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リアクション
「前のショーは成功したようですね。では、ボクたちも頑張りましょうか……ん」
リアトリスの舞台が終わり、次に控えていたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が立ち上がる。
その出で立ちは、まるで女王を護る騎士。
後方には女王お付きのメイドの体で真っ白なゴスロリ服を身につけたパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)が控える。
そして主役の『雪の女王』は、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)。
彼らは今から、演奏会を始めようとしていた。
その時だった。
準備をしていたアルテッツァの目に、見覚えのある人物の姿が映った。
「全くもう、何でこんな恰好なのだ」
「仕方ないでしょ。夢の国なんだから。それに、似合ってるよ、おさげ」
「む、むぅ……今は関係ないだろう!」
「かぼちゃぱんつを履いてくれなかったのが唯一の心残りだねえ」
「余計なことを……っ」
それは、オズの魔法使い御一行だった。
ドロシー姿の林田 樹(はやしだ・いつき)。
カカシの格好の緒方 章(おがた・あきら)と、ブリキの木こりの新谷 衛(しんたに・まもる)。
アルテッツァたちは知る由もないが、彼女たちはこのディティニーランドに潜伏中の強盗犯人を捜している最中だった。
「やあ、イツキ。久しぶりですね」
「お前は……」
いきなりアルテッツァに声をかけられ、樹は絶句する。
ことさらに明るい口調で、アルテッツァは続けた。
「その髪型、似合ってますよ。……昔のキミを見ているようですね」
「貴様、ここで何をしている?」
「見ての通り、演奏です。キミこそ、ここで何を?」
「……」
アルテッツァの言葉に口籠る樹。
「キミも、そんな教導団員といないでボクたちと一緒に演奏しませんか?」
アルテッツァは、微笑んでいた。
しかしその瞳は笑ってはいなかった。
氷のように冷たい視線で、樹を、そして周囲の人物を射抜く。
「きゃはは、はっけ〜ん!」
「うっわ、『マグダラのマリア』!」
ふいに、パピリオが衛に抱き着いた。
「んふふ、相変わらず可愛い女の子ねえ。ま、ぱぴちゃんが作ったんだけど」
「……ヤな奴がいた」
「あーん、さげぽよ〜。そんなナリじゃ好きだったお酒も飲めないからって、八つ当たりしちゃやーよ」
「八つ当たりじゃ……むぐ!?」
「ほぉら、食べてみるぅ?」
衛の口の中に、持っていたウイスキーボンボンをねじ込むパピヨン。
指が唇の中に入らんばかりに、ぐりぐりとチョコレートを推し続ける。
「んも……むうぅっ!」
「下がって、樹ちゃん」
樹の肩を抱いた人物がいた。
「あ……アキラ」
「貴方はつくづく、樹ちゃ……樹を過去に留め置きたいようですね。ですが」
ぐい、と章は樹を引き寄せる。
「樹は昔の彼女ではありません」
「それくらいにしときなさいよ、アンタ達」
3人の間にするりと割って入ったのは、レクイエムだった。
「敵役を気取るのはそれくらいにしときなさい」
「……銀の魔導書よ。我々にも仕事がある。無用の混乱は避けたい。お前からアルトに言っておいてくれまいか?」
「そうそう、アタシ達にも仕事があるんだから」
「仕事ですか……あははっ。いつか、イツキと一緒に演奏ができるといいですね。ボクは待っていますよ。キミが戻ってきてくれることを」
「人は日々成長するものです。過去を振り返ったりは、しません」
章がきっぱりと言い切る。
「それと、悪魔のお嬢さん」
「ん?」
自分の事を言われたのに気づいたのか、パピリオが振り返る。
「お菓子で悪戯するのは、それくらいにしておいてくださいね」
「んん〜」
章に言われたせいなのか、それとも単純に飽きたのか。
パピリオは素直に衛の口から指を離す。
「……ぶはっ」
解放された口から慌てて息を吐く衛。
「もっとほし〜ぃ?」
「……ワリーけど、オレは、テメーのウイスキーボンボンよりだれかさんが作ったアマンドショコラの方が好きなんだわ」
「んま」
「さあ、行くわよ。お客さんたちが待ってるわ」
「そう、ですね。……旅芸人時代を思い出します」
樹に背を向けるアルテッツァ。
顔を見ることなく、言葉を続ける。
「イツキ。ボクは待っていますよ。キミが戻ってきてくれることを」
「……」
「それでは、さようなら……」
別れの言葉と同時に、アルテッツァたちはステージに立つ。
彼らのショーが、今始まった。
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