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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション



比賀一(ひが・はじめ)

割り込むようで悪いな、PMR(パラミタミステリー調査班)の比賀一だ。
あまねからメールはもらってたんだけど、いろいろと忙しくて、今回、俺は出遅れた。
気がつきゃ、PMRの他のメンバーは、コリィベルに行っちまってるし、となると、つまり、事件はもうはじまってるってことだったんだよ!
な…なんだってェ!?
てな感じだな。
パートナーのヒゲこと翼の折れた守護天使ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)と二人でお留守番しててもしょーがないんで、俺はあえてコリィベルには行かず、外で情報を集める作戦をとった。
標的はコリィベルの運営団体「ゆりかごの揺らし手」。
日本映画の製作委員会方式とでも言おうか、誰が中心人物で、どんな組織系統をしているのか、実体のつかみにくい連中だが、周辺からヤバイ噂だけはごまんと集まったてきたぜ。
中でも俺が気になったのは、揺らし手がコリィベルのスタッフとして雇ったメンバーだ。
地球で問題を起こした医者、警官、聖職者。フダつきのやつらを積極採用して、ゆりかごにどんどん送り込んでるらしい。コリィベルっては、人工的に造られた地獄みたいだな。
「通称ヌィエ。
オリジナルの心霊治療行う自称医師。
あんたには、いま現在も有効な逮捕状が世界各地合わせて五十四通、あんたの患者、ようするに被害者たちからの告訴が千二百余件ある。
地球でもパラミタでもお尋ね者のあんたを探しに、俺はここまでやってきた。
一応はな。
コリィベルについて調べてるうちに、あんたの被害者の会に依頼されたんだ。あんたを地球に連れてきてくれってな」
「俺は一に連れられて、ついてきたってわけだ。ロクに酒も飲ませてもらえずによ」
俺とヒゲがヌィエらしき人物とようやく接触できた時、やつはすでに捕らわれの身だった。
やつを捕まえたのは、高峰結和(たかみね・ゆうわ)と{SFL0034185#アンネ・アンネ3号}。二人は偶然、やつと出会って、危険さを本能的に察知して、やつが怪しげな術を行う前に問答無用で縛り上げたそうだ。
たいしたカンだな。
「カンというか、僕はたぶん、過去に彼と会ってるんだ。思い出したくないけど、きっとね」
「私はヌィエさんがどういう方なのかよくわからないのですが、3号が、彼に対して過剰に反応しているので、なにかあるじゃないかな、と思いまして」
アンネ3号はまじめそうなやつで、高峰は普通の女の子だ。
この場には他にも、やたら元気なミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)、なにかと言うとバールをぶんまわすアヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)、知り合いっていやぁ知り合いのアルビノ野郎ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)、さらに黒マントの死神かわい歩不までいやがる。歩不はケガをしてるとかで座り込んで、下をむいてて、寝てるようだな。
俺とヒゲが来た時にはもう全員揃ってた。
「どうすんだ。ヌィエをいただいて引き上げるか。俺は、早く一杯やりたいんだよ」
「るせー。ヒゲ。飲むことしか考えてねぇだろ。
PMRの他のメンバーと会ったり、こいつがヌィエ本人なのかたしかめなくちゃいけねぇだろうが」
「まだ働かせんのかよ。こき使いやがって」
「今回、おまえはまだなんにもしてねーよ」
やる気のないヒゲと話してても、時間のムダだな。
「本名、経歴ともにヌィエの正体ははっきりしてないんだ。
こいつと話をしたいんだが、かまわないな」
誰も反対しないので、俺は尋問するために手帳を開く。
ヌィエ本人しか知らないはずの事実をこいつが知っているか確認するためだ。
正直にこたえてくれるとは限らないが、なんらかの反応はするだろう。
言葉以外の表情、しぐさから俺が、真実を読み取れればいいが。
今日のヒゲはまるでアテになんねぇしな。
「FBIがおまえとの司法取引を望んでいる。
米国でかって暴れんまわったおまえは、このままだと各州の州法によって、死刑や懲役六億年の刑を受けることになるそうだ。しかし」
「FBIは、アメリカは、私のなにを欲しがっているんだい」
長身で猫背のやつが、上目づかいに俺を眺めた。
「取引の条件は、おまえが抜きとったすべての要人の魂の返却だ」
「クッククククク。すべてなんて、持ってるわけないだろ。
私は奪った魂を他のやつに入れて変化をみるのが楽しいんだ。
そこの彼みたいな、空っぽの人形の中に大量殺人鬼とか、爆弾テロ犯とかの魂を入れられたら…どうなると思う。あんな興奮を味わえる遊びは、他にはないよ。
盗んでそのままにしてある魂なんて、ほとんどないですね。
取引はこれでなしか。
あー残念、無念。
いや、でも、ここでの最新の実験の結果がそろそろでる頃なんで、それを楽しみにして生きるとするか」
「実験。
あんた、なにをしたんだ」
アンネ3号が、ヌィエの襟首をつかんで体を揺さぶった。
「こわいお人形にいじめられても、私は口を割ったりはしないさ。
きみらも私と一緒に待つんだ。
私が仕込んだ魂が暴走をはじめるのを」
「なんでそんなこと言うのー。みんなが困るでしょ。早く話しなさいよ」
「私がバールで頭をぶっ叩いて、人格矯正をしてあげようか」
「トラップ発動は確定ってか。ありがとうございます。
つまり、どんな手を使ってでも、極悪メディスンをしゃべらせていいって意味だろ」
ミシェル、アヴドーチカ、ヴェッセルが、それぞれに動きだす。
歩不のやつも面をあげ、表情のない、左右が微妙に非対称な顔をヌィエにむける。
「生ぬるい」
気配を消していたのか、いつの間にかヌィエの隣に立っていたそいつは、手甲につけた鉤爪の鉄の切っ先をヌィエの頭の上に無造作におく。
爪は頭皮にめり込み、やつの顔はしたたり落ちてくる血でまだらに汚れた。
「ガァアア。誰だ。痛いじゃないか」
「置いただけだ。二撃めには力を込める。
話さないのなら、貴様が死んでも状況に大差はない」
「銀。
ここまで来てくれたんだね。
みんな、私のパートナーの影月銀(かげつき・しろがね)だよ。
銀。この人は悪い人だけど、私、ケガをさせるのは、よくないと思うの。
私を探して気がたってるんだね。ごめんなさい。謝るから、暴力はやめようよ」
「俺が調べたところ、こいつはこの施設の諸悪の根源の一人だ。
連中はシャレのきかない大バカどもで、人の命の重さを知らない。
ミシェルは見ないでくれ。
三秒すぎた」
銀髪、銀目の黒装束の銀は、鉤爪を平然と振り上げ、今度は勢いよくおろした。
おいおいおいおいおい。ヌィエの頭、すごい状態になってんだが。
血の噴水かよ。