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とりかえばや男の娘 三回

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とりかえばや男の娘 三回
とりかえばや男の娘 三回 とりかえばや男の娘 三回

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「う……」
 声とともに、藤麻は目を覚ました。
 随分長い間眠っていた気がする。長い奇妙な夢を見たが、その中で竜胆に何かを伝えようとした事だけは覚えている。
 そして、目を開けて藤麻は驚いた。
 燃えさかる炎をまとった巨大な鬼がいる。あの鬼には見覚えがある。毎夜夢の中で自分を苦しめるあの邪鬼だ。とすれば、ここはまだ夢の中なのか?

「目覚められましたか? 兄上?」

 竜胆が藤麻を覗き込んで言った。
 自分と同じ紫色の目で。青みがかった黒髪が自分の頬に触れているのがわかる。

「竜胆。あれが邪鬼だ」
 藤麻はヤーヴェをさして言った。
「存じております」
「私が倒さねば」
 藤麻は夢うつつのまま立ち上がる。
「どこへ行くのですか? 兄上」
「邪鬼を倒す」
「およし下さい! 兄上」
 竜胆は慌てた。
「そのような体では、無理です」
 しかし藤麻は止まらなかった。刀を抜きおぼつかない足取りでヤーヴェに向かっていく。と、
「ちょっと、待って藤麻くん!」
 藤麻の前にリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が立ちはだかった。
「話があるの」
「話?」
 藤麻は首をかしげた。一体何の話だろう?
 すると、リカインは言った。
「実は、蒼空歌劇団に入らないかと思って」
「はあ?」
 思いもよらない質問だった。
「ごめんなさい。こんな時に、急にこんな事を言い出して」
「はあ……」
 本当に急だ。
「本当は、男役も女役もいけそうな竜胆くんをスカウトしたかったんだけど、将来的に続けてもらうのが難しそうだし……。双子で見た目は文句なし、ヤーヴェも騙すその演技力は本物だ! ということで藤麻くんをスカウトする事にしたの」
「……」
 藤麻は、どう、リアクションしていいのか分からない……。
「流石に服装までは無理でも、髪型いじって女の子っぽくするくらいなら出来るはず。あとは男の娘な竜胆君の真似をしてもらえばきっとみんなもそのポテンシャルを認めてくれると思うの」
 とりあえず、戦意は喪失してしまったようだ。
「あーあ、リカインの奴。相変わらずピントのずれた事を……」
 リカインの手荷物の中で、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)がつぶやく。
「しかし、まあいい。長い雌伏の時を経て、その時が来た! すでに竜胆は正体を隠す必要なし、すなわち生まれたままの己の姿と向き合わせても問題ないということ」
 そういうと、河馬吸虎は、天狗の面に光学モザイクをかけた、むしろ放送禁止な雄姿で飛び出し、サイコキネシスでなぜか藤麻の服を攻撃。藤麻の服がぼろぼろに破れる。
「ああ?」
 驚きながら、リカインの目を気にしてとりあえず前を隠す藤麻。
「ふっふっふ。そこを隠したか」
 河馬吸虎は言った。
「突然生まれたままの姿にされた時に、どこを隠そうとするかこそが偽らざる心の在り方だ。そして、お前は前を隠した。つまり、お前は、男としてコンプレックスを持ってい……」
 全てを言い終わらぬうちにリカインに星にされた。
「ごめんなさいね、藤麻くん。着物を駄目にしてしまって。かわりにこれを着て」
 そう言うと、リカインは藤麻に蒼空歌劇団のきんきらの衣装を渡した。ちなみに『ベル花』という劇にでて来る『安藤麗』という登場人物の衣装だったそうだ。
「よくお似合いですよ、兄上」
 苦笑いする竜胆。
「しかし、このようななりでは戦えぬ」
 と、フリフリのレースを触りながら答える藤麻。しかし、その時には、さすがにこれが夢でない事に気付いていた。

