天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション公開中!

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション

  
  
 「そこまでよガイナス!警察機構の一員たる教導としてあなたを逮捕します!」

そして舞台は最終局面に移行する
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の誘導で【首魁の討伐】を目的とした最後の部隊
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)率いる一隊は、ついにガイナスを追い詰めていた

場所はガイナス専用の中型船舶ドック
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の召喚獣によりすでに逃亡用の飛空艇は抑えられている
多くの手下もエース達が相手にして迎撃&逮捕されたため、護衛は数人
義理堅く護衛を務めるセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)達がルカルカ達の前に立ちはだかっているので
完全な劣勢ではないものの、安全にはほぼ遠い

 「ふん、まさかここまで有象無象が動くたぁ思わなかったぜ
  だがお前達は簡単には俺を倒せねぇ……こいつがいるかならな!」

だがその眼はまだ死んでなく
ようやく裏から確保した最後の手段を部下に前に突き出させた

 「念の為、人質を一人だけ回収させて助かったぜ!あの女空賊の仲間だ……こいつの命が惜しければ手を出すなよ?」  
 「きゃあ〜。あ〜れ〜、た〜す〜け〜て〜」
 「へっへっへ、どうだ──ってアレェ!?」

そこまで言って、流石のガイナスもきょとんとした全員の空気……そして棒読みの叫び声に気がついた
人質を覗き込んだセフィーが溜息とともに隣のオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)に話しかける

 「あたし……なんか身に覚えがあるんだけど……この台無し感どう思う?」
 「ああ〜あったなぁ……あれも【私掠船】だったっけ?いたね、こいつ」

二人の会話にガイナスも手下に捕えられている人質を確認する
そこには保険で捕まえたままだったフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)ではなく
なぜかメイド服姿の……瀬山 裕輝(せやま・ひろき)捕まっていた

 「だ、誰だお前!?」
 「さあ? はて、誰やろうか。
  どーも最近ボケがひどくてなぁ……なあ、サチエさんや、飯はまだかいの?」

呑気に答えるネタに生きる男の姿に
ルカルカも頭をかいて隣のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に質問する

 「ああ…いたね協力者に……で、どうしよう……一応人質だし」
 「平常運転でいいだろう、この場でやらかすんだ、ネタだろうと奴も命ぐらい張ってるだろう?」
 「ありゃ?その修正斬新すぎる……」

さしものネタ担当も歴戦の指揮官にはかなわず、流れが戻る
いや、むしろ若干剣呑さが増した空気にマイペースフォローを入れようとした裕輝だが
その言葉ごとバッサリとルカルカの言葉が一閃する

 「その行為は貴方の死刑執行書と同義だわ。何かした瞬間、貴方の首は胴体と永遠に分かれる事になる
  その前に、我が教導隊が処断します!」
 「……だって、一応仕事はするわ、でもここまで追い詰められたら自分の身は守ることね」

剣を抜くルカルカの前にセフィーが立ちふさがり、それぞれが戦闘体制をとる
これ以上言葉の応酬はいらず、全力の攻防が開始された



 「やっちまえ!!」

残っていたガイナスの魔獣が本能とともに襲いかかる!だが今やそれは先兵にもならず!

 「STOP!」

ルカルカの一喝とともに放たれた【ビーストテイマー】で動きを止めた獣に【忍び蚕】がからみつく
その態勢のまま彼女の姿が無数に増殖し、ダリルの援護射撃にあわせて一斉に襲いかかった

 「義を貫くため、こちらも全力でいくっ!」

言葉とともにエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が【ディフェンスシフト】を展開
対弾幕の防御を上げる中、オルフィナの【爆炎波】がルカルカの分身を一斉に飲み込み消滅させる
だがそこから飛び出したのはルカルカ本体ではなく、二人の剣士
夏侯 淵(かこう・えん)九十九 昴(つくも・すばる)が踊り出る

 「受けろ、我が槍を!」
 「はぁぁぁぁぁぁっ」

剣気を籠めた淵の【ソードプレイ】の槍裁きを受け止めず
同じく【チェインスマイト】の槍技で相殺するエリザベータ
一方の昴の【ゴッドスピード】を乗せた一閃をオルフィナも迎え撃つ
側面から打ち出された攻撃が昴の剣線を変え、外された衝撃が地面に突き刺さる
【ウェポンマスタリー・金剛力・パスファインダー】の常時装備による威力で煙が舞い上がりオルフィナの身を隠した

