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【第二章】9

 この事件が起こる前、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)はミニスーパーの試食コーナー試食品を漁っていた。
「うまっ! これも柔らかっ!
 女の子向けのビルにある適当スーパーや思たけど中々侮れんもんやな」
 と、リスのほお袋の如く口にサイコロステーキを入れまくっていた所で、事件は起こった。
「ん? は(な)んや? はんひゃはったんひゃい(なんやあったんかい)」
 もぐもぐしたまま騒がしい方へと適当に向かって行った最中に、事件のあらましも大体掴んだ。
 ――下着を盗むなんて男子の風上にもおけん奴やな。 
 なんて思いながら三階に上がった所で、件の強盗団に出くわした訳だ。
「おいおいお前ら。そーいう趣向で話すんやったらな、
 ”男やったら使用済みを狙わな”意味あらへんやろ。
 どんな下着、やのうて、”誰が着けたかが大事”や!!! って聞いた事があるわ」
「おまっ……取ってつけたように”聞いた”って……
 めちゃめちゃ怪しいのはお前じゃねーか」
 言いながら強盗の一人が裕輝に向かってきた。
 しかし裕輝はすでにそこにいない。
 メンタルアサルトで予測の付かない動きをしているのだ。
 そして彼が移動した先は、箒に乗ったミッシェル・アシュクロフト(みっしぇる・あしゅくろふと)キャサリン・オブ・アラゴン(きゃさりん・おぶあらごん)の真下だった。
「来いや……
 こんだけ楽園が広がっとんのに目先の利益に欲が行って……」
 言いながら裕輝は上を見上げた。
「眼前のモノに目がいってへんようやな!!」
 背景にドーンとかっこよく効果音でも入れたい勢いだが、裕輝の視線は上のミッシェルとキャサリンのパンツへ向かっている。
「ちょっ何見てるのよ!」
「あなた言ってる事が目茶苦茶ですわ!!」
「お前最低だぞ!」
 強盗すらもまともな事を言ってしまった。
 そのまま突っ込んできた強盗をくるりと回していなすと、裕輝と強盗が背中合わせになる。
「妬み隊隊長として一つ言ったる。
 自分等強盗やったら強盗らしく突撃理論突っ走れや!」
 裕輝は強盗の更なる攻撃は小さくなる事で避けると、そのまま脚をすばやく、そっと上げた。
「bhじゅいおp@「^sdfg」
 えげつない攻撃は強盗の股間にヒットした。
 裕輝は股間を抑えながら転がっている強盗の頭をつんつんと押している。
「変に無駄知恵働かすからこないな失態晒すんとちゃうか?」
「お、お前なんて酷い攻撃を……」
 強盗達は仲間の痛みを思って下っ腹を抑え内またになっている。
「せやから言うたる――」
「鬼! いや、悪魔だ!!」
「――自分等、うっさいんじゃボケェ!!」 
 裕輝の言葉が口火を切り、小さな戦争が始まった。
 ミッシェルはすぐにサンダーブラストを唱えだす。
 彼女の目の前には、慣れない現代の下着を着用して飛んでいるキャサリンの姿がある。
「こんなケイト、他には見せられないわ!」
 閃光と共に落ちた雷を避けようとする強盗達の上に、キャサリンが近くに合ったトルソーを上から投石のように落としていく。
 ご存じの方はご存じかもしれないが、トルソーとはかなり重いものなので、それを喰らった強盗は潰されて動かなくなっていた。
「実に、実におもろいなぁ
 この空間!!」
 裕輝は目の前に突っ込んできた敵の前に、バッと何かを広げた。
「こ……これは!!」
「そう、そうやで」

「「保健体育の教科書!!」」

 裕輝がうやうやしく開いたページは「ページ21、からだの変化」の項目だった。
 挿絵には幼女から少女、そして大人の女性へと変化していく裸の女性の挿絵が描かれている。
 冷静に考えれば実際絵柄は淡泊で全くエロスをかきたてないものだったが、そこは保健体育マジックというべきか、二人の強盗は妙な興奮状態で教科書にくぎ付けだ。
「お、おおお」
 横目で二人の状態を一瞥すると裕輝は音読しはじめた。
「二次性徴では胸が膨らみ脇の下など毛が生えてくる」
「毛とか……おまっ」
「等って……等って何処だよ! ちゃんと言えよ!」
「な! そう思うやろ? でもそこんとこ詳しく書いてへんねん」
 裕輝は二冊あった教科書を一冊ずつ彼等に渡して、ある部分を指差していた。
「こことかな、生ぬるいねん」
「本当だな! 胸のふくらみとかも具体的にちゃんとかけよ」
「そうだ! ちゃんと詳しく説明するべきだ!」
「そう思うよな! せやけど……」
 裕輝の脚は目の前の教科書に集中している二人の股間を1、2、と蹴りあげた。 
「あsdfghじゅい90」「えrちゅいkl;」
「その辺は夢ん中で見て来いや」
 上からその様子を見ていたミッシェルは心底呆れた様子だ。
「っもう、さいってー!!」
 アシッドミストを唱えると、豪雨が強盗団の目をめがけてピンポイントで降ってくる。
 所謂えげつない眼つぶしだ。
「うわあああ目があああ目があああ」
 目を潰された強盗のが何かを掴もうと闇雲に手を伸ばした時だった。
 低空飛行していたキャサリンの箒の一部を掴んでしまい、キャサリンはバランスを崩して箒から落ちて行く。
「きゃああ」
「しもた!」
 落ちるキャサリンを受け止めようと裕輝が下へ走る。
「ひゃ! ……痛くない?」
 受け止めた。
 しかし裕輝が掴んでいたのは、キャサリンの腰と臀部……所謂お尻だったのだ。
「うわっ! 柔らかっ!!」
 裕輝の表情は冷静そのものだが、目はきらきらと輝いていた。
「いっ、嫌ぁ……あ、助けて下さったのは嫌じゃないんですけど……その……うっ」
 裕輝に起こされたキャサリンの目からは涙が零れ落ちて行く。
「ミッシェル。
あたくし、陛下以外の殿方には手と顔以外の肌すら見せた事ありませんのよ……なのに……なのにこんな」
 慌てて降りてきたミッシェルはキャサリンをそっと抱きしめた。
「大丈夫よケイト、誰にも見られてないわ」
「せや、オレも今の事はもう忘れてもうたわ」
「でも……でもぉ」
 はらはらと涙を流しながら、ミッシェルの顔を見つめるキャサリン。
 ――普段強気で引っ張ってくタイプの彼女がこうやって泣いてるのって、なんだか可愛いかも。
  ……私ってそういう素質でもあるのかしらね

 目の前で繰り広げられる百合百合ワールドに、妬み隊隊長は思った。
「こういうのも……悪くないもんやな」 
 と。