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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■疑惑のシステム修繕
 ――ミリアリアたちが空京で観光を楽しんでいる一方、シャンバラ大荒野の南東部分にある遺跡、“黒船漂着地点”では資産家のヴィゼルが依頼をした契約者たちが集まっていた。そこにはヴィゼル本人の姿もある。
「こんなに大きい物を直せるなんて、修理屋冥利に尽きるね! ええと、こっちが動力室かな?」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は遺跡に眠る黒い機動要塞を修繕できる、とのことでかなり気合が入っているようだ。他の技術者勢も似たようなものであるが、その物々しさには素直に喜べずにいる者もいないわけではなさそうだ。
「それに反応があったら、すぐに駆けつけますので」
「うむ、前回の時といいすまないな。ありがたく借りておこう」
 樹月 刀真(きづき・とうま)から『禁猟区』のかかった《銀の飾り鎖》を受け取ったヴィゼルは、変わらぬ明朗さを見せて刀真へニマリと笑いかけた。
 まずはヴィゼルの案内で、機動要塞の中を見て回ることとなる。機動要塞の中はそれなりに広く、機動要塞としての体裁は整っているように見える。ただ、ところどころ明かりが途切れていたりなど、修繕が必要そうなのははっきりしていた。
「ほほぉ、お主も考古学に興味があるのか。この遺跡を見つけた時、わしの胸が高鳴ったものだよ」
「未知の物に触れる、という喜びは何物にも代えられない……その気持ち、十分にわかる。同じ考古学に興味を持つ者として、この遺跡も興味が尽きないな」
「ヴィゼル氏としてはこの遺跡はどう考えているのか教えてもらいたいものですが」
「確か、先にこの遺跡を調査したとか。俺もその話はぜひ聞いてみたいところだ」
 その移動中、ヴィゼルと『考古学』にかんして話の花を咲かせているのは、前回の依頼ですっかり意気投合したメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)。今回はそれに加え、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の『根回し』のかいもあってかグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)も話に参加しているようだ。
 三人の遺跡談義の間、ロアやセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は要塞内の設備の損傷状況などの詳細をそれぞれの《銃型HC(ロアのは弐式)》に記録しながら、実際の作業に入った時に少しでも楽に作業ができるように手はずを整えていた。
 そんな中、グラキエスが楽しそうに話をしているのを快く思わない者がいた。その名はエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)。グラキエスへの執着がとても強く、今出でている感情は嫉妬と呼ぶにふさわしかった。
「グラキエス様、あまり話し込んでいては作業時間に支障が出るかと」
 エルデネストは“作業時間”を口実に、グラキエスとヴィゼルの会話をさりげなく妨害していく。お茶で気分を変えさせる、という手も考えたがここで出すと完全に会話モードになってしまう、と踏んだのかその作戦は置いておくことにしたようだ。
「……そうだな、話すだけじゃなく実際に触れてみるのも大事かもしれない。お話はまた後にでも」
「うむ、そのほうがいいだろう。……作業したくてうずうずしてる者もいるようだしな」
 ヴィゼルの示す通り、動力室内では木賊 練(とくさ・ねり)がパートナーの彩里 秘色(あやさと・ひそく)を助手としながら、室内のチェックをすでに行い始めていた。それに合わせ、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)とパートナーであるアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)の二人は桂輔の『根回し』を駆使して動力室の資料を集め回っている。
「はっはっは……失礼、もう作業しているようだ。グラキエスは全体的な要塞の修繕担当だったか、頑張ってくれよ」
「さ、グラキエス様こちらへ。既に他の技術者たちも作業を開始しています」
 エルデネストの誘導に「わかった」と返事し、グラキエスはヴィゼルに一礼したあと、ロアたちと共に機動要塞内の修繕箇所へと向かっていったのであった。


