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動物たちの守護者

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動物たちの守護者

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◆第二章1「アジトをぶっ潰せ!」◆


 アジトのせん滅に名乗りを上げた面々は、少し辺りを偵察した後で陽動作戦をたてた。複数ある出入口の一つに敵をおびき出し、他の出入口から潜入して動物を救助、構成員たちを倒すというもの。
 その陽動役を買って出た佐野 和輝(さの・かずき)は、集めてきた木の枝やワラ、さらにどこから持ってきたのか唐辛子を手にしていた。
「仕事だ。悪く思うなよ」
 短く。冷たく言い切った和輝。手にしたソレらに火をつけ、空へと伸びていく煙を洞窟内へと流し込んでいく。
「アニス、結界を頼む」
「了解!」
 元気良く返事をしたのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。アニスは和輝が言ったとおりに洞窟の出入口に結界を張る。煙が外に出ないようにするためだ。

 さてここで。組織の立場になって考えてみるとしよう。組織のアジトは洞窟だ。そこで煙(+刺激物たっぷり)が発生したら?

「煙!? 火事か! 火を消……げほっげほっなんだこの煙、目がいてぇ」
 慌てて兎にも角にも火元を確認しようと動く構成員たち。やたらとむせている。というより涙目になりながら洞窟内を進み、必死に原因を探していた。
 和輝いわく『かがくへいき』の威力は凄まじい。
 結界を張り終えたアニスは意識を研ぎ澄ませ、構成員たちの気配を感じ取ろうとしていた。今回彼女に与えられた役目は『結界を張って煙を閉じ込めること』と『構成員が外に飛び出てくるタイミングを知らせること』だけだ。
「にひひ〜っ。ラクチン、ラクチン」
 鼻歌を歌いそうに勢いのアニスの横では、賢狼の頭の上にちょこんと乗ったルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が、それはもう瞳を……全身を燃え上がらせていた。
「動物さんに悪いことをする存在は、すべて私の敵ですぅ〜!」
 気合十分だ。

「あ、出てくるよ。和輝」

 アニスが和輝に知らせる。和輝は少し離れた場所に待機していた親衛隊たちに向かって、右手を挙げた。まだ突入はしない。最適のタイミングを計る。
「がほっけは……くそ。ボヤ騒ぎなんてボスになんて言われるか」
 涙目になりながら姿を現した構成員たち。その数5人……いや、後ろにまだいるようだが、道が狭いために一度には出られないようだ。
「なんだよ。外で燃えてんのか?」
「って、おかしくねーか。ここらへんに俺ら以外の人間はいないだろ?」
 ぞろぞろと外へ出てくる出てくる。計11名。1人だけ服装の質が違うので、指揮官なのだろう。
 和輝がアニスを見る。――これで全員か? うん、そうだよ。よし。

「――かかれ!」

 右手が、振り降ろされる。親衛隊が背後から構成員たちに襲いかかる。

「和輝さん! みなさん! たっぷりと懲らしめるですよぉ〜!」
 ルナの声援に後押しされるように、彼女の従者やペットたちもまた戦いに加わる。
「小隊を組め! 単独で動くな。各個撃破せよ」
「すぐに応援を呼んで来い! 残ったやつで陣形を組め!」
 親衛隊に指示を出しながら、ガスマスクをつけた斥候をアジトに潜入させ、飛装兵には空からの警戒をさせる。
 混乱していた構成員たちだったが、指揮官がすぐに動揺を落ち着かせ、陣形を組んで一点突破を狙ってくる。
 和輝はアジト内へ逃げ込もうとする者は追わず、外に逃げようとする者の足に銃を撃つ。和輝の役目は騒ぎを起こして目を引き付けること。
「さて、これからだな」



◆無事に

 こちらは突入班。和輝たちの陽動作戦までアジトの外で待機していた。
 洞窟の入り口を睨んでいる高円寺 海(こうえんじ・かい)に、シュクレ・コンフィズリー(しゅくれ・こんふぃずりー)が声をかけた。
「動物を不当に扱うなんて許せないよね! 僕も精いっぱい頑張るから!」
 海のことが心配で駆け付けたシュクレだったが、許せないという言葉にウソはなかった。儚げな顔に浮かぶ、『助けたい、守りたい』という気持ちを見てとり、海は少しだけ頬を緩める。
「ああ。だがあまり無茶はするなよ」
 そう言ってシュクレの頭を、なでた。あまり撫でることに慣れてはいないのだろう。少し痛いぐらいだったが、シュクレは嬉しげに笑みを浮かべた。
 犬耳のようなツインテールが揺れ、瞳を輝かせるその姿を見ていると尻尾の幻覚が見えてきそうだった。
(よーし、がんばるぞ! 少しぐらいは海さんの役に立てるはずだし、何より動物たちのために)
 シュクレが気合いを入れなおしたとき、アジトが騒がしくなった。少し遠くへ目をやれば煙も見える。
「合図だな。行くぞ!」
 低い声を出して立ち上がった海に続き、シュクレもまた立ちあがって海に声をかけた。

「うん! でも海さんも気をつけてね。僕のティータイムはいつだって、海さん優先だから!」


◆警戒せよ!

