ、会議の時間よ、席に着きましょう」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が会議室に飛び込んでくる、分厚い資料を抱えて、それをぎりぎりまで作成していたのである。
「ま、間に合ったかなっ?」
「大丈夫よ、息を整えて席について」
 環菜がルカルカとそのパートナー達に席をすすめ、モニターを指定する。
「さて、集まってくれたのはこの三組ね」
 リカイン・フェルマータ、ルカルカ・ルー、桜月 舞香(さくらづき・まいか)の顔を順繰りに見渡して、ラズィーヤ達もモニターの前に戻ったことを確認して会議を始めた。
「どんな名前でしょうね」
「私はぁ大人ですから〜、別に御神楽鉄道でもガマンしてあげますよぉ〜」
 静香が期待に声を上げ、エリザベートが環菜に向けてからかい混じりににやにや笑った。
「じゃあ、あたしから行かせていただきます」
 舞香が手をあげ、促されて発言を始める。
「鉄道会社の社名は、「パラミタ横断鉄道」を推したいと思います。
 魔列車という、パラミタ的にも貴重な遺産を使って、スポンサーや各校の生徒達の協力で作っている鉄道だもの。個人名より地名を冠するべきだと思うのです」
「確かに、個人名よりもいいと思うわ、私は別に自分の名前にこだわりはないもの」
 リカインがそこに手を挙げた。
「話の途中すまないが、私もその点について意見があります。…実は、私は具体的な名前案はないのだけれどね」
「伺いますわ、貴重な意見です、どうぞ仰って」
 ラズィーヤが促し、リカインは口を開く。
「現在、シャンバラに「御神楽」と名のつくものは多いです、基本的には彼女が立案だけでなく出資したものが多いので、そこに個人名が被さることは当然の成り行きでしょう。しかし今回はかなり事情が違います、そのことが一つ」
「ほかにはどんな理由ですぅ?」
「ええと…様々な理由により「御神楽」の名前に過剰反応する連中がいることも、事実です。そういうのにわざわざ攻撃の理由を与えなくともいいのではというのがひとつです」
 環菜が肩をすくめた、思い当たることが多すぎる。
「それはそうね、立案は確かに私だけれど、一人でできることではないものね」
「だから、環菜君から名前にこだわりはないという話を聞けてよかったです」
「…私自分の名前つけて、ナルシストに見られてたのかしら…?」
 頬杖をつきながら、環菜はちょっとそう思った。リカインは中断させたことを謝り、舞香に続きを促した。
「いえ、ではお聞きくださいね。
 …大陸横断鉄道とは、国境を越えて各国が一本のレールで繋がっているイメージがあります、各国間の平和の象徴って感じもするからいいと思います」
「どんどん延ばしていきたいですよね、僕も」
 ほわぁ、と静香が同意する。モニターの中には、先ほど決定したばかりのレールラインがゆったりと回転している。
「あと、列車名ですけど、行先や種別毎に色々あっていいんじゃないかしらと思って、たとえば日本風に「特急しらゆり」とか、「快速ヒラニプライナー」とか…」
「ありがたいけど、そこはまだ先の話ね、レールを伸展させるにしても、今を終わらせて結果を出さなければならないわ」
「それに、一駅しかないのに、特急も快速もないですよぅ…」
「あ、ということは、次の方の案で結局二案で列車名を戦うことになるのですね」
「それでは、次は私が」
 ルカルカは分厚い資料を皆に行き渡らせ、モニターの向こうのラズィーヤたちにも、データが届いたことを確認した。
 皆が資料に目を通す間に、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)が会議室にいる皆にハーブティーを振る舞う。
「では、私が提案するのは次の三点、広告戦略、会社の形態、それから会社及び鉄道名です」
 指定された資料のページを繰ると、まず広告戦略についての項目が目に入る。
「1つ、広告戦略について。
 鉄道は、国の血管であり物流の顔。
 大量輸送は他国との経済・人的交流を一気に高い次元に押し上げる。
 鉄道開設を国内外へマスメディアや外交の場で強く広く発信していくべきだ、と考えます」
 概要を口述し、質問の有無を待ち、してルカルカがその意味が正しく浸透したことを理解して、次に続けた。
「2つ、会社形態について。
 広告の為にも事業規模の為にも豊富な資金が必要だ。
 株による資金提供を広く一般から募りませんか? ということです。
 お三方は持ち株を応分に保有、環菜さんを代表に会社役員となって頂ければと…」
 先ほどよりも踏み込んだ意見だ、その将来的な危うさを危惧して、ラズィーヤが声を上げ、環菜がつづけた。
『…それは考えてはいますが、今はあまり勢力を細分化することを考えないで、私たちがきちんとアドバンテージと手綱をとることを考えましょう』
「それに私には以前のような力はないと言っておくわ。もし悪意があって会社を乗っ取ろうとするものが株を独占しようとする、と仮定しましょう。それを押さえ込むことができるか、自分のことながら不安視せざるをえないわね」
 事業主たちは経済的な要望を確認しなおして、次へ送った。
「3つ、会社・鉄道名について。
 国内外に認知して貰う為に、法人名は極めて重要です。
 シャンバラの顔としてシャンバラの文字を入れた『シャンバラ・レールウェイズ』を提案します
 シャンバラ諸鉄道という意味で、『諸鉄道』としたのは、各地への支線敷設も将来の視野に入れている為です」
『これも悪くないんじゃないですかぁ?』
『そうですねえ』
 エリザベートと静香が無邪気に賛同し、会議室には名前の響きを確認するざわめきが通過する。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がルカルカに続けて発言の許可を求めた。
「鉄道名を決定する、という趣旨から脱線しつつあるようだが、この場を借りて聞いていただきたい。事業未来についてだから、時間の損はさせないと約束する」
『より良くしようとする意見なら、私たちはいくらでも歓迎ですわ』
 ラズィーヤの許しとともに、モニターが揺らいで映像を映し出した。
 イメージPVがレールラインの3Dとともに踊る、活気のある各地の映像と重ね合わせて、未来の想像を容易くしていた。
「パラミタ=地球間の玄関としてシャンバラは機能するだろう、是非ともシャンバラ・レールウェイズとともに」
 モニターには帝国や内海との交易を見越した予定品目のリストアップ、カナンとの空路及び海路補給路と鉄道のリンク、コンロンや地球とも物流網が結ばれる経済効果の試算データといったものが、周到に用意された資料と相俟って見るものの意識を打った。
「ツァンダ、ザンスカール、ヴァイシャリー、ヒラニプラ、そして空京。これら主要都市を結べば巨大な経済圏が生まれるわ。環菜さんの夢は、もう私達の夢でもあるのです。
 シャンバラ・レールウェイズ…この大鉄道網を、共に実現させましょう!」
 ルカルカがすべての発言を引き取ってそう結ぶ、モニターにシャンバラ・レールウェイズの頭文字である「SR」を意匠化したロゴが踊る、視覚化のインパクトは強く、「パラミタ横断鉄道」も決して悪くはないが、こちらのほうがより近代的でスマートな印象を与えた。

