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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション



シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)

殺人事件があった現場で、私のファンらしくない彼に話しかけられました。
私は、セイニィと魔法少女音楽ユニット「Les Leonides」を結成しておりまして、その活動にはファンの方もついてくれていて、ライブやイベントに来てくださったり、お手紙やプレゼントを頂くこともあるのです。
「しゃるるーは、今日は、一人で、コリィベルにきてくれたんだろ。
ボクは、ネットでブログや公式サイトをチェックしてて、しゃるるーを応援してるんだ。
いまは、ボクはこのゆりかごに住んでるから、なかなか直接、会いにいけなくてゴメン」
特攻服姿の痩身長躯の彼は私を前に、息を荒くし、興奮してくださっていますね。
しかし、これまでの経験に基づく、推察なのですが、「Les Leonides」やプライベート・ディテクティブ(私立探偵)としての私個人のファンの方たちとは、彼は、あきらかに傾向の違う人物だと思われます。
どちらかと言えば私を応援してくださる方達は、一見、自己主張の少ない、内気で、知的な、思索型の人物が多いのですよ。
握手会や、依頼人としてマジェスティックの私の事務所を訪れてくださっても、私を前にして緊張されるらしく、みなさん、手もださずに下をむいてしまわれたり、なかなかお話を切りだせなかったりするのです。
私の愛称はシャルで、しゃるるーとは、呼ばれたことも、名乗ったこともありません。
「シャルさん、彼はBB(ビックブラザー)さんです。
私と未散さんのファンさんなの」
「そういうこった。失礼なやつかもしんないけど、ご勘弁な」
彼の両横には、846プロ所属のアイドルの茅野瀬衿栖(ちのせ・えりす)さんと、落語家の若松未散(わかまつ・みちる)さんがおられて、どうやらお二人は、こちらの御仁と行動を共にしているようですね。
ファンサービスなのかもしれませんが、ほんとうに御苦労様です。
「えりえりもみっちーも、礼儀正しいな。
ボ、ボ、ボクはしゃるるーに迷惑なんてこれっぽっちもかけてないから、心配しなくっていいんだよ。
だって、しゃるるーもボクのかわいい子猫ちゃんの一人なんだから、ボクがしゃるるーのイヤがることなんてするはずないじゃないか」
「うっせー。てめぇーの妄想は、てめぇーが思う以上にみんなを傷つけてるんだよ。
ちったぁ、自重しろよな」
未散さんの意見に私は、賛成です。
「そうですね。
ファンの方の想いと、アーティスト自身の想いが、まったく同じになることなど、そもそも、起こりえない気がします。
コンサートの最中などに、そんな錯覚にとらわれる瞬間も、私もないではないですが、それにしても、ほんの一瞬にすぎません。
ファンの方も、アーティストも血の通った人間ですから、互いに強い想いを持って行動しているが故に、気持ちの擦れ違いで、どちらかが心に傷を負ってしまうのは、じゅうぶんにありうる悲しい出来事ですね」
「ずいぶん、しちめんどくせぇ言い方をするんだな。おまえは」
「わかりにくかったですか。
すいません。私のスタイルなのです」
「スタイルねぇ」
大げさに顔をしかめ、首を傾げ、未散さんは、表情豊かなかわいらしい人です。
「あなたたちは、BBさんとシュリンプ殺害事件を調査しておられるのですね。
コリィベルの内部にくわしい彼が側にいてくれるとさぞかし心強いでしょう。
シェリルがここにいたら、きっと、あなたちと一緒に行きたがったと思います」
私のパートナーの占い師シェリル・マジェステックは、衿栖さんとお友達なのです。
あいにくシェリルは、今日はマジェスティックのベーカー街で留守番をしていますが。
「衿栖さん。
余計なお世話だとは思いますが、私がこのゆりかごを散歩した感想を聞いていただけますか」
「もしかして、事件解決のためのヒントですね。
名探偵からのアドバイスなんて助かります」
ヒントになるかどうかは、あなた方しだいです。
「シュリンプ殺害事件について考える場合。
HOWではなく、WHOとWHYでしょう。
手段に目を奪われず、シュリンプを殺さなくてはならなかった人物を突き止めるのが、ポイントです。
もう一つ、私はここのスタッフに事件現場にいた人間の一人として、取り調べを受けたのですが、彼らは私に、不審な人物をみなかったか、と聞き、私は、はい、とおこたえしました。
嘘ではありません。
不審な人物は、みませんでした。
反対に、刑務所の演芸会の会場にいてもおかしくない、この状況に埋没できる不審でない人物なら、必要以上にたくさんみましたがね」
「シュリンプ殺害の動機を持つWHOは、ここにいて不自然でない人物こそが怪しい、と。
ブラウン神父の「木を隠すには、森の中」の理屈ですね」
「単なるつぶやきです」
「そーか、たしかにそう考えると、ここでの捜査にBBさんは強力な助っ人ね」
「気のせいじゃねぇの。いや、気の迷いか」
「ハアハアハアハアハア。
どこにいても、ボクは味方だから安心していいよ。しゃるるーが困ってても、ボクは助けに行ってあげるからね」
さて、BBさんのこの申し出は、いまのうちにはっきりとお断りしておいた方がいいかもしれませんねぇ。
「あなたがシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)さんね。
百合園推理研のめい探偵ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)さんやマジカルホームズさん、あと少年探偵の弓月くるとくんともお知り合いなのよね」
背後からの呼びかけに、私は振りむきました。
知り合いというだけなら、犯罪王ノーマン・ゲインともそうなのですが。
プライベート・ディテクティブとして聞きなれた不安といささかの期待がこもったその声は、結果として、私をこの事件の内側へと誘う前奏曲だったです。