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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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第三章 駄菓子大食い大会

 蒼空学園の体育館。ぎっしり集まった観客が見守るのは、大食い大会に出場する生徒達だ。
「よっ、また会ったな」
「こんにちは」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が右手を挙げたのが、プラム・ログリス(ぷらむ・ろぐりす)。傍にはアルベルト・インフェルノ(あるべると・いんふぇるの)がお茶の準備をしていた。
「よろしければどうぞ」
 アルベルトはグラキエスやアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の分もお茶を入れた。
「おー、あそこにいるのが、俺の友達のロアなんだ。良かったら応援してやってくれよ」
 プラムの目にロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)と付き添いのレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が見える。山盛りのうまし棒を前に、今か今かとスタートの合図を待っているようだ。

「「「皆さん、こんにちはー!」」」
 正面のステージには小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)火村 加夜(ひむら・かや)が立っている。
 3人ともニコヤカな表情をしているが、少しでも良い位置を確保しようと、懸命に肘や肩でぐいぐい押し合っている。
「ちょっとぉ、あたしの番ですぅ」と聞こえたかと思うと、レティシアが進みでる。
「もう分かってると思いますがぁ、簡単にルール説明をしますねー。食べる時間は3時間でーす。その間に一番たくさん食べた人が優勝ですぅ。ただし30分ごとにー、食べた数が少ない半数が失格となるので、あんまりのんびりしてたらだめだよぉ」
 参加者の中から「おー!」と歓声が上がる。
 レティシアが引っ張られて、加夜が前に出た。
「ではここで、大会のスポンサーである村木のお婆ちゃんからご挨拶です」
 加夜に促されて、村木お婆ちゃんがマイクの前に出る。
「いつもひいきにしてくれてありがとう。若い人はたくさん食べられるでしょうけど、無理はしないでくださいね」
 再び参加者から「おー!」の歓声が上がった。
 村木お婆ちゃんが加夜に案内されて招待席に座ると、今度は美羽がマイクを持つ。
「みんなー用意は良いかなー? それではスタート!」
 プァーとラッパの音が鳴ると、200人を越える参加者がうまし棒に向かい始めた。

「始まったな」
 運営を担う生徒も気を引き締める。
 椎名 真(しいな・まこと)は食べている生徒の間を歩きながら、不正や危険行為が無いかを見て回った。
「後々のことを考えて、最初にごまかそうとするかもしれんな」
 注意深く目を光らせるが、彼のチェックに引っかかる参加者はいなかった。
 最初に猛然と食べ始めたのは、薔薇の学舎に所属する大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)だ。
「小銭の執念! 小銭のためなら親でも売れる!」とうまし棒を立て続けに放り込んだ。
 この3日間断食して大会に挑んでいるので、食べることに対しての欲求は、極限まで大きくなっていた。
「絶対優勝して、駄菓子1年分と焼きそばパン優先券をゲットするんや!」
 激しい勢いで食べ進んでいく。
 その反対にマイペースで食べ進める参加者も多い。中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)はまとった漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)と共に、スプーンでうまし棒を割る。数本割り終えた後に、一定のペースで口に運んだ。
「この大勢の中を勝ち上がる自信はありますか?」
 ドレスの呼びかけに綾瀬はあっさり首を振った。
「さすがに無理」
 一口水を含んで答える。
「むしろうまし棒やこの雰囲気を楽しみましょう。その方が私らしいですもの」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は5本食べたところで手が止まる。
「ふぅ、もうお腹いっぱいになっちゃったー」
 その後も頑張って2本食べたが、それ以上は入りそうになかった。
「グリちゃんもだけど、みんないっぱい食べるのねぇ」
 パートナーのイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)はうまし棒を牛乳に浸して食べていた。
「この方法ならいくら食べても口の中の水分を持っていかれないし〜適度に軟らかくなるので顎も疲れないにゃ」
 お供のDSペンギンも、イングリットに風を送ったり汗を拭いたりと献身的に世話をしている。
「グリちゃん、がんばれー!」
 葵の応援に、イングリットがニコッと笑った。

