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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■空京観光 ショッピング&フラワー
 ――陽が昇り、ミリアリアたちの空京観光当日を迎えた。契約者たちはミリアリアとクルスの二人と一緒に、空京へやってくる。
 空京までの道中で襲われるのではという危惧もあったが、幸いそのようなことはなかったようだ。そしてその道中で、匿名 某(とくな・なにがし)はミリアリアとクルスへ『禁猟区』を施した《絆のアミュレット》(同じデザインのもの)を手渡しておく。何かあれば、ミリアリアたちに危険が近づいたことでいち早く気付けるだろう。
「ここが空京で一番のショッピングモールねぇ。確かにすごい賑わいだわ」
 そんなわけで開始となった空京観光。まず案内を買って出たのは歌菜であり、夫である月崎 羽純(つきざき・はすみ)と共だって案内したところは――洋品店の立ち並ぶエリアであった。
「せっかくのデート……じゃなかった、観光ですし服をふさわしいものにしちゃいましょう。羽純くんたちはクルスさんのほうをよろしくね」
「気合入れちゃいますですよー! ばっちり可愛く、コーディネイトしちゃいますですっ!」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)もミリアリアを着飾ることに一段と気合を入れているようだ。……そんなこんなで、ミリアリアは女性陣と、クルスは男性陣とそれぞれに分かれ、観光……もとい、デートの服選びをする運びとなったのだった。

「このフリルブラウスなんていかがですか? ジレと組み合わせて、可愛いお姉さん風がいいと思うですっ!」
「カジュアルな雰囲気がいいと思うんだよね。だったらこの服と合わせて……」
「おお、一気に良くなったですよっ!」
 こちらは女性陣。元々服に無頓着だったミリアリア(事実、この日もつばの広いとんがり帽子にローブという完全魔女スタイルだった)は着せ替え人形のごとく、あれやこれやと試着を繰り返している状態となっている。
「う、うーん……こういうのって初めてだから、なんか色々とむず痒いわね……」
 原石がよかったからか、女性陣――主に歌菜とファイリアがだが……の服選びはますますヒートアップする。そんな中、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)がミリアリアに話しかける。
「ミリアリアさん、大変そうね。……少し聞きたいんだけど、小さい頃のモニカとの思い出って何か憶えてる?」
 モニカの名前に少しだけハッとするミリアリアだったが、すぐにいつもの調子に戻ると返答をしていく。
「……多分、あの子はほとんど憶えてないわ。モニカと生き別れたのは、あの子がまだ物心つく前。はっきり言ってしまえば、モニカとの思い出はほとんどないようなもの……」
「そうなんだ……ごめん、つらいことを思い出させて」
 ミリアリアの言葉に、ウィノナは謝る。だが、ミリアリアは首を小さく横に振って大丈夫だと告げた。
「安心して。話せばきっとわかってもらえる……私の勘がそう感じてるのよ」
 その様子は、いつもと変わらぬ楽観的な雰囲気だった。
「それにしても……やっぱりこのヒラヒラとか、慣れないわね……いつもの服じゃだめなの?」
「だめ! まずは見た目から落としていかないと!」
「だめですっ! ミリアリアさん、じっとしててくださいですっ!」
 ミリアリアの言葉、一蹴。……この後もかなり長い間、色々と試着をしていったとか。

