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【第二章】7

 胸が大きいといえば彼女もまたそうである、ルカルカ・ルー(るかるか・るー) が眉をひそめて目の前の少女達を見回した。
「なんて格好してんのよ……色々ヤバイって」
 ルカルカの前に立つジゼルも雅羅も、他の少女達も皆、未だに下着姿のままなのだ。
 先程武尊から手に入れたネグリジェは、協議の結果尻尾がある姫星が相応しいと着る事になったが、所詮ネグリジェはネグリジェだ。
「取り敢えず全員分ではないけど二枚なら確実に貸せる、か」
 ルカルカはそう言うと、自分の手早く上着を脱いで雅羅に着せる。
 ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)もそれにならってジゼルに上着を差し出した。
 因みにどうしてこの二人に渡したのかといえば体形――胸の大きさ――だった。
 続いてニケは、大商人の無限鞄に手をえいっと突っ込んだ。
「何が出るかしらー」
 不安な言葉を言いながらも大体望み通りに服をとり出せたようだ。
 ロング丈とはいえシルバーのレース編みの上着、という心元ないものだったが「無いよりはマシ」だと、何となくイメージが合っていた加夜に着せつけている。
「もっと出ないかしら。全員分欲しいんだけど」
 ニケはドラなんとかさんのポケットの如く鞄から色々なものを放りだしているが、中々目当てのものが出てこないようだ。
 ジゼルは山の様に積み上げられていくニケの用途が見つからないそれらを横目に、ルカルカの元へぱたぱた足音をたててやってきた。
「ルカ、私大丈夫よ? この服先に他のコに貸してあげて?」
「ジゼル、あのね、服着てないと変態に悪戯されちゃうかもよ」
「へんたい? いたずら?
 悪戯って子供のしたりする……??」
 ジゼルが首を捻り出したので、雅羅と加夜が慌ててルカルカへ駆け寄ると、小声で耳打ちし始める。 
「ジゼルは分かってないのよ。その……男女の仲というか」
「そもそもそういった事があるという意識すら無いみたいなんです」
「ええ!?」
 驚くルカルカに二人はこくこくと頷いている。
「そ、それは……困ったというかこのままほっとけないわね」
 ルカルカは彼女の前から離れて今度はニケと話しているジゼルをよく見てみた。
 どうやら雅羅達の話しは本当らしく、先程肩に掛けられた上着の前のボタンすら止めないまま、きゃっきゃと動きまわっている。
「こんな状態で男の人がきたら……って本当にきた!!」
 キッズスペースの隣の店舗の影から、強盗達が走ってくるのが見えたのだ。
「皆、この後ろに隠れるのよ!!」
 そう言ってルカルカが取り出したのは、”丈夫な屏風”だった。
「これなに?」
「これは屏風といって部屋の仕切りや装飾に使われる家具ですよジゼルさん」
「それよりなんでこんなもの持ってるのよ!!」
「乙女の嗜みよ!」
 ルカルカは雅羅にウィンクすると、すぐさま敵に向き直り、腕を振り上げた。。 
 すると周囲を茶色の粉が舞い始める。風術だ。ルカルカの腕の動きに合わせて周囲は砂嵐が起こったかのようだ。
 視界が酷く何も見る事が出来ない。
「くっそ! 何も見えねぇ」
「当たり前でーす女の子の秘密は見ちゃ駄目なんでーす」
 強盗達の周囲を舞う粉は、ルカルカがやはり何故か持っていたチョコパウダーが無限に出てくる粉ふるい機から出ているらしい。
「今のうちに行って!」
 ルカルカの声に、姫星はジゼルの腕を掴んで走り出した。
 進む方向に居る三人の強盗の内、一人を反対の空いている手の爪で引っ掻くと、残りの一人にネグリジェから出た尻尾でぶっ叩いた。
 叩かれた強盗はもう一人強盗を巻き込んで倒れ、女性達の前に道が開ける。
「行きましょう!」
 彼女に皆が続いていったが、雅羅が付いてこない。
「雅羅さん!?」
 振り返ると引っ掻かれていた強盗が、雅羅の腕を掴んでいたのだ。
「先に行って! 後で追い付くから!!」
 皆が頷いて走り出す。雅羅は腕を掴まれたまま敵に向き直ろうとした。
 その時だ。
「ッ!!!?」
 雅羅と目が合ったその強盗の服が、バラバラと床へ落ちて行ったのだ。
「きゃっ!!」
 雅羅が慌てて目を逸らすと、敵はもっと慌てた様子で股間を両手で隠している。
 ルカルカの放った真空波が彼の服を一瞬で切り裂いていたのだ。
「今日はお花見に使う酒の肴を買いたかっただけなのに……。
 ええい、こうなったらヤケよ。災い全て剥ぎ取るべし、よ!!」
 ぶっちゃけ出したルカルカは、言いながらプロボークで敵を挑発し始める。
「ちょっと! なんで挑発なんて……」
 雅羅は彼女の無茶を止めようとするが、目の前に迫った強盗達の姿を見るとルカルカはぺろりと舌を出した。
「真空波! 真空波! 真空波! 真空波! 真空波! 真空波!」
 差し詰め格闘ゲームの嵌めでも喰らった様な状態だ。
 ルカルカが連打で放った真空波によって、強盗達は全て裸に剥かれてしまったのだ。
「うわあああ」
「やっやべえ! とりあえず下だけでも隠せ!!」
 慌てている強盗団を見て、ルカルカはきゃっきゃと笑い声を上げている。
 その後ろから、鞄から何か取り出したらしいニケが音も無くぬっと現れた。
「ルカ、雅羅、これを」
 ニケがルカと雅羅に差し出したのは鞭だった。
 そういうニケも手に鞭を持っている。
「これって……」
「雅羅、一緒にあの子達をお仕置きしてあげましょう。女王様みたいにね。
  ”この犬めの恥ずかしい姿をどうぞ罵って下さい”と懇願するまで、
 新しい快楽を……しつけてあ・げ・る」
 うふふふと陶酔したように怪しく笑うニケの横で、ルカルカは鞭と手に裸になった男達をにやりと眺めた。
「私、残酷ですわよ」

 パシーン
 
 かつて子供達と女性の笑い声が響いていたキッズスペースの前で、
 その場には恐ろしく不似合いな鞭のさく裂音が木霊した。