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パーティーは大失敗で大成功?

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パーティーは大失敗で大成功?
パーティーは大失敗で大成功? パーティーは大失敗で大成功?

リアクション

 ≪猿魔エシュ≫の動きが止まり、屋外の≪機晶ドール≫は殲滅した。
 だが、現れた≪黒炎の狂猿王≫に攻撃がまったく効かなず生徒達は苦戦していた。

「やべっ、死ぬ死ぬ死ぬ〜!!」
 別荘の入り口で何か打つ手はないのかと悩んでいたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の元へ、≪機晶ドール≫に追いかけられながらミッツが、助けを求めてきた。
「なんでここに!? と、とにかく援護しないと!」
「僕が前に出ます!!」
 カムイ・マギ(かむい・まぎ)が【光学兵器】の剣を手に≪機晶ドール≫に向かっていく。
 カムイはミッツを庇いながら剣で飛んできたナイフを弾く。
 背後からレキが【サイドワインダー】で≪機晶ドール≫の足を撃ちぬいた。
 さらに向かってきた≪機晶ドール≫に謎の魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が走っていく。
 ≪機晶ドール≫が抜いたナイフがレキの銃弾により吹き飛んだ。
「くらえぇ!! 私の熱い心がこもった最強の魔法……」
 空中へ飛んだろざりぃぬが自身の股の間で≪機晶ドール≫の冷たい頭を挟み込む。
 背後に倒れそうになった≪機晶ドール≫が前方へと重心を置いて踏ん張ろうとする。
 だがそれの動きも利用して、≪機晶ドール≫の股の間へ潜り込んだろざりぃぬは、身体を勢いよく仰け反らせ、頭を地面へと押し付けるようにして叩きつけた。
 さらに前方へと前転しようとする≪機晶ドール≫の両足を、ろざりぃぬは捕えて脇の下に抑え込むことでエビ固めを決めた。
 これにより肩が地面についた≪機晶ドール≫は、上を向いていた両足を無理矢理に頭近くまで押し付けれ、背中と肩に多大なダメージが与えられる。
「これぞマジカル☆ハリケーン・ラナだ!!」
 必死に抵抗していた≪機晶ドール≫が気絶する。
「浄化完了!!」
 魔法少女ろざりぃぬは必殺の物理魔法を決めて満足げに額の汗を拭った。
 追手の≪機晶ドール≫が倒されて一安心するミッツ。
「た、助かったよ。ありがとう」
「ミッツさん、なんでこんな所にいるんですか?」
 カムイがミッツの怪我を【ヒール】で治療しながら尋ねる。
「えっと、それはだな――」
 苦笑いを浮かべて答えようとしたミッツは、巨大な人型をした黒い炎≪黒炎の狂猿王≫を見て目を丸くした。
「なんだ、あいつ!?」
 レキは≪灼熱の猿王――タル≫が護符によって≪黒炎の狂猿王≫になったことを説明した。
 生徒達は物理。魔法。いずれを当てても≪黒炎の狂猿王≫を倒すことが出来なかった。
 ≪黒炎の狂猿王≫の体は黒い炎で出来ており、一度吹き飛ばしてもすぐに回復してしまうのだ。
「あの黒い炎を一気に吹き飛ばさなきゃだめなのか……そうだ! 良い物がある!」
「良い物?」
「≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫。あれの能力を使えば奴を倒せるはずだ。一緒に来てくれ!」
 ミッツが別荘の中へと駆け出し、レキ達は仕方なくついて行くことにした。
 理性を無くした≪黒炎の狂猿王≫は、ゆっくりとパーティーが開かれている別荘へと向けて歩いていた。