 一方、その頃……
「やはり持ち主こそが剣の在り方を決めるのだ」
 木曾 義仲(きそ・よしなか)は、前回(とりかえばや男の娘 2)で自分が邪鬼に向けた言葉を振り返って言った。
 そう、前回彼はこう言ったのだ。
聖なる力を持つ者を一振りで滅ぼす魔剣? 力に聖も邪もないわ、あるとしたらそれは使い手の心のありように過ぎん。いかな無銘も聖人君子が振るえば聖剣、いかな名刀も外道が振るえば妖刀、それが理。死してなお苦しむ魂に更なる咎を与えるなど見過ごせようはずもない!
 その言葉通り、双宮の剣には聖邪の両方の力が秘められていた。義仲は意気揚々、しかも具現化できるとあって聖剣を手にヤーヴェを討つ気満々であった。さっそく竜胆に宝玉をもらいに行く。
「行っていただけるのですね」
 竜胆は義仲に宝玉を渡した。
「あたしもお供します、義仲様」
 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)が後を追っていく。

 そこに、エジプト風の衣装をまとった奈落人達が現れた。目が赤く光り、体にはコブラを巻き付けている。

「キシャー!!!!!」

 奈落人は義仲に蛇をけしかけて来た。

「うわあああああ!」

 取り乱す義仲。そして、鞆絵に尋ねた。

「なんだ? あの恐ろしさは? わしもあんなんなのか?!」

 ちなみに、義仲も奈落人である。

「いやだあ、あんな怖いのはいやだあ!」

 義仲は全開で恐がった。そこにコブラが飛びかかって来る。

「いやじゃああああ!!!!」

 驚く義仲。そのはずみで宝玉を落としてしまう。

「ああ! 宝玉が」

 鞆絵は叫んだ。宝玉はコロコロ転がって遠くに行ってしまう。
 義仲は従者のミイラ男を呼び出した。けど、何をさせるわけでもなく、二人でひたすら逃げ回る。

「義仲様……」
 鞆絵がつぶやく。ナラカが舞台ということで久々に義仲様との再会、共闘……のはずがいきなりのへたれっぷりに苦笑。まあ予想出来ていたことではあるが。
「巴、済まぬ。宝玉がどっかに行ってしまった」
 泣きそうな顔で詫びる義仲を
「義仲様は義仲様のままですよ……」
 鞆絵はよしよしとなだめた。

「一体、何をやっているのよ……」
 リカインは言うと、スキル『震える魂』を展開。義仲と鞆絵の魔法攻撃力が上がった。
 さらに、『激励』で義仲と鞆絵の心を奮い立たせる。
「さらに蒼空歌劇団が歌姫の歌を聞きたいっていうなら……」
「『咆哮』だけはやめてくれ」
 リカインの足元で河馬吸虎が言った。彼は大勝負で盛大にこけたショックから鬱になっていた。

 リカインの力で心を奮い立たせた鞆絵は、薙刀を構えチェインスマイトでコブラ達を叩いていった。さらに、光精の指輪で奈落人達に光り魔法のダメージを与えていく。さらに襲いかかって来る奈落人達には子守唄を聞かせて眠らせる。
 その間に、義仲は宝玉の行方を探して走り出した。



