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サクラ前線異状アリ?

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サクラ前線異状アリ?

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「貴公がレニ・オルロフスキーか! 古来より伝わりし伝説の悪の儀式『花見』を行おうとは、その意気や良し!」
 屋敷中に響き渡るくらい高らかにそう叫んでいるのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「若いながらに感心だ! この俺も、同じ悪の組織を率いる者として、その儀式に協力しようではないか!」

「あああ、やっぱり……っ」
 聞き慣れた高笑いに、咲耶が絶望的な表情でつぶやいた。
「お兄ちゃん、いつの間に屋敷の中に……」
「それが……」
 ポー爺も髭を震わせて狼狽えている。
「先ほど、ぼっちゃまを訪ねていらっしゃいまして……取り込み中ゆえ、日を改めていただきたいと申し上げたのですが、まったく聞く耳を持たず」
 咲耶は思わず頭を抱える。
 それはそうだろう。聞く耳を持たないことに定評のある兄だ。
「気がつきましたら、あっという間にぼっちゃまの書斎に……」
「あああ、ごめんなさい、私……取り返しのつかないことをしちゃったのかも……」
 兄に言うよりは若干ましかも、という思いで天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)にメールをしたのだが、彼とて「秘密結社オリュンポス」とやらのメンバーであることに違いはなかったのだ。
「……と、とりあえず、レニくんを守らないとっ」
 咲耶は悲痛な決意を胸に、書斎に向かった。

 書斎では既に、ハデスによる「悪の一味」へのダメ出しが始まっていた。
「しかし、オルロフスキー一味だと? なんだ、その凡庸なネーミングは……そうだな。お前は今後、『悪のテロ組織コキュートスの吸血真祖レニ』と名乗るがよい!」
「き、貴様……っ、我がオルロフスキー家を愚弄するか!?」
 レニの顔色が変わったのを見たハデスは、ちょっと狼狽えて両手でレニを制する。
「ま、待て、そんなに怒るな。それほど思い入れがある名なのか? ならば『悪のテロ組織コキュートスの吸血真祖にしてオルロフスキー家の当主レニ』でどうだ」
「長いわ!」
 レニが喚く。
 意外にツッコミのタイミングが上手い、と十六凪はこっそり思った。
「……お兄ちゃんっ! なに純真なレニ君を悪の道に引きこもうとしてるんですかっ!」
 ばんっ、と勢いよくドアを開いて咲耶が叫んだ。
 ハデスは笑顔で振り返る。
「おお、我ら秘密結社オリュンポスの改造人間、高天原咲耶セカンドエディションver.4.12ではないか。伝説の悪の儀式の報告、ご苦労!」
「私は改造人間でもセカンドエディションでもないし、悪の儀式とやらの報告もしてませんっ」
 ハデスは傷ついたような情けない顔で咲耶を見た。
「何故そんな冷たいことを言うのだ、咲耶ゼロ・カスタムよ……反抗期か?」
 すぱーん。
 咲耶はものも言わずにハデスの後頭部をひっばたいた。
 やはりハデスに対する突っ込みのタイミングで咲耶にかなう者はいない……と、十六凪は確信した。