なし

リアクション

〜　最終楽章　espressivo　〜
　　
　　
撃墜されたガイナスを無事ルカルカ・ルー（るかるか・るー）達が逮捕……封印し
ダリル・ガイザック（だりる・がいざっく）と夏侯　淵（かこう・えん）の指揮の元、証拠品確保と警察との連絡調整
レオン・カシミール（れおん・かしみーる）と協力して余罪も含めた調査に腐心している頃

喧噪の落ち着いたタシガンの空を駆け抜ける天馬の姿があった
その背には装備も元に戻ったフリューネ・ロスヴァイセ（ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ）が乗っている
前にはパフューム・ディオニウス（ぱふゅーむ・でぃおにうす）の姿も見えた

多くの仲間に無事を喜ばれつつ
面談のように一人一人からお叱りの言葉を受けた孤高の女空賊
それが一通り落ち着いたころにパフュームを送ると提案して今に至る
本当なら、捕まっていたとき部屋を共にし、世話になったカッチン　和子（かっちん・かずこ）も一緒したかったのだが
彼女の姿を見るや、そそくさと隠れるパフュームに全てを察して別々に送ることにしたのだ

カモフラージュのつもりはないが、和子に正体を隠している彼女としては
今回の件はフリューネの事と合わせて物凄く落ち込んでいる事らしい

　「そういえば、楽譜の話はどうなったの？」

フリューネの言葉にパフュームが口を開く

　「和輝達が調べてくれたんだけど、痕跡はなかったみたいです
　　やっぱり、誰かが持って行ってしまったのかもしれない、また情報を洗ってみるって」
　「……そう」

あまり落ち込む風でもない彼女の様子にフリューネも返答する
ガイナスは倒したが、仲間を一網打尽にできたかというと実際はそうでもなかったらしい
数人の逃亡は許し、人質も全員は救助できたわけではない

捕まっていたリネン・エルフト（りねん・えるふと）も一連の騒動が終わった後
脱走を試みた際に見つけた少女の事を思い出し、安否を確認しようとしたが
残念ながら救助リストにはなく、それも心残りだと落ち込んでいた

パフューム達三姉妹が行っている事の理由も
この天の空路で改めて説明してもらったので、事の良し悪しはさておき
求めた物が見つからない事実はフリューネも気の毒に思ったらしく、そっとその頭を撫でる
だがパフュームの方はすでに吹っ切れていたようだった

　「探しているものは、頑張れば見つかるから
　　それより命は一つだけ……だから良かったの！フリューネさんを助けられて」
　「そうね……」

そういって二人で微笑みを交わす

お互い誰かを困らせて傷つけたくない
その思いで動いた二人はどこか似ているのかもしれない
お互い何となく何を想っているのかはわかるので、ここまででお互いの言葉は少ないのだが
その姿は誰よりも仲睦まじく見える


結局、多くのものを巻き込み、多くの危機があった騒動だったのだが
だからといって、お互いがこれから行っていく事は変る事はないのだ

一人の女空賊は、空の安寧と平穏を願って剣を取り
一人の盗賊娘は、肉親の愛した楽器を取り戻す為に奔走する

だがその自分の思いと行動は誰かにつながり、誰かを動かしていく
その事実を、世界の理を胸に抱いてまたそれぞれの【矜持】をもって動くだけなのだ



それは、この物語に似つかわしくない穏やかな終わりかもしれない
けれど、その胸の輝きは今まで以上に二人を照らしていくに違いない


　「戻ったらまた謝らないとね……多分ことある毎にネタにされそうだわ」

とりあえず、一番手前の事を考えフリューネは溜息をつく
そんな彼女にパフュームは悪戯っぽい、本来の彼女の笑顔で答える

　「でもみんな元は取ったって言ってたからそんなに怒ってないと思うよ
　　シルフィスティさんだっけ？あの人も意気揚々と持って帰ってたから……これ」
　「………なっ！？ちょっとこれ！？」

彼女が取り出したのは一枚の写真
そこにはあの【天馬星座の闘衣】を着て笑っているフリューネの姿があった

　「ちょっと、誰撮ったのコレ！そんなの聞いてない！返しなさい！返しなさいってば！」
　「や〜だ！これお姉ちゃんの怒りを静める最重要アイテムなんだから！
　　や、ちょっと暴れないで！落ちる！落ちるから！……フリューネさぁぁぁぁぁぁん！！」


空はどこまでも広く高く
一陣の風と喧騒……そして楽しげな天馬の嘶きを乗せ
一組の翼は雲の谷間をぬけていくのであった


どこまでも………どこまでも………