 その宝玉は、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が拾った。
「? これは、さっき義仲が落としたものじゃないか?」
 手に取って眺めるエースにメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が言う。
「剣を手に入れる気か?」
「いや。それは誰かにまかせる気だ……敵だからと殺したり滅したりするのは、心情的に抵抗がある。しかし、聖剣を手に入れる協力は惜しまないから、この宝玉を捧げるところまではやろう」
「やれやれ」
 メシエは肩をすくめた。
「相変わらず甘い考えのエース君に任せるには少し心配なので、手伝ってあげるよ。エースと違って、敵を倒す事に私は躊躇しないからね。なにしろ、エースは敵でも出来れば殺すなって無茶を言うからねぇ。まあ、とりあえず行きますか」
 そうして、走り出した二人の足元にダガーが飛んで来た。見ると、前方にハンター風の奈落人達がいる。彼らは手に手にサーベルや、ダガーを持って舌なめずりをしている。そして、右に左に跳躍するという異様な動きをとって近づいて来た。
 メシエは言った。
「近接系武器が得意な敵とは接敵しない事が肝要」
 実は、野蛮な輩には近づきたくないというのが本音だった。
 エースはオートガードとオートバリアを展開。メシエとエースの物理防御と魔法防御が上昇する。そして『我は射す光の閃刃』を展開。戦女神の威光が光の刃となって、ハンターどもを撃つ。
 ハンターどもは悲鳴を上げてその場に倒れた。仲間達が倒されるのを見た奈落人達は、奇声を上げて走って来る。
 メシエは光術を展開した。光を呼び出し、敵一体に光輝属性の魔法ダメージ。さらに、『その身を蝕む妄執』でハンター達に恐ろしい幻覚を見せた。それでも、どんどん敵は接近して来る。
「……仕方ないな」
 メシエは両手に矢を持つと、サイドワインダーで左右から敵を攻撃。ハンターが血をふいて倒れる。

 こうして、エース達は無事に石像までたどり着いた。しかし、そこに一人の女がいて石像に何かを捧げようとしている。赤黒く汚れた人型の光……。愛する者を手にかけた罪人の魂だ。
「まずい」
 メシエが叫ぶ。同時にエースが駆け出す。龍骨の剣を手にランスバレストを展開。女の肩に剣が貫通する。

「急所は外した」
 エースは女に向かって言うと、皿に宝玉を捧げた。

 すると、声が問いかける。 

 ……汝は聖剣を求めるものか?

「そうだ」

 エースは頷いた。

 ……ならば、我が問いに答えよ。

 声が言う。

「三つの問いへの答えなら、こうだ」
 エースは言った。

「生きる上で一番大切な事は、沢山の人が幸福に笑って暮らしてる状態を維持する事だ。
 一番嬉しかった事は、友人に赤ちゃんが生まれた事
 そして、生まれてから一番悲しかった事は友人が争い・戦いが原因で何人も亡くなった事。
 生物は必ず死ぬので、死ぬ事が悪い事だとは考えないけれど。生命は繋がり循環して行くものだから。天寿を全う出来ればそれは幸福な生だと思う。
 でも他人からの暴力で理不尽に終焉を迎える事は幸福ではないだろう。またそうされたから、敵に対して悪を理由に殺したりする事は、結局された同じ事を相手にしているだけだろ。なので敵だからと殺したくないんだよね。ヤーヴェが救われますようにと祈るよ。これが俺の考えだ。しかし、聖剣を出すのは少し待って欲しい」

 そう言って、エースは部屋の中央を見た。そこに宝玉を探している義仲の姿が見えたからだ。その背後から、ハンターが襲いかかっていく。

「危ない!」

 メシエが義仲に注意を促した。義仲がぎょっとして顔を上げる。目前にダガーが迫っている。メシエは光術を展開。目映い閃光でハンターは一瞬目を塞ぐ。

「今のうちに、こちらへ」
 メシエに手招きされるまま、義仲が走ってくる。その手を取ってエースが言った。
「聖剣を手に入れるのは、彼だ」

 ……いいだろう。

 石像が答えた。

 ……資格あるものかどうか、我の問いに答えよ。

「分かった」
 義仲は頷くと三つの問いに答えた。

「大切な事は、夢を夢で終わらせず目標として達成すること
 一番嬉しかった事は、天寿を全うしたとは思ってないので答えようがない、それは寿命を迎えた者だけが知りえることだと思う
 生まれてから一番悲しかった事は、最大の屈辱だと分かっていながらも巴に生きて欲しいがため敵前逃亡をさせたこと。質問2と矛盾するようだけどこれ以上の悲しみが後の人生で起こったとは思えない」


 聞き終わると石像は言った。

 ……汝の言葉、胸に響いた。聖剣の欠片を受け取るがいい。あと一つ欠片を手に入れれば、剣は本物の聖剣として目覚めよう。

 こうして、義仲は4本目の剣を手に入れた。