 法を犯した時点で連中に正義はない。
 それがリネン・エルフト(りねん・えるふと)の考えだった。それゆえにアジトのせん滅作戦に加わった。
 いや……ペガサスを盟友とする義賊、『シャーウッドの森』空賊団としても、許せることではなかった。
「できたらグランツ(ペガサス)たちに直接手を下させてやりたかったけど、残念ね」
「ああ。だからあいつらの分も、密漁団はオレが殴ってやる! 約束もしたしな」
 リネンの言葉に、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が鼻息荒く拳を握りしめた。いつもはただのエロ鴉……げふん。まあ、アレなのだが、真面目になると熱血な顔を見せる。
 と、リネンはもう1人のパートナーが先ほどからずっと黙っていることに気がついた。
「ヘイリー? どうかした?」
 マッピングをした地図と睨みあっていたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が「妙だと思わない?」と顔を上げて言う。
「静かすぎるわ」
 ヘイリーの言うとおり、大分奥まで侵入しているというのに、敵の気配がない。
「そりゃ陽動がうまくいってるんだろ?」
「それにしたって……ん?」
 唐突に足元の感触が変わり、ヘイリーは目を凝らして地面を見た。先ほどまではたしかに岩や砂の感触があったのだが、今足元にあるのは地面ではなく床だ。明らかに人工物だった。
「大きな組織っていうのはホントのようね。この洞窟を加工したのだとしたら」
「はっ。どうりで空気がいいわけだ」
 リネンが壁を触ると、くっきりと境界線がひかれるように人工壁が存在した。天井付近には空調のようなものも見える。あそこから新鮮な空気を中に入れているようだ。
 それらを見ていたヘイリーの目が、不自然な光を見つけた。

「リネン、危ない!」

 ヘイリーの声にリネンはとっさに反応し、飛来物……矢を剣で受け止めた。フェイミーが矢を放った敵を見つけ、そのまま足を踏み出すと、敵は舌打ちした後、背を向けて逃げ出した。どうやら1人だけのようだ。
「待ちなさい、フェイミー!」
「リネン! でもあいつ」
「……もしかして罠が?」
 こくりとリネンが頷き、身をかがめた。そして眉を寄せる。
「これは連動式になってるわ。ちょっと厄介ね」
 1つの罠が作動すると他の罠も動き出すものだ。何もない廊下に見えるが、かなりの罠が置いてあると思われた。きっと発動させずに走り抜ける方法があるのだろうが……見つけ出している時間はない。
「離れて。罠を作動させるわ」
 魔術を放ってわざと罠を発動させ、次々と動き出す罠の後ろを駆け抜けていく。発動していく罠は、とてもすぐに設置できるようなものとは思えない。
 厳しい顔をしたヘイリーは、伝令を飛ばす。確信を得たからだ。

「みんなに警告を。敵は……私たちを待ちかまえているわ」
(たとえ罠だとしても、逃げるわけにはいかないけれど)


◆作戦変更なし……以上。

「動物は法的には所有財産、窃盗罪が適用されるが、敵は武装していると思われる。
 よって動物への被害がなければオールウェポンフリー。
 殲滅し、破壊し、撃滅せよ。模倣犯なんぞ出させるな。殲滅せよ。国軍を恐れさせよ!」
 そう声を上げたのは【シャンバラ教導団少尉】相沢 洋(あいざわ・ひろし)だ。密売は違法であり、法を護るは国軍の役目。
「よし。エリス突入!」
「動物誘拐犯のみなさん、お邪魔しますね。教導団です。これより殲滅戦闘を開始します。命令ですので。以上」
 知的な見た目とは正反対に巨大なハンマーでドアを破壊したエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)を見て、洋がすぐさま「突入後は各員自由行動! 見敵必殺!」部下にげきを飛ばす。
「はいはーい、教導団でーす。ホールドアップしてねー。じゃなくて、やられ役は、やられ役を演じてよ」
 どこか呑気な声を上げたのは相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)だ。
 襲いかかって来た構成員の攻撃を腕で防ぎつつ「しっかし、この第一世代型パワードスーツ、装甲はいいんだけど、反応速度悪いなー。せめて第二世代型の……」と、文句を言っていた。
「教導団です。
 武器を捨てろとはいいません。存分に抵抗してください。職務執行中の正当防衛なら洋様の書かれる報告書が非常に簡潔になるので楽ですから」
 淡々と告げ、その身を蝕む妄執を構成員に使った乃木坂 みと(のぎさか・みと)へと、銃弾が放たれる。しかし、みとはまるで避けようとしない。
「無駄です。
 通常レベルの銃火器、刀剣類ならば教導団が誇るパワードスーツの装甲の前には無力」
 銃弾は、みとの言うとおり。パワードスーツに当たって音をたてるだけだった。

 順調に進んでいく様子を見ていた洋が、小さくつぶやく。――抵抗が、なさすぎる。
「斥候からの連絡は?」
「それが……つながりません。どうやら電波妨害がかけられているようです」
 眉を寄せた洋がさらに口を開き、彼の声にかぶさるように「伝令!」と言う声が響いた。
ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)様から、『敵は襲われることを知っていたかのよう。罠の可能性大。警戒を』とのことです」
「なるほど。あくまで邪魔をするということか」
 悪いはずの情報。しかし洋の表情に変わりはない。
「だが何も変わりはしない。我々の目的は殲滅。邪魔すれば潰す。というか――」
 揺らぎない洋の視線先には、

「お前らウゼーし、嫌いだ!」
 怒りをぶつけるようにフューチャー・アーティファクトを乱射する洋孝。
「攻撃目標、敵の膝関節、及び肩関節部分。
 犯罪の代償は汝らの身に降りかかる。神ドーシェは申されました。気に食わない相手に鉄槌を……以上」
 急所を遠慮も容赦もなく、文字通り叩き潰していくエリス。
「どうしても、わらわたちを倒したければ動物をまとめて殺す覚悟の上で広範囲攻撃をしてください。
 もっとも、その時は貴重な商品である盗んだ動物が巻き添えでしょうけどね」
 淡々とパワーレーザーで敵をなぎ払う、みと。

「――邪魔しなくとも殲滅か」