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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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〜 第一楽章 con malinconia 〜
 
  
 「俺は質屋「ピースメーカー」で商いをしている物だ。名のある一団に武器を売りたくてな
  いい物があるんだが……話だけでも聞かないか?」

タシガンの空峡のとある港町の外れにある酒場
観光客や商人で賑わう中心地から外れ、多くのならず者がひしめく場末のような盛り場の一角で
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は空賊の一団に話しかけていた
傍らには資料と思しき紙の束と情報端末を手に龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が控えている

不意に持ち掛けられた商談に、酒と博打に興じていた一団の頭と思しき男が不快な様を見せるが
話には興味があるらしく、特に邪険にせずテーブルに座るよう促し口を開いた

 「で、ヒトの楽しみを取り上げたんだ。当然いい話だと自信があるんだろうなぁ?
  悪ぃがガイナス空族団としちゃあ、安っぽい話はゴメンだぜ?その手の商売は素人じゃねぇんだ」

男の言葉に臆せず、牙竜は商売人として話を続けていく

 「なに、質屋をやってると中古の武器が大量に流れてくるが買い手が付かなくてな
  勢力を拡大していく将来有望な空賊団なら、他に先んじて商売した方が儲かるだろう?
  聞けばそちらは運び屋や噂の魔獣興行で羽振りが良いそうじゃないか?」
 「……ずいぶんこちらの事を知ってる様子じゃねぇか?質屋の分際で」
 「商売として当然の事だろう?商談相手が何を必要としているかだって知っているつもりだ、例えば……」

牙竜の話の流れを受け、傍らの灯が武器資料の一つをテーブルの中央に差し出した

 「この機関銃は如何かな?
  飛空挺に取り付けるだけでも数を揃えれば、弾幕用にも使えるお手軽な武器だ
  お近づきの印に必要な数を言ってくれれば、後日納品できる
  信頼して頂けるならもっと強力な武器を用意してもいい。この【機晶スナイパーライフル】はどうだ?」

資料にリストアップされている大量かつ多彩な武器のリストアップに空賊連中の表情が変わる
リストを手に取り、傍らの仲間と吟味する様子を見て牙竜はそっと灯に話しかけた

(「すまない灯、やはり手合いとしてはこれ程の量でないと話は乗ってこないみたいだ」)
(「大丈夫です。活動資金は【資産家】から捻出してますから問題ありません
  すべてはフリューネ様の救出のため……牙竜、自由に使ってください」)
(「ありがとう。後は得られる情報はできるだけ手に入れないと……だな」)

奥のカウンターにいる仲間を一瞥して牙竜はさらなる商談へと話を進めることにする

 「気に入ってもらえたか?
  まぁこれで、おたくの一番の興行にまで手を伸ばせるのなら文句無しなんだけどな」


 「………牙竜さんの交渉も順調のようですね」

一方酒場のカウンター……牙竜が一瞥した場所には一組の男女の姿があった
酒場に馴染むように変装した姿でフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が目線を合わせずそっと口を開く
傍らでそれを聞く男も全く関わりのない様にグラスを眺めている
そんな彼〜樹月 刀真(きづき・とうま)が程なくそっと彼女に言葉を返した

 「……ああ、だけどまだ序盤だ……本題に切り込むにはもう一手必要になる、俺の出番はもう少しだ」
 「でも、調べられる限りの情報は確認した方がよろしいんじゃありませんか?」
 「わかっているさ。念の為、今連中の交渉で得られた内容については【下忍】を送らせて確認させている
  別の方面で相棒も調査中だ、今はできるだけ多くの情報を集め仲間に届けないと」
 「そうですね、空賊さん同士の問題なので私が関与するお話ではないのは承知なのですが……協力させて頂きます
  私なんかのの力がどこまでお役にたてるか解りませぬが……」
 「十分さ、あんたの本領発揮ももうすぐだ……どうやら俺の出番の様だしな……さてと」

さりげない灯の合図を受け、ふらりとカウンターから刀真は交渉の一団に足を運ぶ事にする
どうやら牙竜達の交渉も目的の【魔獣】にまで辿り着いたらしい
餌の調達を提案した牙竜に僅かばかりの警戒を抱く空賊だが、悠然と隣の灯がその言葉にならない疑問に答える

 「警戒しないでください、素敵な【魔獣】で取引だけでなくショーを行っている噂は
  私のような【闇ルートの取引人】の間でも注目されていますよ…新しいビジネスとしてですけどね
  餌だけでなく、他の提案もありますよ……例えば……」

灯の話のタイミングに合わせて、空賊達の前に刀真が姿を現した

 「絶好の盛り上げ役なんかどうだ?
  今度魔獣ショーをやるんだろう?前座とやるなら俺を使ってくれよ、俺の腕なら場をバッチリ温められるからさ!」

不意の登場に戸惑う空賊達
本当なら本題である囚われの女空賊の話まで切り出したいのだが、そこはぐっとこらえる事にする
なにせこちらは商売相手としては初対面、多すぎる情報の大盤振る舞いは逆に警戒される
焦りは禁物……そう心に言い聞かせ、刀真は土産がわりの酒瓶を男達の前に掲げながら陽気に話を続けていく

 「ま、真剣な話に疲れただろう。ここは酒場だ、休憩代わりに盛り上がろうじゃないか?」
 「それはいいな
  もしうちと上手くやっていって貰えるなら、紹介料とここでの酒代を持とう…大盤振る舞いしてもいいぜ
  他の奴らに気前のいいところが見せられ、俺は紹介してもらい商売で…懐がお互い暖まるって寸法だ」

刀真の提案に牙竜も同意して酒を注文する
リーダーと思しき男に刀真は酒を注ぎ、挨拶代わりとその高級酒のボトルを目の前に置くのだった

 「どうだい?並みの連中じゃお目にかかれない銘柄だぜ
  何ならそっちの頭領にももっと上質なものを届けに挨拶に行ってやるよ
  ここじゃないんだろ………本当の溜り場はさ?」


彼らの交渉は続いていく
【密偵】である【下忍・下忍野仁(仮名)】が差し出した牙竜の商談の聞き書きを確認し
フレンディスは彼と傍らにいる【下忍・下山忍(偽名)】に気づかれぬよう指示を出した

 「仁さんは引き続き牙竜さん達の話を記録して下さい
  忍さんはこの聞き書きを月夜さんに届けてください、お忙しい中お手数おかけします」

変装してるとはいえ、場にそぐわないペコペコと丁寧に頭を下げて指示を出す頭に戸惑うことなく
二人の【下忍】は役目を果たすべく、持ち場に消えていくのだった