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昼と夜の狭間、黄昏の黄金

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昼と夜の狭間、黄昏の黄金

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第一章 その場所は

 「シズル。シズル!」
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)はシズルこと現・ファナ・ユースウェルを抱きしめた。
「ああ、シズル。もう離さないわ!」
 満足そうにファナの頬につかさの顔を摺り寄せている。
「あの……、つかささん?」
「ん、何かしら?海様」
 少し引きつった笑みを見せる高円寺 海(こうえんじ・かい)に視線を向ける。
「どうかしましたか?」
 海はつかさでは無く、ファナに視線を送っていた。
「ファナさんが困った顔をしてますが……」
「あら?」
 つかさがファナに注意を戻すと、顔を真っ赤にしたファナが視線を右往左往させて対応に困っていた。
「これは失礼」
 抱きついていたファナから身体を離す。
「あの、つかささんは何故此処に?」
 場を仕切り直すように海がつかさに尋ねる。
「そんな事は決まっています!シズルが涼司様から依頼を受けたと聞いてみれば、此方に帰還していないと言うではありませんか。まったく……シズルをこんな目にあわせるなんて涼司様にはそのうちお仕置きが必要ですね……」
 つかさの肩から黒いオーラが出ているのが、海とファナにも見えていた。
(黒いな……)
 何て事を思ったが、保身の為に口には出さないで置く。
「お、お手柔らかにお願いします」
 宥める様に話しかける海。
「ファナ様とおっしゃいましたか……その身体、傷つけたら許しませんよ?」
「は、はい。ち、注意します」
 怯えた小動物の様に、ファナはコクコクと頭を上下させた。
 ファナに黒いつかさが微笑む。
「ふふっ、シズルには指一本触れさせませんよ?」 
「ひっ……」
 ファナから小さいに悲鳴が聞こえたのは、つかさには内緒だ。
「はは……」
 乾いた笑い声を零すしか海には出来なかった。

 「!」
「危ないですよ……」
 つかさ達の不意を狙っての投擲だったようだが、清泉 北都(いずみ・ほくと)の『サイコキネシス』が短剣を撃ち落す。短剣は海の眼前を走り抜け、地面に鈍い音をさせて突き刺さった。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう……ございます」
 離れた位置で片手を掲げた北都が立っていた。
「そうですか、良かった」
 嬉しそうに微笑むと北都はつかさ達の元へと歩いていく。だが、油断無く北都の目は麦畑のある一点を捉え続けている。
「おい、もっとしっかり狙いやがれ」
 北都の視線の先、長身の細長い男が丸々と太った小男を叱り付けていた。
「す、すいません。アニキ!」
 ペコペコと頭を下げて、小男は平謝りする。
「おっと、動くなよ」
 短剣を左右の手で弄びながら、北都達を値踏みする様に見下ろす。
「大丈夫ですよ……」
 北都とつかさは背後にファナを庇う様に隠す。
「おい、動くんじゃねえ!」
 小男が声を荒げ、恫喝する。長身の男は下品な笑いが得意の様だ。相手を小馬鹿にする挑発的な視線が北都達に絡みつく。
「誰です?」
「俺達が誰かって?」
 細身の男が上機嫌で嫌味な視線を北都達に送ってくる。
「俺達はドコイ盗賊団だ。もちろん知ってるよな?」
「……どちら?」
「知らないな」
 北都と海の冷めた態度が気に入らないのか、細身の男が下品な笑みから怒りの顔に変化した。
「おい、その生意気な口を閉じろ」
「……」
 言われた通り、北都達は黙って細身の男が話すのを待つ事にした。
「何とか言ったらどうだ?」
「「……」」(一同)
 特に逆らう気も無かったので、全員は黙り続ける事にした。
 細身の男の勢いに続いて、小男も勢い付きだした。何も理解していないのだろう、ただ口を開いて威圧の言葉を口にしてくる。
「ああ?」
「「……」」(一同)
「黙ってんじゃねえ!!」
(何がしたいんでしょう?)
 北都の気持ちを代弁して、海がしょうがなく口を開いた。
「お前が口を閉じろと言ったんだが……。どっちなんだ?」
「っ〜〜〜」
 細身男の怒りが頂点に達したのか、男の顔が真っ赤に染まる。
「てめえ!!」
 腰に括り付けた粗末な長剣を抜き、声を荒げる。
「おい、やっちまえ!」
「へ、へい!アニキ!」
 細身の男に命令され、小男が剣を抜いて走り出す。
「オレが――」
「此処は僕が……」
 前へ出ようとする海を左手を挙げて、北都が制する。
「な、小僧!舐めやがって!」
 線の細い柔和な顔の少年など相手にならないと思ったのだろう。実際は全くの思い違いなのだが……。