「…わかったわ、意見は以上かしら?」
 環菜が会議室を見渡し、他に発言をしようとするものがいないことを見て取った。
 二つの名前を挙げ、手元で簡単にラズィーヤたちの投票を確認し、採決をとる。
 いずれの名前も詰め込まれた思いはかわらないだろう、しかしプレゼンテーションの効果により、票は傾くこととなった。
「さてお歴々、この名前を我らが鉄道に冠することに、異存はないかしら?」
『ぼくはないです、とても納得がいくし、これ以上はないんじゃないかな』
『いうことはないですぅ』
『いろいろ納得させられましたし、この先にどんどん伸ばしていくとしても、まずシャンバラをきっちりと固めなければなりませんものね』

 鉄道事業名は、『シャンバラ・レールウェイズ』に決定した。

 執務室の一角で、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はパートナー達と連絡をとっている。レールラインと名前が決定したことを伝えると、ネット電話のモニターの向こうで陽気な喜びが転がる。
『それはよかったですわ、こちらは…』
『わたしたち、頑張ってアダマンタイト採ったよ、楽しかったよ!』
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)を押しのけるようにしてモニターに身を乗り出した。
『それで、これからおねーちゃんと一緒に“まれっしゃ”を直しに行くよ!』
「そうかあ、魔列車のことも楽しみですねえ」
『後ほどこちらの現場に2人で見に来るのでしょう? 良い成果をお見せしますわ』
 それを受けて環菜のスケジュールを確認する、少し調整しないと余裕はあまりないかもしれない。試乗にこぎつけた暁には、ゆっくりと楽しみたいと思う。
「そちらに行けるよう努力しますよ」
 そうやってほのぼのやり取りしている所に、エリシアは爆弾を投げ込んだ。
『ところで、ちゃんとイチャイチャしましたの?』
 なんで話題がそっちにとぶの?と陽太は思ったが、声にはならず表情に現れ、真っ赤になって慌てふためく。
 何せ彼はまだまだ新婚の身だ、長らく影に日向に御神楽環菜のそばに控え、想いつづけ、この度ついに本懐を遂げて『御神楽陽太』となった彼は、世界の中心で全方位からリア充爆発しろと言われても仕方がないはずだ。
「ああもう、ネット切りますよ!」
 もごもごと照れくささのあまりぼやきながら、執務室に静寂が戻った。今部屋の主である環菜は席をはずしていて、爆弾発言も聞かれずに済んで胸を撫で下ろしている。聞かれたとて彼は堂々としてればいいのだが、そこでいつまでも初々しく思い切り照れくさがるのが、陽太の陽太たるゆえんである。
 集められる資料やそのコピーをまとめ、多方面からの進行管理を監視する。宣伝広告の準備を今からしておかないと、トレーダーとしての力を発揮できないだろう、ToDoリストを更新して次へと行動に移そうとする。
 ついでにもうひとつ、心の中にリストを付け加えた。
 (そ…それに、ちゃんとした新婚旅行もしたいですしね!)
 やがて執務室に環菜が戻ってきたが、その顔は晴れない。
「うーん…」
「どうしました?」
「…小耳に挟んだんだけど、列車の利権関係を嗅ぎまわってるヤツがいるみたい。」
 あわてて土地の所有権など、もろもろの利権関係がきちんと明確になっていることを確認する。それに関してはラズィーヤと環菜に手抜かりはなかったが、きなくさい影があるということは、どこかで何かの利害が絡んでくるようになるのだろうか。
「少し調べてくれる? 少し忙しくさせてしまうけれど」
「夫というのは、妻の幸せな笑顔を見れることが最高の生きがいなんですよ?」
 そんな気遣いは無用だと笑い、資料を片付け、ノートパソコンを小脇に抱えて立ち上がる。それでは行ってきます、と部屋を出る寸前にくるりと振り向き、一言言い残して陽太はドアの影にさっと消えていった。
「…あ…愛してます環菜っ」
 まだやっぱり照れくさいようだ。半ば言い逃げした夫を、妻は苦笑しながら見送った。
「もう返事も聞かないで…。私もよ」