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【第二章】12 

 男に騙される女も居れば、男に騙される男も居る。
「はぁい。あちきの旦那様がお世話になっておりまぁっす!」
 ネタばらしに入ってきた女性に、縛られた姿の強盗団はまるで自分達がテレビのどっきり番組の芸能人にでもなったかのような気分だった。
「い……一体どうなってるんだ!?」

 美人局(つつもたせ)という言葉を知っているだろうか。
 主に夫婦が共謀し行う恐喝、詐欺行為であるそれは、
 まず妻が男を誘い、まんまと誘われた男がウェヒヒッと喜んでいる最中や終わった後に夫が「わしの女になにしてくれとんじゃー」と現れて金品を要求するあれである。
 しかしこのショッピングモールに現れた美人局は一味違っていた。

 男女が逆転していたのだ。

 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)メアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)は性別こそ男性だが、見た目には大よそ男性に見えなどころか、女性をも凌ぐ美しさを持っていたのである。
 三人はリアトリスの妻であるレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と彼女のパートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)と共に買い物にきていたのだが、そこで事件に巻き込まれたのだ。
 さてどうしたものか。
 と彼らが思案している時に、レティシアは言った。
「いきなり巻き込まれて迷惑千万なんですよねぇ。
 サクッと退治しちゃいましょう。
 早めに終わらせて今夜に着る下着を決めないといけませんからねぇ」
 と言う訳で、彼女の大胆な発言にドキドキしながらも、お陰さまでやる気になったリアトリスは下着を選び着替えるべく試着室へ入った。
 選んだ下着は色は白とピンクでどれも胸が見えそうで見えないチラリズムだ。
 正直ここまで派手なものを着るのは恥ずかしいが、リアトリスは勇気を出して――もじもじしながら――着て見る。
 鏡の前で確認していると、鏡の隅に強盗が一人映っているのが見えた。
 ――かかった。
「……見えたほうがいいかな?」
 挑発的にそう言って肩の調節部分をわざと緩くしてみた。
 強盗がより一層前に乗り出したのを見て、リアトリスは即座にヒプノシスを発動させる。
 シャッとカーテンを開くと、彼のスキルによって落とされた強盗が眠っている。
 それをみてリアトリスは満足そうに微笑んだ。
「まずはこれで一人、と」

 ここ、ランジェリーフロアは敷地が広大な為、試着室も幾つか存在していた。
 リアトリスが一人確保していた頃、ベアトリスもまた反対側の試着室へ向かっていた。
「ふふ、きてるきてる」
 強盗の一人がこっそり自分についてきている事を確認して試着室に入り、黙々と黄色とオレンジのビタミンカラーが眩しいキャミソールを試着する
「腰あたりがきついかな? ちょっとはずそう」
 男を誘う言葉も、同じ男なら簡単に思いついた。
 すぐに喰いついてきた強盗団を見て、ベアトリスは今だ! と「レティさん!」と叫んだ。
「はいはーい」
 試着室へ這入ろうとし居た強盗の後ろからレティシアが刀を突き付けていた。
 ”さざれ石の短刀”
 刺したものを石化してしまう特殊な力を持った短刀だ。
「ぐあっ!!」
「ちょぉっと眠ってて下さいねぇ」
 床に転がった石を見つめてレティシアは悪戯っぽく微笑んだ。

 メアトリスも二人に習い、別の試着室へ入る。
 手に持っているのはヒョウ柄とバラが散らされた派手派手なテディだ。
「ちょっと大胆だったかな?」
 なんてわざとらしい台詞を吐きながら、もうその時点で勝利は確定されていた。
「胸が大きくなってこれはきついかなぁ?」
 甘い言葉にミツバチが何匹も寄ってくる。
 ――本当は大きいどころかまな板程も無いんだけどね。
 メアトリスが舌を出しているのに気付かない強盗達は数分後に簡単に捕まってしまった。


 そして話は始めに戻って……。

「はぁい。あちきの旦那様がお世話になっておりまぁっす」
 横一列に並べられた五人の強盗団の男達はやってきたレティシアの言葉に首をひねった。
「旦那様?」
「何言ってんだ??」
「……ごめんね、僕たち男なんだ」
 リアトリス達はそう言うと、上半身の服をたくしあげて胸を晒しだす。
 強盗団の前に現れたのは柔らかい双丘ではなく、厚い男の胸筋だった。
「い……一体どうなってるんだ!?」
 石の様に固まっている強盗達を、レティシアは次々に今度は本当に、文字通りに石化していく。
「これで解決ですねぇ、後はミスティに任せますよ」
 レティシアがそう言うと、下着の上にタオルを巻いたミスティがそろそろと現れた。
 強盗達を警察に引き渡す際の石化を解除を任されたのだ。
「少しの辛抱ですよ」
 ミスティは屈んで、固まった石達に声を優しい言葉を掛けている。
 五人はごろごろと石化した強盗達をエレベーターホールに押していくと、エレベーターのスイッチを入れた。
「こんなに簡単だと思わなかった」
「あら? あちきはそう思ってましたよ」
 息を吐くリアトリスに、レティシアは優しい笑みを向けた。
「なんてったってあちきの旦那様は世界一可愛いですからねぇ」