 ミッツを追いかけて会場の外に出た源 鉄心(みなもと・てっしん)は、≪機晶ドール≫を操っていた女性を発見し追い詰めるも、来賓を守ったために取り逃がしてしまう。
「怪我はありませんか?」
 来賓は完全に脅えきって膝を抱えていた。
 とりあえず部屋で休ませようとする鉄心。
「あれ、キミも抜け出してきたの?」
 そこへレキ達がやってきた。
 鉄心はレキの横にミッツがいるのを見つけると、威圧的なオーラを漂わせて近づいた。
「ミッツさん、なんで勝手に抜け出したんですか!?」
 鉄心に怒鳴られ後ずさるミッツ。
「い、いや、あの場にいたら他の人巻き込んじゃうかなって、思ってさ?」
「だったらせめて一言声をかけてくださいよ!」
 鉄心はため息を吐きつつ、安心してホッと胸を撫で下ろした。
「ところで随分静かだが、外はどうなっているんですか?」
 会場の外は戦闘中で出歩くのは危険だと鉄心は思っていた。
 だが、いざ防音の会場から外へ出てみると、激しい戦闘の音はなく、鉄心は拍子抜けしたような気分だった。
 レキ達は≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫が倒され、雑兵はほぼ行動不能になったが、≪灼熱の猿王――タル≫が≪黒炎の狂猿王≫になり、倒すために≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を取りに行っていることを鉄心に話した。
「……わかった。その件はキミ達に任せて俺は会場に一端戻ろう」
「あ、ちょっと待って!」
 レキは脅えきっている来賓に【ヒプノシス】をかけて眠らせた。
「はい。これで大丈夫だね」
「ありがとう」
 鉄心は来賓を背負って歩き出す。
「後はお願いします」
 鉄心は仲間に避難誘導の準備をさせることにした。


「あんなのどうすりゃいいんだ」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が一歩一歩踏みしめるように歩いてくる≪黒炎の狂猿王≫を睨みつける。
 その横でミッツとレキの話を聞いていたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は、まだ希望を信じていた。
「まだ打つ手はあります。ミッツさん達が取りに行っているあの武器があれば――」
「待たせた!!」
 ミッツ達がようやく戻ってくる。
 ミッツの手には茶色く変色した包帯のようなものに包まれた≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫が抱えられていた。
「それが秘密兵器ですか?」
「そう、いま封印の包装を解くから待ってろ……」
 ミッツが≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫の包帯を解いていく。
 それに気づいた≪黒炎の狂猿王≫が咆哮を上げた。
 すると、土が黒い炎を纏った人型になって襲ってきた。
 どうやら≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を恐れているようだ。
「おい、早くしろ!」
 エヴァルトは襲ってくる土の塊を蹴散らしながらミッツを急がせる。
 ようやく包帯が外され、中から刃に当たる部分である槍頭が厚みのある巨大な三角の形で、それに太い棒が付いた全体的に槍にしては短い武器が現れた。
「よし、これを前線に運んでくれ!!」
「わかりました」
 ミッツに≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を託されたルーシェリアは馬に乗って駆け出した。
 腕にずっしりとくる重み。
 周囲から土の塊がルーシェリアを止めようと近づいてくる。
 馬に触れようとした土の塊の腕に矢が突き刺さる。
「援護するわよ」
 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が続けざまに土の塊の頭を弓で打ち抜いた。
 頭を吹き飛ばされ、次々と倒れていく土の塊達。
「あんたら、しっかり足止めするのよ!」
 リネンの声に呼応するように、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)とオルトリンデ少女遊撃隊が土の塊に突撃した。
 この隙に走り抜けようとしたルーシェリアの前に壁を作るように人型を土の塊達が立ちふさがる。
「私に任せてください!」
 【地獄の天使】で背中に翼を生やした緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)がルーシェリアから≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を受け取った。
 最前線に飛んでいく陽子。
 ≪黒炎の狂猿王≫の手が≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を奪い取ろうと陽子に伸びる。
 自分の身体を簡単に飲み込めるほどの巨大な手を前に、陽子は回避を試みようとするが、思いのほか手に抱えた≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫が重かった。
 陽子は眼下の緋柱 透乃(ひばしら・とうの)と目があった。
「透乃ちゃん、後はお願します!!」
「え、ええ!? 陽子ちゃん!?」
 落ちてきた≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫をキャッチする透乃。
 空中では陽子が翼を翻して辛うじて腕を避けていた。
 最前線である透乃が次に渡す相手はいない。
 託されたがどうしていいかわからない透乃は、渡された≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫の柄だと思われる棒の部分を掴んでみた。
「私、基本素手だしねぇ。……これ、トンカチかな?」
 透乃は常人なら重くて振り回すこともできない武器を、持ち前の怪力でブンブンと振り回し、地面にぶつけた。
 遥か後方からミッツの叫び声が聞えた。
 ≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫の槍頭は、柄の部分に向けて少しずつ楕円形の大きな刃が組み合わされるようにして出来ている。そのため斬りためには適さず、槍と名が付いているにしては槍頭の横幅が広く、突くことにも適していなかった。
「あとは盾かな?」
 透乃は試しに≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫を思いっきり殴ってみたが、ビクともしなかった。遠くから絶叫に近い悲鳴が聞えてきた。
 ≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫には槍頭の両側中央部分に半透明な機晶石らしきものが付いている。
 遠くからミッツが怒鳴りながら、≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫へと意識を集中しろと命令してきた。
 目の前の≪黒炎の狂猿王≫が透乃に標的を絞ってゆっくりと手を伸ばしてくる。
「透乃ちゃん!」
「仕方ないなぁ……」
 陽子に急かされて透乃が≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫に意識を集中する。
 すると≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫の槍頭の部分が二つに分かれた。
 そして透乃は誘われるように槍頭の内側部分に存在する穴へ手を滑り込ませた。穴の中で腕を縛られる感覚がした。
「おっ、これなら!」
 透乃の手と一体化した覇動槍ウルスラグナは、まるで両腕についた三角の盾のようだった。
 ≪黒炎の狂猿王≫の黒い手が透乃へと伸びる。
「よし、くっらっええぇぇぇぇ!!」
 透乃は腰の捻りを入れて一気に右手を打ち出した。
 ≪黒炎の狂猿王≫の手に触れた瞬間、透乃の拳となった覇動槍ウルスラグナから衝撃波が発生する。

