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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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『あくまで、残酷に』

「バルバトス様。バルバトス様は今回の件、本気でイルミンスールや地上に侵攻しようとは思っていないはずです。
 姫子さんに手を貸すのを選んだのも、全てパイモン様の答えを引き出したいがため。……そう、あなたは『母親』だから」
「…………。そこまで言われてしまったなら、はぐらかすのは失礼に値するわね。あなた、名は?」
 促され、名を告げた博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が、バルバトスの、パイモンの『母親』の気持ちを知るべく口を開く。
「バルバトス様。僕は、魔族と和解を望みます。魔族とは言葉が通じて、気持ちも通じる。それを為している人達がたくさんいる。バルバトス様もそれは、お分かりでしょう?」
「確かにあなたの言う通り、魔族も地上の者と言葉を交わし、心を通じ合うことが出来るようになった。あなたがここに来る前に、イナテミスという街に住む魔族の言葉を伝えに来た子がいたわ。自分たちはこの街で人間たちと共に暮らしていく、とね」
 バルバトスの言葉に安堵しかけた博季は、しかし違和感を覚える。街の魔族は、自分たちがどうするとは伝えたが、バルバトスがどうしてほしいとは言わなかったようだった。
「バルバトス様は、その方たちに、何と……?」
「分かったわ、と。彼らはその後何も言わなかったわね。わたくしは嬉しかったわ。彼らは人間と共に生きる事を選んだけど、魔族であることを捨てたわけではないと分かって。もしわたくしに『言葉』を伝えようとするなら、それは人間と全く同じだもの」
 ふふ、と笑うバルバトスに、博季は決して埋まらない溝の存在を感じる。そうでありながら、博季は諦めるつもりはなかった。
 諦めたら、そこで全てが終わってしまうから。
「……バルバトス様。
 僕は、バルバトス様と分かり合いたい」
 博季の言葉を、バルバトスは正面から受け止める。一瞬にも、永遠にも感じる時間の後、バルバトスがおもむろに口を開く。
「面白い生き物ね、人間は。そういえばこんな人もいたわ」

「バルバトス、お前はナベリウスの一人、ナナを脅した。
 あの時の事は気に入らないさ、だから一発殴った」
 会ってすぐに自分を殴った神条 和麻(しんじょう・かずま)を、バルバトスは興味深く見つめる。彼はこれから何をするつもりなのだろう、何を言い出すつもりなのだろうと。ろくなことでなかったらどうしようか、そこまで考えかけた所で、和麻が口を開く。
「交渉しよう、バルバトス」
 以下、和麻が交渉内容を告げていく。バルバトスに、今回の魔族の暴動の先導者としての罪を被る事。そして、仮初の命が無くなった後に残る魂をあくまで行方不明という形にして、俺が回収する事。代価はバルバトスに、人と魔族が日の下で手を取り合えるような、人と魔族の本当の共存を見せる事。
「……俺には家族愛ってのは知らないけどさ。
 親は子を見守る義務ってのがあるんじゃないかな……。人も魔族も同じでさ」

「面白かったわ、本当に。あそこまで言ってしまえるものね、どう考えたって無理だと思うことを」
「……彼は……」
 少なくとも本気だっただろう、博季がそう言おうとして、バルバトスが機先を制する。
「分かっているわ、彼はきっと本気でそう思っているのでしょうね。
 ……ねえ、あなたに一つ聞くわ。『分かり合う』とはどういうことかしら?」
「それは……」
 博季は返答に詰まる。そもそも分かり合うことに解釈の違いがあるなど、思いもしなかったから。
「あえて人間の真似をしてみるわね。わたくしは『分かり合う』ことは、それぞれの考えを、生き方を認め合うことではないかと考えるの。あなたがわたくしの命を願う、わたくしはそれを認める。そしてわたくしは、最期まであなたたちが恐れ、憎悪する『魔神バルバトス』としての生き方を選ぶ。……さあ、あなたはこれを、認められるかしら? 認められなければ、あなたとわたくしは分かり合えないわ」
「…………。
 バルバトス様。先程あなたは、魔族の言葉を伝えに来た人、自分に交渉を持ちかけてきた人のことを話してくれました。
 彼らはその後、どうなりましたか?」
 いわば『負け惜しみ』の言葉に、バルバトスは上機嫌で答える。
「安心して、無闇に殺したりしていないわ。丁重にお帰り願ったわよ?」
 きっと嘘ではないその言葉を唯一の慰めとして、博季はその場を後にする――。

「あっ……」
 戦いが沈静化しつつあるイルミンスールで、自らも戦いに参加していたリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は、チクリと刺さる胸の痛みを覚える。
「ママ、どうしたの!? どこか痛むの!?」
 リリー・アシュリング(りりー・あしゅりんぐ)が駆け寄り、リンネを気遣う。後からやって来た西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)コード・エクイテス(こーど・えくいてす)に、大丈夫、とリンネは笑って答える。
「なんかね、博季くんが泣いているような気がしたんだ。何か辛い事があったのかな……って」
「……そう。リンネちゃん、博季が帰ってきたら笑顔で出迎えてあげてね。
 あの子はそれだけでも、喜ぶと思うから」
 幽綺子のアドバイスに、リンネがうん、と頷く。
「じゃあ、わたしも!」
 リリーが参加を表明し、三人であれやこれやの話が始まる。その様子を遠くに見ながら、コードは空を見上げる。
(馬鹿が……。自業自得だからな)