天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション公開中!

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション

「ねえ、美羽。その魔神バルバトスっての、どれほど強いの?」
「言葉では言い表せないくらい、だよ。私がトドメを刺せたのも、大勢のみんなの力があったからこそ。
 また戦って勝てるかって聞かれても、うん、って頷けない。1人だったら多分……ううん、きっとやられちゃう」

 『メイシュロット+』内を進む途中で、馬口 魔穂香小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)にバルバトスのことを問うと、美羽はそう口にして、自分の身体を抱きしめる。
「バルバトスは恐るべき、最凶の魔神。一度交戦したら、生きて帰れるか分からないよ」
 それは美羽も十分理解している、そう思いながらコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が言う。
「……でも、放っておくわけにもいかないんでしょ?」
「うん……バルバトスを放っておいたら、また惨劇が繰り返される。
 それに、あいつが東カナン首都、アガデで行った大虐殺……私にはやっぱり許すことはできない」
 表情を険しくして言う美羽に、魔穂香が事も無げに言う。
「じゃあ、行くしかないわね。あ、もちろん私も行くから」
「「……えっ?」」
 美羽と、馬口 六兵衛の声が重なる。
「魔穂香さん、今の話聞いてたッスか!? 生きて帰れるか分からない、って話ッスよ!?」
「もちろん、聞いてたわよ。でも、友達が行こうとしてるのに、私だけここでさよなら、なんていくらなんでも薄情でしょ?」
「魔穂香……!」
 嬉しい言葉に、思わず抱きつきたくなるのを抑えて、美羽が魔穂香、六兵衛、コハクを真っ直ぐに見て言う。
「またバルバトスと戦っても、勝てるかどうかわからない……。
 でも、もし友達が一緒に戦ってくれるなら……きっと私は、どんな相手にも負けない!
 お願い、一緒に戦って!
 美羽の真っ直ぐな言葉に、まず魔穂香が「私はさっき言った通り。安心して、死ぬつもりだけはないから」と答える。
「僕はいつでも、美羽と一緒だよ」
 次にコハクが答え、最後に六兵衛が、あーあとため息をつきつつ答える。
「超気乗りしないッスけど、魔穂香さんが友達とか言っちゃうッスからね。付いてってやるッスよ」
「さっさと帰っていいのよ?」
「ひどいッス! そこまで言われたら余計付いていくッスから!」
 ムキになる六兵衛に、場の雰囲気がちょっとだけ和む。

 ――もしかしたらあの時、六兵衛だけはさっさと帰した方がよかったかもしれない。
 何故なら、今回だけは流石に、相手が悪過ぎたから――。


「う……あ……」
「ふふ、これでわたくしと同じ。
 どう? あなたがわたくしに与えた痛みは」

 バルバトスの繰り出した槍が、美羽の腹を深々と抉る。剣を取り落とし、全身を震わせながら覗き見たバルバトスは、笑っていた。
「戦うつもりはなかったのだけど、あなただけは別。特別に、殺してあげる」
 槍を引き抜き、地面に伏せる美羽へトドメの一撃を振り下ろしかけたバルバトスは、飛んできた魔力の奔流を槍の一振りで掻き消す。
「…………。
 これが夢なら、覚めてほしいわね。あれ、私の全力の攻撃よ」
 呟いた魔穂香が、膝から崩れ落ちる。既に限界以上まで魔力を消費し尽くし、もう立ち上がることも出来ない。倒れる美羽の傍にはコハクが、魔穂香の背後にはボロボロになった六兵衛が、ピクリとも動かず倒れていた。
「ふふ、気が変わったわ。まずはあなたから、殺してあげる」
 告げたバルバトスから、暴力的なまでの闘気が膨れ上がる。抗いようのない死を魔穂香が感じた直後、銃弾がバルバトスを掠めて飛び過ぎ、誰にも傷つけることの叶わなかった頬に一筋の傷をつける。
「手を引け、バルバトス……!」
 銃を放った土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が、険しい表情でバルバトスを見る。
「あら、雲雀ちゃん。怒った顔も素敵よ。思わず壊してしまいたくなるくらいにね」
 ふふ、と笑ったバルバトスが、ローブで顔を隠したはぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)の存在に気付く。いや、その前から既に、彼女の存在には気付いていた。
「お久しぶりですわ、バルバトス様」
 ローブを外し、カグラが恭しく頭を垂れる。
「そうね。元気にしてたかしら?」
 槍を仕舞い、頬に滲む血を指で掬って舐め、バルバトスがカグラを見下げる。頭を上げたカグラはバルバトスの向こうに見える姫子、パイモンの様子を見て、そして口を開く。
「バルバトス様は『魔』と『愛』、どちらを選ばれたのですか?」
 それだけで全て伝わる、そしてあの方ならばきっとこう答えてくれる。果たしてカグラの期待通り、バルバトスは微笑を浮かべたまま短く告げる。
「両方よ」
 ――ああ、やっぱり。
 『魔』であるが故にこの方は悪を選び、『愛』であるが故にパイモン様を選ばれる。
 圧倒的な悪でありながらこれ程にも愛しておられる、そう、それ故に、この方はこれほどまでに美しい――。
「バルバトス様。聡明なあなた様なら、この後私がどうするつもりか、お分かりでしょう?」
 カグラが片手を挙げると、電撃の塊が生み出される。バルバトスは微笑んだまま、魔力を高めるカグラを見守る。
「私はヒメコが憎い。己の望みの為だけにあなた様の眠りを破りその美しさを穢す行為……到底許し難い。
 でも、このような機会を作ったことは、感謝するわ」
 奥の姫子に一瞥くれて、カグラはバルバトスを真っ直ぐに見る。生前と変わらない姿で、いや、それ以上に美しい姿を見せるバルバトスへ、カグラは掌を向ける。