 始まってすぐに目を引いたのがウーマ・ンボー(うーま・んぼー)である。魚類の参加もさることながら、その独特な食べ方が注目を集めた。
 まずサイコキネシスでうまい棒を操る。そしてウーマ自身が宙返りして、袋をヒレで切り裂いた。ポロリとこぼれ落ちるうまし棒を、コッコッコッコッ!と歯が当たる音を響かせながら口の中へと運び込んだ。
「うーむ! これならいくらでもいけそうです」
 次々に食べていくウーマを見ながら、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は「マンボウもやるじゃねえか」とのんびり観戦していた。しかしペト・ペト(ぺと・ぺと)が「アキュート、なんかウーマの様子が変ですよ〜」と言うので、顔を向けるとウーマが苦しそうにもがいていた。
「マンボウめ! 詰まらせやがったな!」
 しばらくはジッと耐えていたウーマだったが、堪えきれなくなって、またしても暴走しはじめた。ただし注目を集めていた分だけ、運営担当が対処するのも早い。 
 最初に飛びついたフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)は必死にしがみつくだけだったが、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が「しっかりつかまってろよぉ」とウーマに縄をかける。椎名 真(しいな・まこと)がどこからか持ち出した大きな網で掬って救護班に運び込んだ。
「大物ね! で、3枚下ろしにすれば良いのかしら?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が舌なめずりをした。
「おい、これでも大切なパートナーなんだ。食われちゃ困る」
 救護室に駆けつけたアキュートが心配そうに見た。
「ごめん、ダリル、行けそう?」
 しかしダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も対処をしかねた。万一の時は光条チェンソーで気道を塞いだ塊を押し出すつもりだった。切る対象を選択できる光条兵器ならではの芸当だ。
「たがマンボウとは……、それこそ3枚下ろしならできそうだが」
 常ならぬダリルの冗談にルカルカがプッと噴き出してしまうものの、アキュートの睨みで「ごめんなさい」と小さく舌を出して首をすくめた。
「ペトが行くですよ!」
 アキュートの肩に乗っていたペト・ペトがウーマの口に飛び込んだ。身長が10センチ足らずのペト・ペトならではの、とっさの行動だ。
 心配そうに見守る一同の前に、触手にうまし棒をくっつけたペト・ペトが出てくる。ドロドロにはなっているものの「もう大丈夫なのですよ〜」と元気そうだ。 
 息を吹き返したウーマが、ポロポロと涙を流した。
「ウーマ、まだ苦しいですか?」
 ペト・ペトがウーマのお腹を撫でる。
「漢は苦しくて泣くのでは無い。仲間の優しさに涙するのだ」

 豪快さではなく、鋭さで目を引く参加者もいる。シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)がその1人。
「まゆりよ、お主はまだまだ甘いわ! 700年生きたわらわの辞書に不可能の文字はない! 見よ! この業(ワザ)を!」

 ぽん!

 シニィは机に置いたうまし棒を上から軽く叩く。すると袋から出てきたうまし棒が4本に割れていた。
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)のカメラが近づくと、うまし棒がアップで映る。次の1本、また次の1本も、きれいに4等分されていた。
「わらわが太いままの棒を咥えて醜態をさらすと思ったか? それではコレをつまみに酒を楽しむとしようかのう」
 シニィが持ち込ませた樽には、ワインが入っている。うまし棒をつまみに、グラスを傾け始めた。
 歯噛みしているのは観客席で観戦していた羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)である。
「まだよ! これは大会! あんな食べ方で良い成績が残せるはずが……?」
 レポーターのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が驚きの声で中継する。 
「シニィ選手、4等分ながら、食べる速度が早い。それに酔う気配が全く見えません」
「なんか目立ってるし、注目あびてるし!? コレじゃ仕返しにならないじゃないー!」
 地団駄を踏んでも、大きな歓声にかき消されてしまった。
 酒の肴にうまし棒をと考えてきた参加者は他にもいる。東條 葵(とうじょう・あおい)はウィスキーだった。
 ジャケットとベストを脱いで首元緩める。こぼしても平気なように膝にハンケチを敷く。無駄に、優雅に、美味しそうに、さくさくぱりぱりとうまし棒を口に運んだ。
 こうなると横に居る付き添いの東條 カガチ(とうじょう・かがち)は手持ち無沙汰だ。
「涼しい顔して良く食うよなぁ。食うって言うより飲んでるよなぁ」
 うまし棒の補充にのみ働いた。
 ワイン、ウィスキーと来たからではないだろうが、道田 隆政(みちだ・たかまさ)は日本酒だった。うまし棒を肴にしつつマイペースで飲んでいく。うまし棒を食べに来たのか、酒を飲みに来たのか分からないのは、シニィや東條葵と似ている。

 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は持参したビーフステーキのソースをうまし棒にかけて食べていた。しかし……
「さすがにチョコ味にステーキソースは合わないか」
 早くも組み合わせに限界があるのを感じた。とりあえず甘い系のうまし棒は避けた。
「香奈恵はどうしてる?」
 パートナーの君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)を見ると、チーズで束ねて口へ入れている。
『無理すんなよな』と思ったところで、今度は5本を、続いて7本を束ねて食べようとした。
「それはいくらなんでも……」
 勇刃が止める間もなく、香奈恵は喉に詰まらせた。
「言わんこっちゃない」
 勇刃は苦しむ香奈恵をお姫様抱っこすると、医療班へと運んだ。
「次々に来るな。まぁ、人であれば」
 ダリルが光条チェンソーをひと振りすると、香奈恵の喉に詰まったうまし棒が転がり出た。
「無理すんなよ」
「健ちゃん、大会は?」
「香奈恵が心配なのに、うまし棒なんて食べてられるかよ」
「健ちゃ、ううん、勇刃……」
「香奈恵……」
 感動的なシーンに思われたが、パシッと激しい破裂音で打ち破られた。
「何やってんのよ! あたしのためって言うなら、頑張って優勝貰ってきなさいよ!」
「ったく、ひでえな」
 頬に赤い手形をつけた勇刃はテントを出る。
「まだ時間ある?」
 椎名 真(しいな・まこと)は『可哀想に』と思いつつ、笑いをこらえて「ああ、急げば間に合うだろう」と答えた。