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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【交錯する街角 1】





「なんや、思っとったよりは、物々しゅうないんやね」
 一方、町のあちこちをガイドに案内してもらいながら、ストーンサークルまで辿り着いた社は、教導団員の姿が余り見えないのに、意外そうに声を漏らした。
 封印の強化のためとは言え、祭りの中心で教導団が陣取るとなれば、かなり目立つだろうと思っていたのだが、代わりに目を引いたのは、やや場違い気味に設置された、仮設スタジオのような装置類だ。芸能事務所846プロダクションの社長として、あまりに目に馴染んだその機材に誘われるように近づくと、その傍ではもくもくと機材の調整をしている理王たちの姿があった。
「何しとるんや?」
 ひょい、と唐突にモニターを覗き込んできた社に、理王は思わずのけぞった。だが、それに構わずモニターを眺めた社は「トゥーゲドア・イン・カーニバルぅ?」と素っ頓狂な声を上げた。そのモニターには、可愛い美少女のアバターがぴょこぴょこと動きながら、町の様子をライブ中継する旨の宣伝が表示されていたのである。
「なんや、えらい楽しそうなことしとるやん」
「情報収集の一環だ」
 興味津々、といった様子の社に対して、理王は不審者を見るような目を向ける。
「何か用か?」
 だが、警戒たっぷりな声にまるで怯む様子も無く、にっと笑うと「デザインはいい線いっとると思うけど、宣伝効果としては、まだパンチが足りんで」と、首を振ると、む、と眉を寄せる理王の肩をぽん、と叩いた。
「な、俺にも一口噛ませてくれ。損はさせへんでぇ〜」
 そう言った社の目は、自信と好奇心にきらりと輝いていた。


 
――その少女は、赤い髪を風に揺らしながら、その目を空へと据えて立っていた。
「封印を破った少年の出現、そしてその綻び……何か、封印を解こうとする意思の存在を感じるわ」
 彼女のディテクトエビルが、そう告げているのだ。
 この町で、この祭りで何かが起こる、と。
「危険が迫っている、ということか」
 相棒の声も、緊張を孕んでいる。
 だが少女は些かも怯む風も無く、凛々しく前を向いていた。
「――させないわ」
 ぎゅうと握り締められた手は細いが、無力なそれではないのだ。

「ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!!」

 少女の声と共に、その体が魔力の輝きに包まれると、服が、髪が、瞳が、そしてその心までもが。
 一気に熱い炎に染め上げられた。
「紅の魔法少女参上! お祭りと封印と町の平和は紅の魔法少女が守ってみせる!」
 炎のように髪をなびかせて、少女は相棒のバイクに跨って、邪悪な意思を睨みつけようとするように、ストーンサークルに向かって、紅の瞳で真っ直ぐに見据える。
「平和を乱す不届き者は私の炎で御仕置きです!」

 父が八重の為に残してくれた大太刀【紅桜】を手に、紅の魔法少女ヤエは立ち上がる――


 そんなテロップと共に、ジャーン、というわかりやすい効果音が流れると、即席で作られたらしいタイトルロゴが表示されると、続けてトゥーゲドアの情報と共にライブの宣伝が後を追った。

「おおきに、おかげでいい画が撮れたでぇ〜」
 それを見届け、社がぐっと親指を突き出して見せた。いつの間にか野次馬の集まっていた周囲からも、ぱちぱちと拍手が上がる。その状況に、永倉 八重(ながくら・やえ)は複雑な心境も露にむう、と頬を膨らませた。
「言っておくけど、嫌な予感は本物なのよ。この祭りで、きっと何かが起こるはずなの」
「わかっとる、わかっとる」
 だが社の方はあっけらかんと頷いただけで、理王へくるりと向き直った。
「どや、反響の方は」
「上がってるね」
 答えたのは屍鬼乃だ。八重の登場の前と後では、視聴率が段違いである。ふむ、とその結果に、理王も感心したように頷いた。
「流石は芸能プロダクションの社長、ってところか」
「せやろ、せやろ?」
 やっぱりこういうのは演出が大事なんや! と満足げにする社とは対照的に「それより」と八重が強引に口を挟んだ。
「情報の方はどうなの?」
「今はまだ、書き込みも野次馬ばかりだな」
 その問いに、ライブ関連の掲示板をチェックして回っている理王が言えば、「それじゃ意味が無いじゃない!」 と八重は憤然としたが「これからだ」と返す声は冷静だ。
「先ずは関心を持ってもらうことだ。目に触れる人数が多くなるほど、情報は多くなる」
「その分、情報の見極めは難しくなるけどね」
 屍鬼乃が付け加えたが、そんな冷静な二人とは裏腹に、社は俄然やる気を強めたらしい。
「ほな、もっと盛り上げてかな!」
 きらりと目を輝かせる社と、黙々とパソコンと向き合っている二人と言う、対照的な面子を見やりながら、八重はふうっとため息をついた。
「クロはどう思う? この町の民謡のこととか」
 八重からの問いに、相棒のバイク型機晶姫ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)は考えるような間を空けて「そうだな……」と答えた。
「この町の封印に関することなのは、間違いあるまい。永く伝えていくために、歌と言う形式を取ったのだろう」
 そうね、とその答えに頷きながら、八重はストーンサークルに触れた。
「気になるのは、民謡には月が歌われているのに、この町には月を象徴するものが無いのよね」
 封印には不要なものだったのかしら? と首を傾げ、そこでぽん、と手を叩いた。
「そうか、もしかして月食を示してるんじゃないかしら」
 そして年二回のうちのもう一回は、日食。
「成る程な。月からも太陽からも隠れる、と言うのはそれかもしれん」
 ブラックも同意はしたものの「だが」と付け加えるのも忘れない。
「あくまで推測だ。もっと細かく情報が集まるまで、結論付けるのは危険だ」
「そうね、きっとみんなが情報を集めてくれてるはずよ」
 だから今は、仲間達を信じて待ちましょう、と、八重は強く頷いた。