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リアクション
●今回はほのぼのカオスです・2
なんとなく、朔とスカサハにぎこちないものを感じ取っていたリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)だったので、口を挟みはしないものの、主従二人が和解したらしいのを見てなんだか自分も嬉しくなっていた。
(「みんな仲良く、だよね! でも、たまにはこうやって、すれ違うこともあるんだ……けど、修復した見たいでよかった」)
リーズが振りあおぐと、以心伝心といった風で小尾田真奈も微笑みかけてくれた。
「雨降って地固まると言います」
真奈はそれ以上言わない。けれど、わかっているようだ。
ここで、
「あれ?」
リーズは目を丸くした。
「あれって……バロウズさん?」
スカサハにかわり、美空に野菜の皮むきを指導していたローザマリアも少なからず驚きを共にしている。
「そのようね……? そこの約一名が喜びそうな気がするわ」
そこの約一名ことグロリアーナは勿論、手を叩いて喜んでいた。
「樹を隠すなら森の中、という。ならば男の娘を隠すなら百合園の中か! いやはや、今日は男の娘の豊作だな! 眼福眼福」
「……変なことを言わないで下さい……!」
一生懸命膨れっ面をしてみせるバロウズ・セインゲールマン(ばろうず・せいんげーるまん)だが、気恥ずかしさで赤面しているのは誤魔化しようがないのであった。
「ごっめーん、メイクに時間がかかっちゃって☆ でもルシェンさん、うちの娘(こ)もなかなかのもんでしょ?」
アリア・オーダーブレイカー(ありあ・おーだーぶれいかー)がバロウズの手を握り、どんどん引っ張ってくる。
もともとバロウズは、男性にはもったいないくらい綺麗な顔をしている。それが、薄化粧してすっかり、女性の顔になっていた。
このメーキャップをほどこしたのはアリアだという。
眉は細く、色はますます白く、睫毛は憂いを帯びて長い。目元もくっきりさせていた。
アリアはルシェンに化粧術を教わり、そのテクニックを存分に発揮したのだ。
しかし彼の変貌は、メイクだけではない。
「……アリアさん。本当にこんな恰好をする必要があるんですか?」
ずりずりと連れてこられたバロウズはメイド服であった。
しかし朝斗とは方向性が異なる。いわば『大人の』タイトなメイド服だ。華美な部分は少なくてシックであり、服は全て黒と白で彩られていた。長い脚は網タイツにくるまれ、タイトなスカートにはスリットがあった。しかも、なぜか胸元が大きく開いている。にわかには信じがたいが、きわどい隙間からは柔らかそうな盛り上がりが顔を見せていた。
「……ぬわぁ! きみ、女の子やったんか!?」
腰を抜かしそうな陣に、
「落ち着きなさい。パッドよパッド」
ローザマリアが冷静に伝えた。
なるほどたしかに、肌の色とほぼ同じゆえわかりづらいが、確かにそのバストは作り物のようであった。
なんとも挑発的な衣装にもかかわらず、バロウズもやはり小さくなって、
「失礼します……」
と朝斗の隣に立った。
「あ、どうも。はじめまして、よろしく」
朝斗は朝斗で妙な返し方をしている。つまり、『今日ここにいるのはいつものバロウズ、朝斗とは別人ですよ』というアピールであった。
「いいよいいよ。並んで並んで〜」
一方、ある意味元凶(?)たるルシェンは、コンパクトビデオカメラで二人の男の娘を撮影するのであった。
(「出るならいまのうち……」)
人々の注目がバロウズたちに集まっている隙に、滑り込むようにしてリアンズ・セインゲールマン(りあんず・せいんげーるまん)が入ってきた。リアンズは知らない振りして素早く米をといだりして、我関せずをつらぬこうとするのだが、
「あら、今日のリアンズはチャイナドレスなのね、可愛いわ」
目ざといローザマリアが見つけていた。
「い、いやこれは……っ!!」
リアンズは飛び上がらんばかりになる。
本日の彼女も変身を遂げていた。黒いチャイナドレス……にエプロンというマニアックな組み合わせである。腰のくびれがなんとも妖艶だ。
普段、スーツばかり着ているリアンズからすれば別人みたいな装いであった。
これはアリアに「今日は淑女にふさわしい服装をしなければならないことになっています」などと口車に乗せられて着させられたものである。メイクも同様にさせられてしまった。「おい待て。何故私までこんな恰好をしなければいかんのだ……!」と抵抗したのも最初だけ、気がつくとこのざまだ。
しかしリアンズは意を決した。
(「ここで恥ずかしがればよけい恥ずかしいことになる……!」)
「なに、このような格好、私はプライベートでは着慣れたものなのだよ。今日はこういう場ゆえ、普段着で来させてもらったまで」
などと平静を装ってみた。恥ずかしいと思うから恥ずかしいのだ。堂々としていればいい。
だがリアンズの顔は上気し、霧吹きされたみたいに額に汗が浮いていた。
それを見抜けぬはずはないのだが、あえてローザは驚いて見せ、
「へえ……それにしてもいいセンスね。私も丁度、新しいチャイナがほしいと思っていたの。今度買いに行く際に同行してもらおうかしら」
「いいわね、私も〜」
ルシェンはカメラから手を放さず、リアンズをフレームに入れて手を振った。もちろんルシェンもわかっていて言っている。
(「墓穴を掘ったというのか……!」)
しまった、と思うももう遅い。だが簡単に負けを認めるリアンズではない。
「そうか。いいだろう。馴染みの店があるゆえ今度二人を招待しよう」
自分にとって馴染みの店はガンショップくらいなのだが、もうどうにでもなれ、とリアンズは思っている。
(「でも……ガンショップでチャイナドレスを売っているだろうか……?」)
それだけが心配だ。