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昼と夜の狭間、黄昏の黄金

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昼と夜の狭間、黄昏の黄金

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第四章 収穫

 「よ〜し、頑張って収穫するぞー!」
 戦いから一夜明け、その日は村を挙げての収穫となった。収穫をする者、採れた麦を使用して料理をする。思い思いに手伝いを行っていた。
 中でも、笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)はかなりの意気込みだった。
「おや、早いねえ」
「楽しみで眠れなかったんだから!」
 村の年寄りより早く起床し、農具の準備を行っていた。
「今年は若い子が多くて助かるよ」
「えへっ、ボクだってこれぐらいはできるよ」
 刈り取りの方もかなりの量だった。手早く担当箇所を裁いていく。
「良い出来たよ、この麦畑は!」
 子供を褒める様に菊は麦の穂を撫でた。
 「どちらが多く刈り取れるか?あたしと勝負しようぜ!」
 紅鵡の仕事ぶりを見ていた菊が声を掛けた。
「良いよ。制限時間は?」
 麦を刈り取る鎌を構えた。紅鵡の動きは玄人のそれだ。
「30分だ。じゃあ、始めるぞ」

 「離れておるのじゃ」
 刹那が投げたリターニングダガーが麦を根元から刈り取って行く。
「おーすげー」
「かっこいー」
 手元に戻ってくるダガーを見て、子供達は興奮していた。
「そうじゃろ、ほれ」
 再びダガーを麦畑へと飛ばす。後はその繰り返しだ。
 「仕事は良いのかい?」
 子供と戯れる刹那を見て、リアトリスが寄ってきていた。子供からは見えない様に、剣の柄に手が掛かっている。
 詰まらなそうにリアトリスを刹那は見返した。
「ふん、依頼主が死んでは如何しようもない。それに既にこいつらから依頼料を貰っておる」
 刹那のポケットに幾束かの麦が乱雑に突っ込まれているのが、リアトリスにも見えた。子供達が落ちている麦を強引に詰め込んだのだろう。
「依頼主は裏切らぬよ」
「ふ……なら良いんだ。僕はもう行くよ、向こうで踊りの余興を頼まれている」
 念の為、確認をしたかったのだろう。答えを聞くと、リアトリスは背を向けて歩き出していた。
「人気者は辛いのう……」
 微塵も心に思っていない事を口にして、刹那は戯れに戻った。

 「ああ、シズル」
「あの、皆さんが見ています……」
 周囲の視線に加能 シズル(かのう・しずる)は、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
 シズルをぎゅっと抱きしめ、つかさは場所に構わずずっとこの様な調子だった。
「構いません。あんまり私を心配させないで下さいませ」
「大丈夫です。私は此処にに居ますから……」
 温もりを確かめる様に、シズルは目を閉じる。

 話は過去に戻る。
 ルーシェリアがファナに案内されたのは、小さな納屋だった。ファナの肉体は、離れた納屋の中に隠す様に安置されていた。
「私の身体です。黙っていてすいませんでした」
「死んでいるの?」
「いえ、生きています。黄昏の黄金の時間が終われば、戻れると思います。時間が巻き戻ったとき、既に私はこの方の中にいました。貴方達にこちらの世界に来て頂く為に、必要だったのでしょう。あの水晶の映像も――」

 「疲れた方は此方で休んでください」
 麦畑にお茶の爽やかな香りが漂う。北都がお茶のセットを借りて、ハーブとブレンドした紅茶を淹れていた。
「どうぞ……」
 クナイは給仕として、やってきた人達にお茶を配っていた。エプロン姿のクナイは以外にも様になっている。
「クナイ!こちらの方にもお茶を運んであげて」
「はい、少々お待ちください」
 急ごしらえのものだったが、穏やかな喫茶店の様相となっている。用意した簡易テーブルや椅子から人が居なくなる事は無かった。

 (うどんを作ったら美味しいかな?パスタもいいな!パンやクレープも捨てがたい……)
 「麦で作るとしたらどんな料理が好き?」
 パチパチと小気味良い音を立てる釜戸の隣で、ルーは麦をこねていた。
「そうですね……、パスタも良いですが焼きたてのパンというのも捨てがたいですね」

