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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第七章 戦闘態勢! レンズとキノコとゴーレムと

<月への港・1F>

「止まりなさい!」

 不意に現れた乱入者に、デヘペロ弟も、それと対峙していた凶司やネフィリム三姉妹も、ついそちらの方を振り向いた。

「銀河パトロール隊のレンズマンよ!」
 ビシッとポーズを決めて登場したネコ耳少女は、自称「銀河パトロール隊のピンク・レンズマン」こと月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)
 予想外の展開に一同があっけに取られている間に、あゆみはお手製の「銀河パトロール隊☆エンブレム」と、レンズマンの証であるレンズをデヘペロ弟に突きつけ、自信満々にこう言い放ったのである。
「おとなしく引き下がれば、今回だけは見逃してあげるわよ?」

 とはいえ、すでにデヘペロ弟の驚異的な戦闘能力を目の当たりにしている凶司にしてみれば、援軍自体はありがたいものの、そんなに悪い意味で余裕しゃくしゃくで来られても困ってしまう。
「レンズマンだか何だか知らないけど、こいつはそんなに甘い相手じゃない!」
 しかし、それが聞こえているのかいないのか、あゆみはさらにデヘペロ弟を挑発する。
「さあ、返事は!?」

 と、ここでようやくデヘペロ弟が我に返った。
「絶対にノウウウウゥゥッ!!」
 そう叫ぶと、その巨体に見合わぬスピードであゆみの方へと走る。
「えっ!?」
 予想外の速さに、回避行動が間に合わない。
 驚くあゆみめがけて、デヘペロ弟の拳が振り下ろされた。

「……ペロロゥ?」
 デヘペロ弟の振り下ろした拳は、床を砕いただけに終わった。

「危なかったわね。あんまり相手を甘く見ちゃダメよ?」
 疾風のごとくローラーダッシュで切り込み、間一髪であゆみを救ったのは明子だった。
「QX! 援護感謝するわ!」
 彼女へのお礼もそこそこに、あれだけの目に遭いながらも一切ぶれないテンションでデヘペロ弟に相対するあゆみ。
「銀パトに逆らうなんて、おバカさんね……ルナルナ! ソードモード!!」
 そのかけ声とともに、傍らにいたムーン・キャットSのルナルナが剣に姿を変える。
「さあ! このレンズにかけて、月への道とわんこたちはこのピンク・レンズマンが守ってみせるわ!」





<月への港・B1F>

「……っ」
 デヘペロ弟の攻撃を避けながら、来栖は軽く舌打ちをした。
 相手の攻撃が大振りである以上、最初のように油断さえしなければ避けることはそう難しくない。
 攻撃にしても、撃破ではなく撃退を主目的とし、一点に全力を集中すれば、相応のダメージを与えること自体は可能であろうと推測される。
 問題は、その「全力を集中する」時間も、「一撃を叩き込むべき隙」も、一人では見つけるのがほぼ不可能に近いことだった。

 そうこうしているうちに、通路の奥の方から大きな足音が聞こえてきた。
 デヘペロ弟のものにしては小さい気もするが、少なくとも等身大の人間のものではあり得ない。

 敵か、味方か。
 来栖がそちらに目をやると、駆け寄ってくる三体のゴーレムと、四人の人影が見えた。

「さあ、ゴーレムたち! やってしまうのだよ〜」
 オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)の号令で、ゴーレムたちがデヘペロ弟に襲いかかる。
「ペロロウゥ! しゃらくせエェ!!」
 的が大きく、また鈍重になったのを見越してか、デヘペロ弟がこれまで以上の大振りでの一撃を放つ。
 振り下ろされた拳が、ゴーレムの巨体をやすやすと吹っ飛ばした。
「こいつぁ少し離れてた方がよさそうかねぇ。味方のゴーレムの下敷きじゃ笑えない」
「それがよさそうだな」
 八神 誠一(やがみ・せいいち)の言葉に、冴弥 永夜(さえわたり・とおや)もいったん足を止める。
 それに合わせて来栖が一度下がると、アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)が声をかけてきた。
「助太刀に来てみたのだけど、迷惑だったかい?」
「まさか。おかげで助かりました」
 そう感謝の言葉を口にしてから、来栖は改めてデヘペロ弟の方に目をやった。
 ゴーレム程度ではそう長くはもたないだろうが、再生に専念すれば傷を癒すことくらいはできる。
 それに、これだけ頭数がいれば、うまく隙を作らせて「必殺の一撃」を放つこともできるだろう。
(さて。形勢逆転、ですね)





<月への港・施設外部>

「やはり好意が原動力であれば、それを散らすことによって多少なりと戦意を削ぐことができるのかしら?」
 ワイバーン「モデラート」の背の上で、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はそんなことを考えていた。
 デヘペロの言うアルベリッヒというのが誰かはよく知らないが、少なくとも「誰かが誰かを思う気持ち」がバカにできない力を発揮することは、エリシアも実体験としてよく知っている。
 そのことを彼女に身を持って示した御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、実は今はこちらには来ていない。
 彼にはその「原動力」たる愛する妻と二人、手を携えあってやらねばならないことが山積しているので、そうそう彼の手を煩わせるわけにはいかないのだ。
「我ながら、無粋な方法ですけど……仕方ありませんわね」
 うまく味方が射撃で気を引いた隙をついて、一気にデヘペロの頭上をとる。
「これで!」
 デヘペロがこちらを向いた瞬間、「神の目」でその目をくらませ――「どぎ☆マギノコ」を刺した矢を、デヘペロの口の中めがけて撃ち込んだ。

 とはいえ、あれだけの巨体に、このちっぽけなキノコ一本がどこまで効くのだろうか。
 そんなことを考えながら離脱しようとしたエリシアだったが……事態は、予期せぬ方向に向かった。

「ペロロロロロウゥゥーッ!!!」
 謎の奇声を上げて、いきなり、デヘペロがエリシアを追いかけてきたのである。
「な、何!?」
 これまでと違い、ある程度間合いを取っても、他の機体が牽制射撃を行っても、デヘペロはそれにも目もくれず追いかけてくる。
「これって、もしかして……」

 もしかしなくても、考えられることは一つしかない。
「どぎ☆マギノコ」を口にした者は、「その後最初に見た者に」ときめいてしまうわけであり――目くらましの効果時間が短かったとすれば、ちょうど目の前にいたエリシアとモデラートが真っ先に目に入ったとしても何ら不思議ではない。
 そして、デヘペロの行動原理自体がよくわかっていない以上、その「ときめき」がどういった行動を誘発するかについては……実のところ、エリシア自身にもよくわかっていなかったのだ。

「チャンスです! 今のうちに月への港から少しでも引き離してください!」
「そ、そんなこと言われましても……!!」
 冷静なミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の指示にも、とても従える状況ではない。
 なにしろ、小回りでは圧倒的に上であっても、単純な最高速度ではデヘペロもかなりのものであり、まっすぐ移動していたら追いつかれてしまうのだから。





 そんな様子を見ながら、ミネシアはぽつりと呟いた。
「あー……あれ、やっぱりつかまったらペロペロされちゃいそうだよね」
 もちろん、それを聞いたシフが再び蒼白になったことは言うまでもなく。
 その謎の追いかけっこは、キノコの効果が弱まるまでしばらく続いたのであった。