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黒の商人と代償の生贄

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黒の商人と代償の生贄

リアクション

●インターセプター

「待ちなさいっ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の凛とした声が響いて、黒の商人は足を止めた。
「おや……しつこい方がいたようだ」
 洞窟の奥深くには、外へと続く細い通路があった。……ただし、人ひとり通れるかどうか、やっとの狭さ。しかも、ほぼ崖といえる急勾配。訓練されたコントラクターならともかく、一般人であるアンリを連れては通れないだろう。
 訓練されたコントラクターであるところのルカは、何とか通ってこれたようだが。
「当たり前でしょ。警察機構の人間としても、ロイヤルガードとしても、見過ごすわけにはいかないよ」
「何故でしょう。我々はただ契約にのっとって商売をさせて頂いているだけですよ」
「何の得にもならない商売を?」
 ルカは慎重にカマをかける。
 先ほどまでの戦闘の様子を鑑みるに、今この場で、ルカ一人だけで商人の首根っこを押さえるのは、不可能ではないにしろ、難しいだろう。
 それならば、少しでも情報を引き出さなくては。

「貴方がたと同じですよ――困っている人を助けたい、それだけです」
「その割には、あっさり引いたみたいだったけど?」
「おや……そう見えましたか? ふふふ……私もまだまだ詰めが甘い……あの場まで皆様をお連れできれば、もうどうなろうと結果は同じです。依頼された願いは叶う」
 商人の言葉にルカは黙り込む。
 確かに、あの場で騒げばヒュドラが現れることは間違いないだろう。そして、そうなれば自分たちは間違いなくヒュドラを仕留める。事実、その通りになった。
 アンリが生贄になろうが、契約者たちが力ずくで倒そうが、村長の願いがかなうことに変わりはない。
「……私たちは、誰かを悲しませるようなやり方はしないよ」

「ふふ……」
 商人は何か

思うところがあるのか、口元を笑みの形に作る。
 しかし、何か嘘をついている様子はなさそうだった。嘘を見抜く力には、自信がある。
「あなたたちの目的は何?」
「叶わぬ願いを叶えること――とだけ、申し上げておきましょう」
 にたりと笑うと、商人は帽子のつばに手を掛ける。
 待て、とルカは慌てて飛びかかるが――

 商人は風の中に消えていった。


「……逃げられちゃった」
 ルカは来た道を戻り、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と合流した。
 アンリも取戻し、ヒュドラも封印た。
 しかし、ルカとダリルはどうしても納得がいかなかった。
「そうか」
 悔しそうに呟くルカに、ダリルは短く答える。その手の中には、先ほど破壊した機晶姫の残骸。
「サイコメトリで情報を探ってみた」
「何かわかった?」
 期待の籠ったルカの言葉に、ダリルは力なく首を振る。
「良い情報は何も得られなかった。ただ、どうやら商人は複数いるらしいな」
「げ……あんなのが何人も?」
 結局、これだけ腕利きの契約者が集まっているというのに倒すことができなかった相手だ。
 それが複数で徒党を組んでいるというのは、あまりゾッとしない情報だ。
「それから、何か、髑髏のようなものを後生大事に持っている映像が見えた。得られた情報はそれだけだ」
「髑髏……ドクロねぇ……ま、少なくとも奴らが相当悪趣味だってことは、わかったわね」
 ルカはひょい、と肩をすくめる。
「報告、上げといたほうがいいかもね」




 一方、商人が姿をくらましたあと、商人側についていた契約者たちはめいめい姿をくらました。
 一組――リカイン・フェルマータたちを除いて。
 リカインは、変装に使っていた黒のコートを脱ぎ棄てて手を上げる。
「ごめんなさい、商人の正体を探るために取り入っていたの」
 キュー・ディスティン、ヴィゼント・ショートホーンの二人も同じように投降する。
 先ほどまではキューとヴィゼントがリカインを従えているという体だったが、今度はリカインが二人を従えている。
「……本当か?」
 今の今まで切り結んでいた相手の言うことなど信用ならない、という風に契約者たちは詰め寄る。その意見ももっともだ。
 どうしましょう、と困り顔のリカインのもとへ、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)がひょこっと現れる。
「ちょっとあんた、どこ行ってたのよ」
「いやー、バカ女の無差別咆哮に巻き込まれちゃたまらねーし」
 文句をつけるリカインに肩をすくめて見せてから、アストライトは一行に向き直る。
「ジャスティシアのアストライト・グロリアフルだ。俺の作戦で、仲間たちに潜入捜査を頼んでいたんだ。まあ、見た目はこんな奴らだけど、身分は俺が保証するぜ」
 アストライトの言葉に、一同は顔を見合わせる。ためらうものもいたようだったが、こちらに顔見知りがいたこともあって何とか信用を得る。
「それで、何かわかったのか?」
「ぜーーんぜん。……なんか、人間らしい感じが全くしないの。あいつら、人間じゃないかもね……あと、誰が協力を申し出ても、断りはしないんだけど、はなっから信用してない感じだったわ。わかったのはそれくらい」
 くたびれ損よ、とリカインは肩をすくめる。
「いずれにしても、このまま放っておいて良い……ってわけにはいかねえな」
 そこへ今日一番の貧乏くじ、佐野亮司がひょこっと現れた。
 今までどこにいた、という声がそこここから聞こえる。
「よし、あいつらの手口は俺が宣伝広告しておくぜ。引っかかる奴が出ないようにな」
「おお、さすが闇商人」
「だから、闇じゃねえ!!」