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実録! 空京万博!

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 第2章 未来パビリオンのイベント

■□■1■□■ 良雄と未来パビリオン

そのころ、未来パビリオンにて。

セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、
未来パビリオンのコンパニオンであるが、VIPの護衛任務にも参加していた。

「イナンナやミルザム、ウィルソン大統領が誘拐された今、
いつまた事件が起こるかわからないからね。
建物の構造とか、コンパニオンとして回ってある程度は把握したから、
どこが死角になるか注意して回りましょ」
「本当に大丈夫なの?」
自信満々に言うセレンフィリティを、セレアナがジト目で見る。
「これでも要人護衛の訓練は受けてるのよ?」
およそ軍人らしからぬ、大雑把な性格で、
「壊し屋セレン」ともあだ名されるパートナーに、セレアナが嘆息する。
「かえって大事件にならないといいんだけど」
「何か言った?」
「ううん、別に」

さて、アスコルド大帝こと、御人 良雄(おひと・よしお)を案内するのは、
佐野 和輝(さの・かずき)である。

和輝は、この機会に、アスコルド大帝と仲良くしたいと考えていた。
(打算があるのは認めるが、それを抜きにしても彼の波乱万丈な人生を聞いてみたい俺もいる)
「アスコルド大帝。
せっかくの万博ですので、
よろしければ、堅苦しいのは抜きにしてお話させていただいてもいいですか?」
「もちろんッス!
オレも、普通に接してもらった方がうれしいッスよ!」
「そうか。じゃあ、行こう」
「はい、和輝さん!」
こうして、アスコルド大帝の方が後輩のような会話になった。

「フヨフヨ〜♪」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)は、
空飛ぶ魔法↑↑で身体を少し浮かして移動する。

「にしても、皇帝も楽じゃないんスよ。
エリュシオンの歴史とか、政治のこととか、
オレ、全然知らないから、毎日、勉強しなきゃならないんス。
ひさびさにシャンバラでリフレッシュするッスよー」
「うえ? 皇帝さん、勉強嫌いなの? アニスもだよ〜♪」
普段は人見知りで、初対面の人の前では、
和輝の陰で隠れて見るだけのアニスだが、
なぜか、アスコルド大帝には気後れすることなく話すことができる。

(いかつい外見だが……。
これも、アスコルド大帝の人徳か?)
和輝はそう思う。

★☆★

こうしていると、
一行は、
キャバクラ「わるきゅーれ」空京万博店主催の
イベントにやってきた。

「キャバクラ? オレには心に決めた人がいるッス!」
慌てるアスコルド大帝だが、
「飲み物を少し飲むだけならいいんじゃないか?
ちょうど、面白そうなイベントをやっているぞ」
「そうッスか? じゃあ、それくらいなら」
和輝に言われ、
イベント「カクテルはいかが?」に参加することにした。

「カクテルはいかが?」とは、
クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が、
バーテンダーとして、シェイカー片手に各種の飲み物を作り、
舌と鼻に自信のある競技参加者たちに提供、レシピを言い当てさせるイベントである。

「試飲用とは言え、可能な限り美味しい飲み物を提供して、
たっぷりと満足して貰うとしよう」
クレーメックは、
味や香り、口に含んだときの清涼感などにも気を配り、
競技には関係無く、カクテル自体を楽しんで貰えるように留意している。

クレーメック自身は、客に提供するカクテルを作るというのは初めての経験だったが、
記憶術で世界のカクテルのレシピを覚え、
備えていたのだった。

「うーむ、一口にカクテルと言ってもこんなに種類があるのか……
何とも奥が深いな」
事前準備の際、クレーメックはそう述べたものである。

しかし、カクテルはすべて「アルコールに似た何か」にしなければならない。
間違って、レシピ通りにアルコール入りのカクテルを作らないよう、
クレーメックは注意していた。

「これはアスコルド大帝!
ようこそいらっしゃいました。
どうぞ、店内へ」
島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)は、
イベントを盛り上げるために、大胆なデザインの衣装で、
カクテルの入ったグラスを手に、客寄せをしていたが、
アスコルド大帝を笑顔で迎え入れる。

「おい、あれ……」
「ああ、アスコルド大帝だよな?」
アスコルド大帝の姿を見て、恐れおののきつつも、周りには人だかりができる。
(おかげで、イベントが盛況になりますわ)
ヴァルナは、人が集まってきたのを見て、満足げにうなずいた。

