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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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〜 序章 perdendosi 〜


…………もう、どの位この石の檻の中にいるのだろう?


ジャラジャラと聞きなれた鎖の音に紛れ、微かに聴こえる喧騒のような声を聴いた気がして
彼女は低くうな垂れていた頭を上げ、薄く開いた瞼を動かした

その足はすでに度重なる苦痛に既に力を入れる事を忘れ
その身を起しているものは両手に括りつけられている腕輪のみ

無骨に錆付いたそれが最初は手首に何度も喰いこみ
その度に苦痛の果てに消えそうなる意識を呼び覚ましたが
今は体中に刻み込まれた傷の痛みが既にそれを凌駕し
手の感覚はおろか指を動かす事すら忘れたかのように感覚を失わせている


切欠はほんの些細な不注意によるものだった
空賊退治の為にタシガンの空を駆け回り、多くの賊を相手に剣を交えて来た
戦いに身を興じ、命を相手に晒す以上……死を考え、恐れを抱いた事が無いといえば嘘になる
だが、このパラミタに戦いがありそこに身を委ねる以上、自分なりの覚悟と言うものはある
そして、空に散る己を想像したりもした


だが所詮それも独り遊びの領域に過ぎない

『死を選択する事は逃げ道』という言葉を、人は生きる力を与えるために相手に使うが
決してその言葉は前向きな事のみに意味を成しはしない

空賊との戦闘に敗れ、敗北した彼女に与えられたのは『死』という終焉ではなく
永遠と手を結んだ想像を超えた苦痛であった

ある者は小間使いのように囚人として働かせられ
ある者は魔獣との戦いという余興の犠牲になり、捕まった者に多くの道がある中で
何故自分がただ無意味に苦痛を与えられる事になったのかは知らない
考えられる理由がたった一つ試みた【逃亡】だったとしても
自分に選択できない道を与えられた以上、その中で生を望むのであればそれに耐える他に無く
彼女が、本能であれ意志の強さであれ『生き延びる事』を選んでしまった以上、彼女は必死に耐え続けた

この部屋にいるのが自分一人だとしても
生き延びいつか脱出できる事を望み
その苦痛の混沌に精神を破壊される事なく……今に至る


そのたった一つの曲げなかった意志を見た神の気まぐれなのか
それとも意永遠が如き心身の責め苦耐えた自分に訪れたたった一つの好機なのか

嗜虐の笑みとともに自分に痛みを与え続けていた目の前の男に向かって
奥の扉より現れた手下らしい男が歩み寄り、報告するべき情報を伝えた


 「あのフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が頭によって捕まり、ここに運び込まれたそうです」
 「何?あの【一匹狼の女空賊】がだと!?まさかそんな事が本当に怒るとはな……」

程なくして、信じられないという顔をしばらく浮かべた男の顔が一層嬉しげに歪む

 「わかった、詳しい話は後で聞こうじゃねぇか。すぐに行くからそこで待ってろ」

そう手下に言い渡した後、男は彼女の方を向き手の鞭をヒュンと鳴らし、上機嫌に独り呟く

 「なんだか面白くなってきたようだな
  さぁて 、俺もさっさと仕事を終わらせないとな……もうちょっと楽しんでもらうぜ?お嬢ちゃん」


気分が乗ってしまった故か、その身に刻み込まれる勢いを増した苦痛に彼女は喉の奥から声を上げる
それでも、そのさらなる痛みに今までとは違った変化を感じ取れるのが幸いだった
この地獄の様な場所に新しい流れが来ている、僅かでもその変化が何かをもたらす可能性だってある

 (……もしかしたら、ここから逃げ出すチャンスもあるかもしれない)

そう自分に言い聞かせアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は動かすことを思い出した掌を強く握り
痛みに耐える意志を甦らせるのだった