 ――黒い機動要塞・ブリッジ部分。管制室とも呼ばれるこの部屋では、要塞全体のコントロールなどを行うメインシステムの修繕を、担当の契約者たちの手によって行われていた。
「……システムのアクセス完了。うん、話の通りそこまで壊れてるほどでもないみたい」
「こっちもデータベースにアクセスできたわ。プロテクトもかかってないみたいだから、『資料検索』も問題なく行えそう」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が手持ちのコンピューターや《シャンバラ電機のノートパソコン》を用いて各種システムへのアクセスを完了させると、他のシステム修繕担当契約者たちも続くようにしてメインシステムにアクセスしていく。
「よし、それじゃあ始めよう。……なるべくなら、ヴィゼルが戻ってくる前に終わらせるつもりでやるぞ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の合図により、システムの修繕が開始される。とはいえ、修繕自体はそこまで複雑なものではないが……。
「――えーと、制御システムは……ファジィ制御かしら。これだけの大きい機動要塞なら、論理制御とフィードバック制御の同時併用を使わないと管理は難しそうね。プログラムは……特に大幅な書き換えは必要なさそう。となるとこことここをビット演算で繋ぎ直して、ここをコンパイルしてからプロパティで……」
「……セレンが理系女子なんだってのを、改めて痛感するわね。こっちは手伝えそうにないし、私は私のできることをやらないと。セレン、頑張ってね」
 システム修繕と資料をまとめる作業に集中しているセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の口から飛び交う専門用語を聞いて、改めてセレンフィリティが理系であることを再認識するセレアナ。……修繕自体はそこまで複雑ではないものの、理系でない者にとってはちんぷんかんぷんなのには変わりない。
 手伝えることはないかと様子を見に来たセレアナであったが、人数も足りているうえ、何より文系の自分には手伝えそうにないと判断したセレアナはセレンフィリティに一声かけてから要塞内の修繕に向かうことにした。

「システム情報検索……うーん、要塞の詳細図は、っと……」
 月夜は『資料検索』の特技や『ユビキタス』のバックアップの元、『機晶技術』『先端テクノロジー』を使いメインシステム内の情報を調べていく。『R&D』も使いたいところであったが、相応な時間が足りず断念せざるを得なかった。
 ルカルカもダリルと共にシステム内の中枢部分へアクセスを試みていた。プロテクトやウィルスがあるものかと思っていたが、そういった類はシステム内には全くないようである。
「中枢部分……到着。ここの修繕は他と同じでほとんど必要ないかな。じゃあ、調査を始めるわよ……まずは――」
 ルカルカはキーボードを軽やかに叩いて中枢部分へ5W1Hの問いかけを入力する。……そこから導き出された答えは、来歴部分にあるようだ。
 その来歴を調べてみると、どうやらこの機動要塞は古王国時代に建造されたものであり、局地制圧を目的とした運用がされる“予定”だったものらしい。というのも……。
「――あれ、この機動要塞……何度かメイン動力は動いてたみたいだけど実際の航行はされてないみたい」
 情報を検索していた月夜が航行記録を見つけたのだが、その記録は全くの白紙だったのだ。どうやら、何度か動力稼働テストが行われた程度であり、実際の運用はされた形跡はないらしい。
 ……そして、その記録には阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)もたどり着いていた。もっとも、こちらの目的は全く違ったものだが。
(むぅ、航行記録がなければ関連した遺跡が割り出せないのだよ……けど、それ以外に有用な情報はありそうだし、調べる価値はありそうなのだよ)
 遺跡の探索に出ている斎賀 昌毅(さいが・まさき)の代わりにシステムの修繕に参加し、修繕している振りをしながらシステム内の情報をかき集めている那由他。――そう、全ては前回のリベンジ。今度こそここで出し抜き、新たな未発掘遺跡の情報を手に入れて、一攫千金のチャンスを得るためだ。
 しかし航行記録がないとなれば、そのチャンスも潰れてしまう。那由他は慌てて他の情報を見つけようとキーボードを叩く。
(――お、何か見つけたのだよ。これは……保有武装の情報なのだよ。……おお、これは!?)
 那由他が見つけたのは、どうやらこの機動要塞の保有武装情報だった。それを見る限り、どうやらこの機動要塞にはイコンならば二十機ほど保管できそうな、大型飛空艇を保管できるスペースも用意されているらしい。しかし何よりも、那由他の目を輝かせたのはその大型飛空艇が製造されていたと思われる遺跡の情報が記されていたのだ。
 ……見れば、まだこれに気付いている作業者はいない。那由他は漏れる笑いを噛み殺しながら、そのデータを《銃型HC》に記録。元データを消去しようとも考えたが、不自然な消去跡は逆に怪しまれる可能性があると考え、出し抜きがさらに成功するよう、座標だけを書き換える荒技をおこなった。
「ん……これはこの機動要塞の保有武装情報か?」
 那由他が保有武装情報のアクセスを切ったとほぼ同じタイミングでダリルが武装情報を参照し始めた。ギリギリのすれ違いだったが、何とか情報を持ち出しきって、那由他はホッと安堵する。そしてすぐに昌毅へこっそりと連絡を入れ始めたのであった。

