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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション

 今回の事件で起きた事柄の中には、イルミンスールの人事に少なからぬ影響を与えるものもあった。

「今回のことで、ザナドゥもまだまだ色々と大変なのが分かりました。
 私はアーデルハイト様を補佐するため、ザナドゥに行きます。答えは聞いていません」
 そう告げ、パートナーを地上に残し、望はザナドゥへ、アーデルハイトの元へと向かっていった。今頃はきっと、アーデルハイトの補佐に回っていることだろう。
 これと合わせて、ザナドゥを魔神たちと共に騒動の間鎮め続けたアーデルハイトの働きが認められ、反乱分子もバルバトスの死(今度は、本当の意味での)によって一掃させられたであろう経緯から、アーデルハイトの処分を緩和してもよいのではという機運が熟しつつあった。
 もう一つ、何かのきっかけの折にはアーデルハイトのイルミンスールへの帰還も叶うかも(種々の制約がつく可能性はあるが)しれない。


「なんとか、イルミンスールを守り切ることが出来ましたね」
 夜が明けつつある中、あちこちで修復が進められるのを手伝いながら、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)申 公豹(しん・こうひょう)に話しかける。
「そうですね。……それも、姫の頑張りがあったからこそだと、私は思います」
 公豹が、つい先程の戦闘の様子を振り返りながら呟く。花音の歌を聞いた魔族の多くは、戦意を喪失し戦うのを止めた。二人が剣を交えたのは、花音の歌に屈しなかった『意志ある魔族』ばかり。結果的に花音は多くの魔族の命を救ったことになる。
「それでも、花音は満足していないようですよ。……それに……」
 リュートが口を閉ざし、言いたいことを察した公豹も同じく、口を閉ざす。後のことはウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)に任せるしかないと思い、二人は修復の手伝いに奔走する。

「考えたら、あんなことがあった後ですぐに、カフェがやってるわけないよね。……どうしよっか」
 今日の事件が終わったら、『宿り樹に果実』で甘いものを食べよう、そう考えていたウィンダムは、『CLOSED』と描かれた看板を見て途方に暮れる。
「…………」
 すると、少し後ろに居た花音が背を向け、ある場所を目指すように歩き出す。
「あっ、花音!」
 慌ててウィンダムも後を追う。やがて二人が辿り着いたのは、木々に囲まれた中にある小さな泉。どうやら幹から漏れ出た水が流れ込み、泉を作っているようだった。
「こんな場所があったなんて……」
「うん、ボクも最近知ったんだ。
 嫌なことがあった時、一人になりたい時、ボクはここに来て歌を歌った。ここは落ち着けるんだ」
 そう言い、スッ、と花音は口を開き、歌を歌う。それは魔族に対して歌った歌と同じ。捨て切れない夢を追いかけ、誇り高く愛を蘇らせん。……もしかしたら花音はこの歌を歌うことで、もう一度自分を『蘇らせようと』したのかもしれない。
「あはは……ダメだね。今回ばっかりは流石に、どうしようもないや」
 けれども、それは叶わなかった。力が抜けたようにへたり込む花音、駆け寄ったウィンダムに見せた顔は、ただ悲しみに沈んでいた。
「……吐き出しちゃいなよ。それしかないよ、花音」
 酷い事言ってるかな、そう思いながら告げたウィンダムの胸に、花音が飛びつく。
「うぅ……うわあああぁぁぁ!!」
 歌った時よりもさらに大きな声を張り上げ、花音が泣く。飛びついた衝撃で端末が転がり落ち、ディスプレイが開かれる。そこには送ったメールに対するフィリップからの返信が映し出されていた。

