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リアクション
【第二章】10
武神牙竜がパートナー達を助けるべく三階へ上がろうと二階を走っていた時、偶然アリサ達と、そこに居合わせた小鳥遊 美羽が強盗団に襲われている姿を発見した。
「こっちに、来るんじゃ、なーーーーい!!」
美羽は購入予定だったブラジャーをを片手で握ったまま、もう片方の手で風銃エアリアルを乱射している。
轟音と一緒に銃から発せられる衝撃で、強盗団は吹き飛ばされて、壁に激突していった。
「皆、助けにきたよ!」
元気よく手を振る美羽の元へ、アリサ達がかけ寄っていく。
「美羽、助かった……ってその手に持っているものは!!」
アリサが”何か”に気付いたのを知るや否や、美羽は慌ててブラジャーを後ろに隠した。
皆やる事は一緒なのだ。
アリサは一種の感動を覚えていた。
「これは! その……違うの!!」
「いや違わない! 見せるんだ!」
尚も否定し続ける美羽の後ろへアリサは回り込むと、美羽が持っていたブラジャーを美羽の手ごと取り上げて注視した。
デザインも、タグも、同じ。色違い。
「矢張り……」
美羽が手に持っていたのはアリサと同じ下着だったのだ。
「こ、これには訳が!!」
「いい、皆まで言うな」
アリサは慌てている美羽を手でとめると、コートの間から自分の下着をそっとのぞかせる。
それは試着室で期待と共に付けた例の”盛り盛りアップブラ”だったのだ!
「アリサ……」
「美羽」
二人はがっちりと抱き合った。
盛り盛りアップブラが結んだ、友情の美しい絆だった。
「んーと感動? してるとこ悪いけど、強盗さん置きあがっちゃったよ」
桐生理知が忠告する通り、美羽に倒された強盗達は目を覚まし始めている。
「本当にもー……しつこいなぁ」
アリサ、美羽、理知、智緒の四人が構えた時だった。
勢いのある声と共に彼女達と強盗の間にある人物が割って入る。
「下着姿の女性を襲うとは許せん! 成敗してくれる!!」
牙竜がやってきたのだ!
さて。ヒーローの戦いのセオリーはまずは肉弾戦からと決まっている。
「はっ!」「はああ!」「やあ!!」
掛け声と共に繰り出される牙竜の攻撃に、強盗達は見事なやられ役を演じ切った。
しかし……
「ウェエエエーイ」「ウェイウェーーイ」
倒されたかと思った強盗達が何時の間にか牙竜を囲んでいたのだ!
だがそこでヒーローの戦いは終わらない。
「牙竜!」
ちょっとピンチになったところで頼りになる仲間がやってくるのもまたセオリーなのだ。
龍ヶ崎 灯と、武神 雅がやってきたのをみると、牙竜は叫んだ。
「よし、魔鎧を纏うぞ……変身!!」
しかしここまで上手く行っていたにも関わらず、一番に失敗してはならない部分で失敗が起こってしまった。
牙竜が身にまとった服が、ウンともスンとも言わないのだ。
「あれ? っかしーな……もう一度、変身!
あれ? あれれ? マジで変身用カードどこ行った!?」
変身中のヒーローに手を出してはいけない。
強盗達はそのまま動かずポーズをとっていてプルプルしている。
「これか!?」
「それは変身用のカードではなく、カードゲームのカードです。
まったく何処に無くしたんですか? あれないと魔鎧になれないじゃないですか」
灯に説教されている牙竜の代りに、アリサ達は代りにカードを探し始めた。
「どの辺に落としたんだ?」
「いや、落としたんじゃないと思うんだけど」
「じゃあしまった場所忘れちゃったって事?」
「おしりのポケットは? あそこ入れると忘れちゃうよね」
「ありませ〜ん」
「ええ? じゃあ鞄のサイドポケットとか……」
理知らと美羽のアドバイスを聞きながら牙竜が体中を探っていると、いつのまにか雅がこちらへやってきていた。
「愚弟、変身用のカードか? ここにあるぞ?」
そう言って突きだしたのは胸だった。
「さあ、取るがいい!」
腕を組んでいる為盛り上がった雅の豊満なバストに、変身カードが挟まっている。
「あったー!!」
「見つかったね」
「よかったねー」
「どうもどうも……ってみやねぇ……なんでそんなに睨んでるの?
まぁいいや。改めて……行くぞ悪党ども!」
「ウェーーーーイ」
それまでポーズをとったまま待っていた強盗達は声を上げて牙竜に襲いかかる様子を見せていた。それにしてもこいつら、ノリのいい強盗団である。
「カード・インストール!」
「変身! ケンリュウガー剛臨!」
灯と牙竜の掛け声で変身が完了する。
正直このくだりは必要だったのかとアリサは思っていたが、それは胸に閉まって置いた。
牙竜は頭の中で強盗団に襲われる女性の記憶を記憶術で思い出していた。
「きゃあああ」「こないでえええ」「いやあああ」
女性達の悲鳴が頭に木霊する。
――なんという卑劣な悪役達……
彼等に対する怒りのゲージを上げると、レーザーブレードを取り出し叫んだ。
「ドラゴニック・インパルス!」
飛び上がり切り込んだ牙竜の後ろで、ナパーム演出の如く爆発が起こり敵は爆散する。
本当に何処までもノリのいい奴等だった。
「よし、終わった」
牙竜が魔鎧モードを解除すると、魔鎧時に全て服が脱げてしまう仕様な灯は慌てて落ちていた下着を身につけ始める。
薄紅色のブラジャーとパンツのセットで、中央に大きなリボンが飾られていた。
このリボンを引っ張れば「プレゼントはワ・タ・シ☆」的にオープンするのだ。
しかしそんなセクシーな下着の彼女も、メリハリボディーに紫のセクシーテディー――どんな下着か分からない良い子のお友達は、パパとママが後ろに居ないか気を付けながら検索してね☆――を着た雅の姿も牙竜の目には入っていないらしい。
「素敵だ……なんて素敵なちぃぱいなんだ!!」
牙竜が見つめていたのはアリサと美羽だった。
正直盛り盛りアップしたところで、あんまり差は無かった。
だが牙竜は、貧乳好きの彼には今アリサと美羽以外の女性等目に入っていなかったのだ!!
正義の鉄槌の反動でまともに動けない身体を引き釣り、アリサ達の元へよろよろ向かって行く牙竜の目は夢身心地だ。
「そんなまさか……」
「私達の胸にこんなに喜んでくれる人が!?」
で、当然ながらその胸を触る事は敵わなかった。
数分後。牙竜はショッピングモールの西側入り口の吹き抜けに、登山用ザイルで簀巻きの上に逆さ吊りにされていた。
「愚弟にはお仕置きが必要だな……
このちぃぱいスキーめ!!」
雅が自らによって吊るされた牙竜の姿を見ながら吐き捨てる様にそう言う。
しかし彼女達とは裏腹に、密かにガッツポーズをして彼を見る二人……アリサと美羽。
「貧乳は……ステータスだ!!」
その日、ある男によって一人女性のプライドが潰され、また逆に二人の女性のプライドが満たされたのだった。