「『サイコキネシス』」
 垂らした手首を軽く振ると、地面の小石が浮き上がり、小男の顎を打つ。
「あ……」
 ファイティングポーズを構え、北都は小男にステップを踏んで急接近する。
「『財天去私』」
 間抜けな声を上げて、ふらつく小男の顔面に一撃の右拳を上から下へと振り抜く。
「ぶほっ!」
 小男は頭を地面に擦り付けて転がり、そのまま気絶した。
「これで一人目ですね」
 ファイティングポーズを維持したままの北都の目がスッと細くなる。
「続けますか?」
「くっ……」
 苦い顔で北都を見下ろす。幾ら考えても良い案が出ないのだろう。顔の苦渋の表情がどんどん険しくなっていく。
「ぉ、覚えてろ!」
 漸く吐いた捨て台詞で小男を引き摺りながら、男は逃げていった。
「やっと帰りましたか。面倒事は嫌いなんだけどねぇ」
「すいません。助けて頂いて」
「いえ。怪我が無くて何よりです」
 やんわりとした笑顔でファナにそれ以上の謝罪をさせないでおく。

 「あ、居ましたよ。おーい!」
「翡翠さん達の様ですね」
 北都が声をした方を見やると、麦畑の中に続く道を神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)山南 桂(やまなみ・けい)が此方に向かって歩いてくる。
「こんにちは」
「ええ、こんにちは」
 簡単な挨拶を済ませると、翡翠が自分達が歩いてきた道を目で指した。
「先程、慌てた2人の男性とすれ違ったのですが。何かありましたか?」
 海達は顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。
「ああ、なるほど。そう言う事ですか」
 海達の説明を聞いた翡翠達は相槌を打った。
「捕まえておけば良かったのでしょうか?」
「あの程度なら、問題ないと思いますが――」
「あの、宜しければ村に来て頂けますでしょうか?先程のお礼もしたいので……」
 遠慮気味にファナが申し出てきた。
「「ええ、お願いします」」

 「こうして見ると、普通の麦畑と変わりませんねえ」
 翡翠がぐるりと見渡す限り、広大な麦畑が続いているだけだ。
「そうですね……。現れたり、消えるとは、蜃気楼のような感じです」
 桂も変わった物がないかを探している様だ。
「言い伝えでも有れば、盗賊の狙いもはっきりすると思いますが、手掛かりあまり無いですねえ」
「すみません。少し聞きたいのですが?」
 囁く様な感じで、翡翠はさり気なく尋ねた。
「何です?」
 キョトンとした顔で、ファナが振り向く。
「あなたは、ずっと此処に居たんですか?」
「はい、私達はずっとこの麦畑に住んでいます。農耕民族と言うんでしょうか?農業で生活をしています」
 ふっと笑うファナの仕草は、懐かしむ様な哀愁を感じさせる。
「あと、この麦畑は代々あなた方が大切に育ててきた物でしょうか?」
「ええ、先祖代々で引き継いでいます。御蔭で食べるものには困りません」
 ファナは恥ずかしそうに笑う。 