「アスコルド大帝!
こういう時は毒見が必要よ!」
護衛をしていたセレンフィリティが飛び出し、
カクテルを片っ端から飲み始める。
「うーん、おいしー!
あ、これ、おかわりね!」
「ちょっと、何してるのよ。手段と目的が入れ替わってるでしょ」
セレアナがパートナーに突っ込む。

★☆★

一方、同じキャバクラ「わるきゅーれ」空京万博店で開催のイベント
「ご利用は計画的に!」では。

「あああ……ど、どうして、僕がこんな格好をッ!?
い、いやぁ……は、恥ずかしいよぅ……そんな目で見ないでぇ……!!」
ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が、
店長のハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)の、
「イベントを盛り上げるには、ノーマルなコンパニオンだけでは不足だ!」という主張により、
強制的に女装させられ、
椅子に縛り付けられて、参加者たちの前に引きずり出されていた。
「……」
レナ・ブランド(れな・ぶらんど)は、ひきつった笑みでパートナーを見る。
ゴットリープは、
セーラー服を着せられ、女子中学生の格好の上に、
頭にはウイッグ、顔には化粧と、
かなりマニアックな恰好をさせられていた。

「あ、あの……」
「いらっしゃいませー」
レナは、ゴットリープの助けを求めるような視線を無視して、接客に戻っていた。

イベント「ご利用は計画的に!」は、
いわば、買い物競争のようなゲームである。
ゲーム開始時、参加者には一定金額まで買い物ができるカードが手渡され、
制限時間内に、万博会場内で、
コンパニオンへの贈り物を購入し、
最も多くのコンパニオンを満足させた者が勝者となる。
勝者には「ベスト・オブ・ミツグ君」の称号とコンパニオンたちからの祝福がプレゼントされる。

「きゃああああ、なにそれええええ」
「おお、喜んでいるぞ!」
「よし、彼女を攻略するのが効率がよさそうだ!」
ゴットリープは、嫌がっているのだが、パニックのため、
女性用の下着や水着、化粧品を喜んでいるようにしか見えない。
そのため、次から次へと参加者がゴットリープに殺到していた。

そんな騒ぎが繰り広げられる中。

「オレも好きな女の子を振り向かせるには、
あれくらいやらなきゃダメかもしれないッス!」
アスコルド大帝が決意していた。
「いや、どうだろうな……」
和輝が苦笑する。
和輝も、よく、女装しなければならない状況になることがあるので、
ゴットリープを見て複雑な気持ちだった。
「でも、和輝のほうがきれいだよねー?」
「……その話はいい」
アニスに言われ、和輝が首を振る。

すると。

「さあ!
『人間マージャン!』の開催だ!」
キャバクラ「わるきゅーれ」空京万博店の店長、
ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が、イベント開始を告げる。

「人間マージャン」とは、
その名の通り、人間が麻雀牌となるゲームである。
毎巡、各家1人ずつの捨て牌を選び、
殴り合いで勝ち残った順に、ツモ牌を引いていく。
他家の捨て牌に鳴きを入れたり、ロンを宣言する場合も相手を倒す必要がある。

東4局終了時、一位のチームにはお店から素敵な賞品がプレゼントされる。

「麻雀と格闘技のコラボか……コイツはハマるヤツ続出だろうな!」
エキサイトするハインリヒとは対照的に、
天津 亜衣(あまつ・あい)は、
欲望に溺れて背中が煤けた男たちには、嫌悪を禁じ得ない。
しかし、表面上はあくまでにこやかに対応する。
「さあ、楽しんでいってね!」

なお、この「人間マージャン」は、
ハインリヒが、宣伝広告を使用し、マスメディアを通じて広く競技参加者を募集していた。
しかし、危険なので、参加は契約者のみとし、
そうでない者は観戦のみ可能にしている。

「レディー、ファイッ!」
ハインリヒがレフェリーとして、試合開始を宣言し、
男たちが殴りあいを始める。

その様子を見て、
アスコルド大帝は、震え上がる。
「ひええええ! カツアゲされてしまうッス!」
「あ、待て!」
逃げ出したアスコルド大帝を、
和輝が慌てて追う。