 (海君、そう言うのが好きなんだ)
 厨房の隣の部屋で耳を欹てて柚は一生懸命メモを走らせていた。
「何してるの、柚?」
 ビクッと柚の体が跳ねる。恐る恐る振り返ると、不思議そうな顔で三月が立っていた。
「何だ、三月ちゃんか……」
 内心驚いたが、スッと胸を撫で下ろした。冷静になっていると本人は思っていた様だが。
「べ、別に……」
 あたふたする柚の先には、厨房で談笑する海とルーの姿があった。 
「……直接聞けば良いのに」
 半眼で柚を見るが、慌てていて要領を得ない。
「だって、練習してからじゃないと……」
 もじもじと言葉を柚は濁す。
(やれやれ……)
 内心、ため息が三月から零れてしまう。
 「何をしてるんだ?」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が卵を混ぜるボールを持って、厨房前の柚達を眺めていた。
「空いているなら、手伝ってもらえるかな?」
「は、はい。良いですよ」
 チャンスとばかりに三月が返事をする。
「ほら、柚も」
「う、うん」
「そうか、じゃあ頼むよ」
 ダリル達は厨房へと足を踏み入れた。
 「あ、ダリル。クレープ作ってぇ!味はチョコバナナがいいなー」
 ダリルを見つけると、『ゴッドスピード』で急接近する。猫撫で声で、ルーはダリルにお願いをする。
「早速か……」
 分かってはいたが、ちょっと納得出来ない顔だ。
 「仲が良いな……」
 少し呆れた顔で、海はそのやりとりを見ていた。
「まあ……いい相棒だな」
 ダリルが苦笑するが、否定はしない。
「高円寺にはそういう存在は居ないのか?」
「オレは特に……」
 ダリルから目を外した所で、柚が此方を見ている事に気がついた。
「……どうした?」
「べ、別に……」
 フッと顔を柚は逸らす。
「?」
 改めて、ダリルに顔を戻す。
「今の所は、まだ居ないですね……」
「そうか……」
 落胆した柚を三月が支えているのが、見えたが大人として触れないようにする。
 
 菊との勝負を終えた紅鵡が手持ちぶさたにしていると、武尊の姿が見えた。
 麦畑の傍では、武尊が炊き出しの準備をしていた。
「ボクも手伝うよ」
「助かるの」
 ナンだろうか、薄く延ばした生地を大き目の壷の内側へと貼り付けていく。
「これを貼っていけば良いの?」
「ああ、頼むよ」

 「お、美味しそうな事やってるじゃん。俺も混ぜてくれよ」
 ストライクが匂いにつられて、やってきた。
「10枚貼り付けたら、1枚食べさせてやるぞい」
「おっけー。俺に任せとけ!」
 
 「こっちに運べば良いのか?」
「ええ、お願いします」
 エヴァルトは力仕事担当で、刈り取った麦を干す仕事に追われていた。
「お兄ちゃん、かっこいー」
「そうだろ!みんな、ヒーローになるんだ!」
 ヒーロー然としたエヴァルトの格好に子供達が自然と集まってくる。が、やけに女の子が多い。
「重症ね……」
 その様子をシャーレットとミアキスが眺めていた。
 シャーレット達もまた収穫に参加していた。ミアキスがランスを払って麦を刈り、シャーレットが運ぶという寸法だ。
「あ、お姉ちゃん達」
 エヴァルトからシャーレット達が子供達を剥がしていく。
「はーい、こっちにおいで。其処にいると食べられちゃうからね」
「何を言ってるんだ?」
 不思議な顔をするエヴァルトにミアキスが振り返る。
「……ロリコン」
「な……」
「はいはい、ロリコンのお兄ちゃんはほっといて、こっちで遊ぼうね」
「はーい」

 「パン作りも意外と力が要りますね」
 パンの生地を捏ねる翡翠が呟く。
「代わりましょうか?」
 自分の分を終えた陽太が翡翠を覗き込む。
「いえ、折角ですから最後まで自分でやらないと……」
「手伝いますから、何時でも言ってくださいね」
 作業としては、大変な箇所だが翡翠達は楽しそうに作業に励んでいる。

(残念だったな)
(裏技的な物だったみたいですね)
 麦畑を眺めながら、桜は今回の件を再考していた。
(まあ、魔法の研究材料としてはありだったのかもしれません)
「どうかしましたかぁ?」
 ルーシェリアが桜を見つけて、駆け寄ってきた。口には焼きたてのパンが詰め込まれていたが。
「食べますぅ?」
「ええ、頂きます」

「はーい、写真を撮りますよ!麦畑の真ん中に集合して下さい!」
 加夜の声が麦畑中に広がる。魔法で声を拡散している様だ。

 「はい、みんな。並んでください。あ、そんなにそっちに行くと写らないですから」
「はい、撮りまーす!」