 衝撃波は≪黒炎の狂猿王≫の黒い炎を肩まで一気に吹き飛ばした――が、それ以上吹き飛ばせない。

 黒い炎が≪黒炎の狂猿王≫の肩から徐々に回復していく。
 覇動槍ウルスラグナが発生させる衝撃波を持ってしても一撃で倒すことができなかったようだ。
 透乃は≪黒炎の狂猿王≫の手があった部分に右手を突き出したまま動かない。
 黒い炎が指の先まで復活し、透乃の周囲に骨まで焼き尽くしそうな暑さが戻ってくる。
 すると透乃がニヤリと笑った。
「残念。実はこっちが本命なのよね♪」
 待ってましたとばかりに透乃が左手を握りしめると、覇動槍ウルスラグナの機晶石が赤く輝きだし、デコボコだった三角が変形し、細く鋭くまるで鳥類の嘴のように変化した。
 左手の覇動槍ウルスラグナが透乃に反応してピンク色に近い炎を纏う。
 ≪黒炎の狂猿王≫が握り潰そうと、指を折り曲げ始める。
 透乃の左手から後方へと炎の尾が伸びる。

「いっけぇぇぇぇ!!」 

 黒い炎に飲み込まれる直前、透乃の左手となった覇動槍ウルスラグナが繰り出された。
 ――次の瞬間、激しい衝撃波が発生し、周囲の芝生が吹き飛ばされ、生徒達も数メートルほど吹き飛ばされ、別荘の外壁の一部がはがれ、夜空を覆っていた暗雲がかき消された。
 透乃を手の中に捕えたまま、動きが止まる≪黒炎の狂猿王≫。
 すると、≪黒炎の狂猿王≫の身体が透乃を捕えた手からピンク色に染まっていった。
 そして全身がピンクに染まると炎は拡散し、残ったのは覇動槍ウルスラグナを装着した透乃のみだった。
「衝撃波による広範囲攻撃ねぇ……」
 透乃はぐたりと土が剥きだしになった地面に座って周囲を見渡した。
 
 周囲に動く敵影はなく。
 月光の優しい光が地表を照らしていた。