 「よお」
 村には既に弁天屋 菊(べんてんや・きく)が来ていた。村の端っこで何かを組み立てている。
「何をしているのですか?」
 北都が興味深そうに尋ねる。あまり普段から見ないものなのだろう、北都の目が菊の細かい動きを追っている。
「はざかけ用の支柱を作っているんだよ」
「はざかけとは?」
「えーっとな。ある程度長持ちさせる為に麦も軽く乾燥させる必要があるんだよ。あんまり水分が多いとカビとか生えるからな」
 視線を動かさずに菊は目の前の作業に集中するが、口だけは開くことにした。
「「へー」」
 菊の農業知識にはただ頷くしかなかった。当の本人は自慢するわけでもなく、作業をこなす。普段からやり慣れているのだろう、菊の作業には無駄がない。
「どうだ?お前等もやるか?」
 菊の提案に全員が顔を見合わせる。やってみたいが、手伝いをしてて良いのか思案をしている顔だ。
「じゃあ、僕が手伝うよ!」
「いえ、私がお手伝いさせて頂きます」
 「あれ、クナイ」
 北都が参加を表明すると、隣にクナイ・アヤシ(くない・あやし)が控えていた。
「勝手に何処かへ行かれては困ります……」
 ジッとクナイが北都を見つめる。
「う”……。ごめんなさい」
「と言う訳で、私がお手伝いさせて頂きます」
「おう!じゃあ、頼むわ」
 細めの丸太を2人でくみ上げて、やぐらの様な物を建てていく。クナイが丸太を支えている間に、菊が丸太同士を縛っていく。
「辛くなったら、言ってくれ」
「いえ、構わず作業を続けてください」
「おう、頼もしいな」
 8つばかり建てた所で、今回は終わりとなる。菊はポンポンと自信作を撫でている。
「後は、此処へ麦を掛けていくだけだ」

 「♪〜♪〜〜」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)から陽気な鼻歌が聞こえてくる。
 シャーレット達は本格的な刈り取りの前の準備を依頼されていた。麦畑の周囲の草を綺麗に刈り取っていく。
(まったく……そんな恰好で変な歌いながら農作業って、どこのマニアックなグラドルのDVDなのよ)
 水着で鼻歌というシャーレットの素敵な様子をサクッと無視して、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はあくまで他人を貫く事にした。
 セレアナの指摘する通り、シャーレットの格好は麦畑において浮きまくっている。が、その指摘したセレアナも同様に浮きまくっている事は本人には触れないでおく。
「♪〜♪……」
 不意にシャーレットの鼻歌が止まる。自作の作曲が終了した様に見えたが、違った様だ。麦畑の中をジッと睨んでいる。陽気な笑顔はなりを潜めていた。
「出てきな、遊んでやるよ……」
 『防衛計画』で麦畑周辺の地形などを把握し、盗賊たちがどこから侵入するか。そのルートの策定は出来ていた。後は、農作業をして来るのを待つだけだった。
「かははっ、斥候隊が見つかっちゃ世話ねえぜ」
 麦畑から5人の男達が姿を覗かせた。手には短剣を握り、刃をシャーレット達にチラつかせる。
(サッサと脅せば良いのに……)
 つまらなそうに刃の先を見ながら、セレアナは思う。早く片付けて、農作業を続けたいというのが本音だった。
「てめえら其処を――」
 何かを言おうとした盗賊の男が気絶した。意識を失い、膝からカクンと仰向けに倒れる。
「時間切れ」
 既に引き金は引かれていた。『音波銃』から放たれた高周波が男の三半規管にダメージを与える。
「……さーて、あんたらが欲の皮を突っ張らせた上に鼻の下まで伸ばしてまで何を欲しがってるのかは知らないけど、残念ね。何もゲットできなくて」
 セレアナだけに関わらずシャーレットも同様だった。早く農作業に戻りたいのだ。
「やっちまえ!」
 興奮した男の一声で全員がシャーレットに殺到する。
「『シーリングランス』」
 遠心力でしなやかに沿った槍の柄が2人の男達を吹き飛ばした。
「眠りなさい!」
 『ライトニングランス』を放ち、石突が紫電の如く動き空中の男達を高速で打ち据える。男達の体はそのまま畑の外へと落下した。
「終わったの?」
 セレアナに声を掛けたシャーロットは銃を片付けていた。
「邪魔ね」
 おもむろに振った腕が『サイコキネシス』を放ち、男達を畑の外へ叩き出した。
「どうする、これ?」
 気絶した男達を指差し、セレアナは思案する。
「縛ってほって置けば良いでしょ」