 ――《籠手型HC弐式》で機動要塞の保有武装情報を確認するダリル。それと並行して、ダリルは《銃型HC弐式》経由での検索であることを調べていた。それはヴィゼルに関する様々な情報である。
 なぜヴィゼルがこのような戦闘目的の機動要塞を修繕し、起動させようとしているのか。謎は解く為にある、という理念を持つダリルにとって、この依頼の裏を取るのはその理念にかなうものであった。
 そして――調べた結果、ヴィゼルにはかなり黒い噂が付きまとっていることが判明した。自らの利益のためならばあらゆる黒い手段を使う、独自の暗部を編成している、その土地を手に入れるために争いを自ら作り上げたなど……。
 全ては噂の域を出ないものらしいが、ダリルにはそれが噂には思えないような気がしてならなかった。
「前回の依頼にこの依頼……確実に何かがあるな」
 しかし、確定ではない以上他の契約者に下手に伝えて不審を広げ、ヴィゼルに気付かれるわけにもいかない。ダリルは先の見えぬ黒い予感を感じとりながら、再び修繕作業へと目を移すのだった。

 ……那由他以外の、真面目に作業をしている契約者たち。それぞれの思惑を持ちながら作業を進めており、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とそのパートナーたちであるアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)はシステムを弄りながらそのシステム内にとある仕込みをしようとしているところだった。
(アレーティア、システムの修繕具合はどうなってる? こっちはだいぶ終わらせたが)
(ふむ……真司と同じように『機晶技術』と『先端テクロノジー』、それにわらわの特技である『コンピューター』の知識をフル動員しておるが、それほど壊れておらぬから簡単に終わりそうじゃ。改造もほどなく進んでおるが――どうやら、ダリルのほうも似たプログラムを仕込み中のようじゃな)
 バックアップ作業を並行して進めるアニマと、作業進捗情報を管理し皆に伝えているヴェルリアによるサポートを受けながら、プログラムに“緊急用システム掌握コマンド”を仕込もうとする真司とアレーティア。どうやら、ほぼ同じ箇所へ似たプログラムをダリルも仕込もうとしており、その関係でお互いがそのプログラムの存在を認知したようだ。
(――すまないが、このトラップのことは内密に頼む。使う機会がなければ問題ないのだが、どうもそうもいかないみたいなのでな……)
 ダリルのほうも真司たちの仕込みに気付いたのだろう。小声で真司たちへトラッププログラムのことを秘密にしておいてほしいという言葉に、真司たちは頷いていく。また、ダリルのほうも真司たちの仕込んだプログラムのことを秘密にすることにした。
(さて、あとは起動用のパスワードだが……)
「ん? なんかここのプログラム、さっき見た時と違うような……」
 ダリルがいざ修繕の仕上げをしようとした時、マニュアルを作成するためプログラムを見直していたセレンフィリティが、仕込みプログラムの存在に気づきそうになる。それを見たルカルカは、慌てて立ち上がった。
「そ、そうだ! そろそろチョコバーとお茶で優雅なひと時を過ごすのも悪くないわよね! みんな、長時間の作業だったんだし甘い物で頭と目を休ませようっ!」
「――え、ええわかったわ。確かに長い間画面とにらめっこだったものね……んーっ、どれくらい作業してたのかしら」
 ルカルカの言葉にセレンは画面から目を離して、休憩にしようという提案を背伸びしながら受け入れる。その隙にダリルは起動パスワードをとっさに入力し、普通のプログラムとして偽装させた。そして、そのまま作業者たちはひと時の休憩に入っていくのであった。


――起動パスワード……それは、実際に運用になった時ほとんど言わないであろう今の言葉の一部――。