 「【ブラインドナイブス】か!」
 「わりぃなレベルで勝てねぇなら奇策もありだろ?黒狼のオルフィナを嘗めるなよっ!」

そのまま4人の間に神速の攻撃が交錯する……その間2秒
だが圧倒的なレベル差で、僅かに淵と昴に勝機が上がる

 「【龍飛翔突】!!」
 「舞え!【氷桜】!!」

二人の渾身の一撃をギリギリで凌ぐエリザベータとオルフィナ
だがその威力に耐えることしかできない中、二人はその剣撃の間を抜ける影を見つける

 「ち……やっぱり足止めかよ!」
 「絶対逃がさない。ここで倒す!」

影……ルカルカが左手から凍刀を生成しつつガイナスに向かっていく
【ドラゴンアーツ】のパワーと【ゴッドスピード】の加速を乗せてガイナスの腹部に突っ込む!
だがそこに護衛の本命……セフィーが迎撃するべく立ちはだかる
彼女の【クロスファイア】と凍刀の冷気がぶつかり、すさまじい水蒸気を上げる中、二人がぶつかり合う
その衝撃に土煙および水蒸気も一気に晴れる中、防御に繰り出したセフィーの【雅刀】が宙を待った

瞬間の激戦はルカルカに軍配が上がる……だがセフィーの目的はそこにあらず
身を起こしながら不敵に笑う彼女を見てルカルカもその意図に気付いた

 「【弾幕援護】!?」
 「……悪いわね、勝負に勝つのが仕事じゃないから」

ルカルカの先にガイナスはいなくなっていた
慌てて確認するが、【レッサーワイバーン】に跨る彼の姿は彼女の射程範囲外だった
見れば背後に仮面の男が跨っている、安心したようにガイナスが彼に声をかけた

 「た……助かったぜ……ダンナ」
 「何の為の魔獣使いだか……だが手を出せるのはここまでだ、後は何とかするんだな」

そのまま飛翔する彼らを昴と九十九 天地(つくも・あまつち)が愛竜で追おうとするが間に合いそうもない
かくて使命を果たして胸を撫で下ろす、エリザベータ。悔しげにそれをにらむ淵達
長き戦いの勝敗はそこでつくべく、ルカルカも無念に頭を下げた












…………かに見えた

 「なんてね☆
  本命が来ちゃったから譲ろうと思ったのよ……実はね」
 「そうね……ここで終わるわけないものね」

なぜかセフィーとルカルカが不敵に笑い、奥の空を共に眺める
そこには天馬に跨る……誰もが知ってる孤高の女空賊がいた

 「フリューネ!!てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 「ガイナス!覚悟っ!!」

愛馬【エネフ】の背にパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)を乗せ
フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は流星のごとく、倒すべき相手を目指して進んでいく
身はボロボロで傷にまみれ、装備も笑ってしまうような出で立ちだが、纏う誇りは今までを凌駕し
誰もその姿を笑うものはいない

 「勝負よ!フリューネ!!」

これが最後の仕事と再び下からセフィーが【クロスファイア】を放つ
後ろのパフュームが【歴戦の防衛術】を使ってガードするが、その威力は強く
防御したフリューネの手から【トネリコの槍】が弾かれる……だが、その勢いは止まることがない

 「パフューム!エネフをお願い!!」

そう言って天馬の背を蹴り、天高くガイナスの方に勢いのままに舞いあがる
攻撃の手段が読み切れず、誰もがその行為に戸惑う中……アジトの一番高い塔から声が響き渡った

 「お師しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

塔の上には首のマフラーをはためかせたヒーローが一人
【仮面ツァンダーソークー1】に変身した風森 巽(かぜもり・たつみ)が【ハルバート】を手に立っていた

 「とどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

咆哮とともに巽が手のフリューネの愛用の武器を天高く投げる
凄まじい回転とともにフリューネに飛んでいくそれは、下からのセフィーの銃撃を弾き飛ばしながら
見事にフリューネの手に収まった……その勢いで加速がかかった彼女の体が回転しながらガイナスに向かう!

 「くそ!!こうなったらせめててめぇだけでも!………なっ!?」

逃れる術なくガイナスが、せめて相打ち狙いとばかりに愛用の【さざれ石の短刀】を引き抜く
だが腰からあわられたのは刃の欠けた【忍びの短刀】
本物は……巽の下で一部始終を見送る清泉 北都(いずみ・ほくと)の手に握られていた

 『終わりだな……こちらが手伝う事は不可能だ、甘んじて剣を受ける事だ』

背後の声に振り向けば仮面の男の姿はなく、声のみが漂っていた
いままで仮面の男の声だと思っていたそれが【ナノマシン分散状態】で仮面の男……
メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)の周囲に漂っていたパートナー
ミアリー・アマービレ(みありー・あまーびれ)だという事は誰も知らない


もはや身を守るすべもなし、ガイナスの悔恨の声が空にこだまする

 「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


勝負は一瞬
全ての発端である二人が再び邂逅した一撃により……長い闘いは終焉を迎える



 「……戻りましょう、ここに居続ける必要はないし、教導に捕まりたくないから」

すでに勝敗を見極めたセフィー達は退避するべくその場から消えていた
勝負と救出を称える多くの歓声を聞きながら、急ぎアジトを後にする
ふとオルフィナが再び空を見上げると、巽のロープで高度からの落下を免れたフリューネの姿が見えた

 「意外と可愛い声顔で笑うんだな……あいつ」


冗談の様な装備で、絡まったようにロープにつるされ
あまつさえ胸なんか強調された……みっともなさではレアな姿

そんな女空賊の顔は無邪気に眩しい笑顔で輝いていた