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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション


月美 あゆみ(つきみ・あゆみ) 斎藤時尾(さいとう・ときお)

師弟の間では、技術は敬意を持って盗むものです。
愛のピンク・レンズマンのあたし、月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)はストーン・ガーデンのダイヤモンド師匠の元で、石工としての修業を積んでいるの。
だから、実体験としてよく知ってるんだけど、先輩や師匠からワザを盗むのは犯罪でも失礼でもないし、むしろ、よくやったって、ほめられる行為なのよ。
というわけで、あゆみは技術者として、コリィベルで急速に進歩してしまった天ヶ原明先輩のワザを盗むために、先輩のお部屋に忍び込むことにしたの。
これは犯罪じゃないわ。
金品を奪うつもりはないし、もし先輩にみつかっても、わけを話せばわかってくれるはず。
あゆみだってこんな方法はとりたくないんだけど、今回は仕方ないんです。
コリィベルの動力機関って、古代遺跡で発見されたオーパーツ並みの不可解な仕様なのよ。
その道の専門家がみても、すごいということしかわからないくらい、超絶的なの。
あゆみが不勉強だから言うんじゃなくて、本当にそうなんです。
例えば、永久機関一つにしてもあゆみは、スイスの時計メーカー、ジャガー・ルクルトが製造した、密閉したガスの温度差による膨張と収縮を利用した永久機関を動力源とする置時計アトモスを研究して、自家製の腕時計をつくってみたこともあるのよ。
置時計よりも、腕時計の方が重力の干渉による誤差が起きやすかったり、サイズの制約もあって、つくるのが難しいのに気づいたのは、設計をはじめた後だったわ。
天ヶ原先輩のコレはそれよりもはるか先をいってる。
天御柱学院のスゴ腕整備士の長谷川真琴さんも、薔薇の学舎の技術官僚の柚木瀬伊くんも、あゆみと同じようなことを言ってた。
つまり、天ヶ原先輩の境地に追いつくには、当たり前のやり方じゃムリ。
なんだか自分で自分の罪悪感をごまかしているような気もしますが、では、先輩のお部屋にお邪魔しちゃいますね。
許可をとりたくても、先輩はどこかへ行っててお姿がみえませんし。
さて、ドアに「工務・設備管理主任」のプラカードがはられたこの部屋には、きっと先輩のワザに関する資料が。
失礼しまーす。
心の中で断って、中に入ったわ。ドアに鍵はかかってなかった。
まさか、先輩がいるとか? ないわよね。ないと思う。ないないない。
後ろ手でドアを閉めて、周囲をみまわす。
広くない室内には、スチール製の本棚と机、パソコン。整理されてるなぁ。
でも、誰もいないのに、あかりがついてるって、これって。
「あんた、これを探しにきたんじゃないのかい。パソコンのデーターは消した。
後はこれに入ってるのがすべてさ」
背後から声に振り向くと、白衣の女の人がいてCDかDVDらしいディスク入りのケースを持ってた。
ドアの裏側、あゆみの死角に隠れたみたい。
「あたしは、ピンク・レンズマンの月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)
天ヶ原先輩の技術を勉強したく」
「レンズマン。
そりゃぁ、改造人間か強化人間かい」
「違うわ。
レンズマンは、アリシア人に選ばれた銀河パトロール隊の隊員よ。
正義のためにあゆみたちは闘うの」
「なるほど。
困ったね。
なら、天ヶ原明に改造だか強化だかされてるかもしれないあたしは、あんたに倒される悪の怪人かい。
あたしは斎藤時尾(さいとう・ときお)
いままで天ヶ原の助手をしてたんだけど、一身上の都合であいつの元を離れることに決めたんだ。
いまは、あいつの配下の蒼空第一幻影軍団に狙われて命からがらゆりかご内を逃げまわってる最中さ。
早い話が、本物の天ヶ原明が薔薇の学舎から盗んできたこのディスクと交換に、あたしの味方になってくれるやつを探してるんだけどね。
新エネルギーの資料は、あちこちのパソコンのデーターをあたしが全部消しちまったから、もうこれにしか残ってないよ。
あんた、あたしを助けてくれるかい」
時尾さんの口調はくだけていたけど、表情にはまるで余裕がなかった。
あれこれ質問をしてる場合じゃないのはあゆみにもわかったわ。
彼女を信じるか、信じないか。
すぐに決めないと。
あゆみは、自分の直感を信じるわ。
目の前の困っている人を放っておけません。
「ここにいちゃ、ダメみたいね。あゆみの仲間のところへ行きましょう」
「頼んでおいてなんだけど、蒼空第一幻影軍団はかなり強いよ。
あたしを助けると、あんたも、お仲間さんたちもヤバイかもね」
「心配しないで。
とにかく、みんなのところへ急ぐのよ」
時尾さんと部屋をでた。まずは、ヒルダのところへ行って、みんながどこにいるのか教えてもらおう。
「いいのかい。
あんた、お人好しだね。
ねぇ、あんたのそのお仲間は何者なんだい」
「百合園女学院推理研究会。
どんな謎にも敵にもひるまない少女探偵さんたちよ」