「バルバトス様。お美しい方。私は、あなたのお望みのままに」

 放たれた電撃を、バルバトスは防御もせず正面から受ける。大半はバルバトスを避けるように飛び過ぎるが、一部が服を、髪を、そして羽を焦がしていく。

「……あなたの想い、受け取ったわ。
 “さようなら”、カグラ。あなたを連れて行くのは、止めにするわ」

 直後、カグラの放ったものとは比べ物にならない出力の電撃がカグラを襲う。直撃を受けたカグラは微笑みを浮かべたまま、魔導書の姿に変じて消える。
「おい! カグラ! カグラ!!」
 雲雀が駆け寄り、魔導書に呼びかけるも反応はない。僅かに魔力の波動を感じるものの、実体化すら出来ないほどに消耗させられたようだった。
「バルバトス……!」
 怒りの感情を爆発させ、雲雀がバルバトスへ銃を乱射する。しかし今度はそのどれも、バルバトスを傷つける事はなかった。
「よかったわね、雲雀ちゃん。あなた、かつての仲間に結構慕われてるじゃない」
「は……?」
 唐突にそのようなことを言われ、我に返った雲雀は今になって、すぐ近くにクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)の姿があったことに気付く。
「……さ、あなたたち。早くその子たちを連れて帰りなさいな。わたくしの気が変わらないうちに」
 言うと、バルバトスは羽を広げ、その場を飛び立つ。
「待ちやがれ!」
「土御門雲雀! 今の貴官の役目は何だ!」
 なおも追撃を図ろうとした雲雀は、クローラの一喝に動きを止める。
「戦争中のザナドゥに与したとして一旦放校された貴官が、今この魔城で首謀者と接触している。真意や目的が何であれ、貴官が取った行動は教導団への、金団長への裏切りに他ならない!」
「あたしはそんなつもりじゃ――」
「反論は許さん!」
 意見を口にするのを封じられ、雲雀が唇を噛んで押し黙る。
「貴官はどこまで金団長の顔に泥を塗り、立場を揺るがせば気が済むのだ!  貴官はこれより即座に怪我人の安全を確保し、この場より退け! 少しでも疑わしい行為を見せれば、俺がこの場で貴官を裁く!」
 魔導銃を向けられ、雲雀は否応なく命令に従う。セリオスがやって来て雲雀に慰めとも取れる言葉をかける。
「彼の言い方きつくて御免。けど君は、自分の立場をちゃんと自覚したほうが良かったね」
「…………」
 立場なんて関係ねぇんだよ、そう言いたいのを雲雀は辛うじて堪える。自分が今でも教導団所属である以上、金団長に不利益になるような行為は慎むべき、だとは思う。
「ま、次から気を付ければいいさ」
 でも、こいつらは気に入らない。自分のためを思ってのことかもしれないが、それなら余計なお世話ってやつだ。
「慰めなんていらねぇよ」
 吐き捨て、雲雀は負傷者の確保に向かう。