 一方、クルスたち男性陣は無難な男物の服を選んでいるところだった。特に羽純は歌菜から「普段から着れるような洋服をお願いするね」と頼まれているため、それを中心に選んでいるようだ。
「なぁクルス、ミリアリアとの生活はどんな感じなんだ? なんかオレのじっちゃんが『ボーイ&ガールが一緒にいれば恋の青春 一つ屋根の下に住みゃ青い春熟れて愛の桃春になるYO!』とか言ってたんだけど、そこまでいったのか?」
 クルスと仲良くなるべく、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)はクルスの近況を本人に訪ねていく。同じくクルスと仲良くなりたいテテ・マリクル(てて・まりくる)も無邪気な様子を見せながらクルスの返答を待っている。
「……康之さんのお爺さんの言葉の意味はよくわかりませんが、ミリアリアさんにはよくしてもらってます。色々と学ばせていただいてますし、楽しく過ごしています」
 ……思った以上に無難かつ平凡な返答だった。続いて、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)もクルスへ質問をしていく。
「ミリアリアとの生活も順調みたいでなにより。それでクルス、この世界はどう感じているかな。今日が初めての遠出になるとは思うが……」
「そうですね……皆さんもそうですが、この街の人たちも、そしてミリアリアさんも楽しそうです。この世界は、笑顔であふれていてとても楽しい世界。僕はそう感じています」
 クルスからの答えに、アルクラントは納得したように笑みで頷く。この素晴らしい世界を彼なりに理解し、堪能しているのならば問題はないだろう。アルクラントはそう考えていた。
「クルス、起動してから今日までで何か思い出したりとかは?」
 某もクルスへ質問する。ほとんどの記憶が失われているクルスが少しばかり気になっており、なによりその内容が気になっていた。
「……すみません。思い出そうとはしてるのですが、まったく思い出せないんです。まるでどこかに置き忘れたかのような、それくらい思い出せなくて……申し訳ないです」
「ああいや、気にしなくていいさ。今は楽しく過ごすことだけを考えてくれ」
 もし何か気になる情報などがあれば、現在別の依頼を受けにいっている知り合いに連絡するつもりではあったが……とてもじゃないが無理そうである。
「はい、ミリアリアさんも僕のためにこの街の観光を頼んでくれたみたいですし、楽しみたいと思います。……今の僕にとって、ミリアリアさんとの日々が一番の思い出になるはずですから」
「――クルス、その気持ちは忘れちゃいけないぜ。『一番』と思う気持ち……それはすげぇ大事なモンだから、何があっても絶対に忘れちゃだめだからな」
 康之はトンッと拳をクルスの胸に当てながら、クルスへそう言い聞かせる。クルスもその言葉の重要性に気付いたのか、頷いて答えていくのであった。


 ――最終的に、ミリアリアは『カジュアルな可愛いお姉さん』風の服装で落ち着き、クルス側も普通の生活に十分な服を購入し終えたようだ。新しい服を着たクルスを見て、ミリアリアは思わず顔を赤くしたりしていた。
 次のスポットへ向かう道中、某がミリアリアにクルスと過ごしている間に気になったことがあるかどうかを尋ねたが、「別段これといっては……ああ、異性としてなら気になってはいるけど……」と返ってきたので、それはわかってるから言わなくていいです、と突っ込んでいた。
 移動中は白雪 魔姫(しらゆき・まき)の提案であるウィンドウショッピングを楽しんでいく。と、フローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)が魔姫に話しかける。
「こういったことを引き受けるなんて珍しいね。魔姫のことだから、『リア充なんて知るかー、爆発しろ!』って言って一蹴するかと思ってた」
「私たちが邪魔するくらいじゃ爆発したりぶっ壊れたりしないし、したらその程度ってことでしょ。……なにより、見たところミリアリアの片想いの状態だから、リア充もへったくれもないわよ」
「そうなんですか?」
 エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)が首を傾げる。……確かに見ると、ミリアリアはクルスを意識しているように見えるが、クルスは全くその気配がない。これではクルス以外の誰が見ても片想いだというのはバレバレである。
(クルスに恋愛感情ってあるのかしら……エリスにはないみたいだから気になるところではあるんだけど)
 そう考える魔姫。その前方では、ミリアリアたちが楽しそうにしながらウィンドウショッピングをしているのであった。


 ……そんなことがありながら、次にやってきたのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が経営している花屋であった。
「春は色とりどりの花が咲く季節。生活の潤いに花はいかがでしょうか?」
 ミリアリアたちはリュースのおすすめなどをの花を見て回る。クルスも様々な花が珍しいのか、眼を輝かせながら花を見ていた。
「すごいですね……こんなに色んな花があるなんて! 見たことがないのがたくさんですよ!」
「気に入ってもらえたようで何よりです。今のおすすめは……ラナンキュラスやヤグルマギク、あとは桜ですね。さすがに桜は扱ってないですけど」
 店先に咲いているので我慢してください、とリュースが冗談っぽく口にすると、リュースの視線はミリアリアへと移っていく。
「先ほどウィノナさんからお聞きしましたが、モニカさんはミリアリアさんとのことをほとんど憶えていないんでしたよね? でしたら、モニカさんに聞かせていた歌とかありませんか? そういうのがあれば、心に訴えかけられると思うんですが」
 リュースからの言葉に、ミリアリアは昔を思い出していく。そしてすぐに、あることを思い出したようだ。
「……役に立つかどうかはわからないけど、昔あの子をあやすために歌ってた子守唄があるわ。ただ、本人が憶えてるかどうかは……」
「いえ、それで十分です。よかったらそれを教えてください」
 ミリアリアはその言葉に頷くと、すぐに子守唄をリュースに教えていく。それを覚えたリュースはミリアリアに感謝の念を伝えると、再び経営者モードに戻って接客を続けるのであった。