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リアクション
【第一章】4
ロマンティックな小花柄がスモーキーカラーに映えている華やかなデザイン。
ラメ入りレースがパンチの効いた如何にも若い女性向けのデザイン。
ふんわり系のシフォンにドットが散りばめられたラブリーなデザイン。
どれもこれもいいデザインだが、これではゼロ点……いや、マイナスだ。
そう、履いている本体が居なければ!!
そこに女性履いていたという事実が存在しなければそれはただのパンツ。
何の意味も成さないではないか!!
「全く、けしからんな」
国頭 武尊(くにがみ・たける)は呟いた。
いや、けしからんのはお前だ。
という全ての第三者の意見を振り切って、彼は下着コーナーで堂々と獲物を物色している。
女性客はおろか警備員すらその行動に気づいていないのは無理も無い、彼は光学迷彩を使っているのだ。
武尊はこの空京最大の下着売り場に、大手下着メーカー「セコール」空京支社の丁稚として、他ブランドの新作下着の調査の為に潜入していた。
光学迷彩を使用しこっそり侵入してはいるが、ヤマシイ目的があっての事ではない。
決して覗きをしようだとか、可愛い娘が試着したぱんつを確保としようとかそんな目的ではなかった。
決して。
け っ し て。
そう、今彼は”市場調査”の仕事中なのであって、恐らくの今目的を同じくする仲間は光学迷彩の存在に気づかずに隣にいるこの二人だろう。
テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)とクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)。
「ぅぅがぁ、がぅがぅがぉ」
「うむ、そうだな」
恐竜の着ぐるみと下着姿のままの女性のシュール過ぎる会話の内容はさっぱり見当がつかないが、彼らの先程からの行動を見る限り、買い物に来たのではなく武尊のように市場調査にきたと見て間違いないだろう。
”今日の俺の御仲間”という武尊の読み通り、テラーとクロウディアの二人はクロウディアの商会である「陽竜商会」の宣伝と発展の為、
「どのような下着が現在売れているのか」を調査するため、このランジェリーフロアへやってきていたのだ。
自分でどのような下着がいいのかを確認するため、試着した下着姿でウロウロし売れ行きの良い下着を調査しているクロウディアの姿は如何にも怪しかったが、その表情は真剣そのものだ。
あっちにこっちにと動くので、その度に美しい髪が揺れている。
働く女性は美しかった。
武尊は密かに――クロウディアのパンツ姿に向かって――「グッジョブ」と呟いた。
「ん? 今何か聞こえた様な……」
クロウディアの反応に、武尊は慌てて場所を変える。
――危なかったぜ……っと、なんだあいつら?
場所を変えた武尊はまたも怪しい動きをする物を見つけた。
バルーン系スカートのワンピース姿は一見すると女性のようだが、顔を見てみると鼻の下がうっすら青い。
顎には髭のそり残し後が残ってしまっていた。
そんな数名の女装した男達が一つのコーナーでこそこそと動いているのだ。
男達が先程からチラチラと見ているのは、買い物に来ている女性客達ではなくどうやら中心に飾られたマネキンのようだった。
マネキンが見に付けて居るのは薄い青緑色が鮮やかな生地に、宝石が散りばめられたとんでもなくゴージャスなセットだ。
――これ……ヴィクトリーシークレットのコーナーか。
ヴィクトリーシークレット。
有名女優やモデルが愛用している事からブームに火が付き、ここ数年で急成長を遂げた新進気鋭のブランドだ。
武尊の働くセコールでもライバル企業としてその動向に逐一目を光らせているので、この五周年記念モデルの事も良く知っていた。
セクシーで大胆なデザインが売りで、女の子がこれを付けていると知ったらちょっとびっくりしてしまうようなものまである。
コーナーの中でそんなデザインの一つを手にとっている少女が居る。アリサだ。
「これは凄いな、紐にスケスケレースか」
「え、まさかアリサそんな大胆なデザインを」
「着ないわ!!」
桐生理知の疑いに、アリサは思わずオーソドックスな突っ込みを入れてしまった。
「わ、私はこの”普通のパンツ”と”普通のブラ”にする」
「ふぅん。私はリボンとレースが可愛いコレを試着してみようっと」
理知が北月智緒と一緒に試着室へ向かうのを見おくって、アリサはこっそり手に持っていたセットを、隣の”盛り盛りアップブラ”にすり替える。
「アリサー、行くよー!」
「あ、ああ」
背中に”盛り盛りアップブラ”を隠しながら歩いていたのに、後ろから声を掛けられてアリサは飛び上がる。
「アリサも決まったの?」
「わたくし達はこれから二回目の試着ですわ」
どうやら雅羅も美緒も、他の友人達もアリサの持っているブラジャーに気づいていないようだ。
アリサは安堵の溜息を吐くと、一縷の望みを”盛り盛りアップブラジャー”に託して試着室へと向かう。
――これを着れば私も美緒や雅羅……いやせめてジゼル達くらいの平均サイズに!!
「ではこちら二点で宜しいですね。試着室へこのカードをお持ちになって下さい」
「はい、有難うございます」
如何にもお嬢様然と腰を折り、店員に丁寧にお辞儀をして受け取ると、美緒は試着室へと足取り軽く向かう。
美緒は気付いていない事なのだが実は渡されたブラジャーは、先程美緒が選んで手に取ったものとは何かが違っていたのだ。
手早く服を脱いで手に取ってみると、美緒自身もその違和感を感ぜざるをえなかった。
「……何だかちょっと温かいような?」
そう。そのブラジャーは、実はブラジャーであってブラジャーでなかったのだ。
試着室に入る前。
店員は客から下着を受け取ると、商品をハンガーを外して置く。
その後万引き防止用のチェックカードを準備しに店員が一瞬その場を離れた瞬間だった。
何者かの手によって、美緒の下着はフェイク――即ち全裸に描画のフラワシでボディペイントを施し擬態化したもの――に取り換えられていたのだ。
受け取りと受け渡しの際は気付かなかったが、流石に身につけるとなると違和感に気づいてしまう。
「何だか変ですわね」
美緒はホックを付けようとしていた所をはずしてみて、デザインを見直してみようと手に取った。
その時だった。
「きゃああああああ変態よ!!!」
「銃を持ってるわ!」
試着室の外から声が響いてきたのだ。
「え? 今のは一体……」
戸惑う美緒をしり目に館内放送も流れ出す。
『お客様にお知らせ致します。只今館内に武器を所持した強盗団らしき集団が侵入し……』
その音をかき消すように響く銃声や悲鳴で、店内がパニックになっているのはわざわざ外にでて様子を伺わずとも手に取るように分かった。
「皆様ご無事ですの!?」
まず近くにいるであろう友人たちに声を掛けると、すぐに返事が返ってくる。
「大丈夫です! 美緒さんは」
「平気ですわ」
「皆どうしよう、私商品の下着着たままだし……」
「兎に角いいから上にスリップだけでも着て出てしまえ」
「ホラ、私たちも逃げるのよ!!」
「う、うん、分かったわ!」
雅羅とジゼルの声が聞こえて、彼女達が試着室を飛び出したのが分かった。
「わたくしも早くしなくては!!」
慌てる美緒は先程感じていた違和感も忘れてブラジャーのホックを付けると、雅羅達と同じく下着のまま試着室を出て行った。
ある意味何者かの計画に乗せられているとも気付かずに……。
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