『花音さんへ。
 まずは、花音さんが無事でよかった。花音さんの覚悟、僕は素敵だなって思ったよ。

 ……僕の方こそ、返事をこんな形で伝えることになって、ごめんね。
 えっと……うん、ありがとう。嬉しいよ』

 それは、世界で一番痛い『ありがとう』――。


 陽光差し込むイルミンスール内を、ラムズと『手記』が歩いていた。
「我のカンが正しければ……む、おったぞ」
 『手記』が示した先、激しい戦闘の傷跡を残す地の中心で、少女の姿に戻ったネームレスが倒れていた。
「……気を失っているようですね。……おや、これは……」
 容態を確認したラムズが、ネームレスが握り締めていた何かの切れ端を拾い上げる。既にほとんど炭化していたそれは、吹く風にはらはらと散って、空に舞う。
「……! ラムズ、お前……」
 行く先を見届けた『手記』がラムズを見ると、瞳から雫がつ、と流れ落ちていく。
「……何故でしょう。何故こんなにも、悲しい気持ちになるのでしょう」
 何故自分が泣いているのか分からないといった様子のラムズから視線を外し、『手記』が晴れ渡る蒼空を見上げ、呟く。
「……馬鹿者が。我のパートナーを泣かせるとは」


「…………」
 事件が収束へと向かっていく中、真言は先程まで自分たちがいた『メイシュロット+』があった地点を見上げて、心に呟く。
(全ての罪を背負ったバルバトスを、魔王パイモンが誅する。そうすることでザナドゥは新しく生まれ変わる。
 ……筋は通っている。けれど本当に、これで良かったの……?)
 目を閉じる、真言の脳裏にのぞみの、空間をつんざくような声が再生される。

「どうしてこんな展開にしたの!!
 あたし達のしてきたことは、一体なんだったの!!」


 それは、今回の『筋書き』を書いた脚本家への怒りでありつつ、自分の中に全て収められない自分への怒りでもあったかもしれない、真言はそう思う。
「あたし、こんなことくらいじゃ、あきらめないから」
 そう言い残すと、のぞみは立ち去っていった。のぞみのいつも前向きな所を好ましく思っていた真言ではあるが、今回ばかりは少々痛々しくもある、そう見えた。
「……本当の意味での平和は、まだまだ先なのかもしれませんね」
 呟く真言、たとえそうだとしても、ならば少しずつ歩んでいくだけだ、と思う。
 どれほど道が長くとも、まず一歩。一つ一つを積み重ねて、人も魔族も生きているのだから――。


「そっか……うん、わざわざ伝えてくれてありがとう。
 キミたちも無事で何よりだよ。今度アムトーシスに来た時は、おもてなしさせてもらうよ」

 柚から事件の顛末を聞いたアムドゥスキアスが、ふぅ、と息を吐く。
「アムくん……バルバトスちゃんは」
 傍にいたナナが、今にも泣きそうな顔でアムドゥスキアスの裾をぎゅ、と掴む。
「……バルバトス様は、誰よりも魔族だった。そして立派な母親だった。
 ロノウェ様が言っていたね、「思い出すこともない、けれど忘れることもない」って。ボクたちもそれに従うべきなんじゃないかと思う。ボクたちは今までとは違う道を、歩き始めてしまったんだから」
 言って、でも、とアムドゥスキアスは付け加える。
「今この時くらいは、いいかな、って思うよ。大切な人を喪った悲しみを吐き出すのも」
「うぅ……うわーーーん!!」
 ナナが涙を溢れさせ、アムドゥスキアスの胸に飛び込む。モモとサクラも互いを慰めるように抱き合い、涙を流していた。
(バルバトス様……あなたは特にボクたちに何かを教えようとは思っていなかっただろうけど。
 結局、教えられてしまったみたいだね)
 ナナの頭に手をやるアムドゥスキアスの頬を、一筋の涙が伝う――。


 ベルゼビュート城へ戻る途中のパイモンとロノウェ、先にパイモンが口を開く。
「ロノウェさん……すみませんでした」
「いえ、パイモン様が謝る必要などございません。パイモン様はザナドゥの王としての責務を果たされたのです。
 それに……パイモン様の方がよほど、苦しまれたはず。それに比べたら私のなど――」
「それでも、あなたの大切な人を奪ったのは、事実です」
 言って、パイモンが顔を伏せる。彼の両肩には、途方もなく重い『罪』がのしかかっていた。
「これからも、私のパイモン様に対する忠誠は変わりません。
 ナベリウスやアムドゥスキアスも、今後はパイモン様の補佐を務めるでしょう」
「……そうだろうか」
 自信なさげに呟くパイモンを見、支えてあげなければ、という思いを強める。そしてきっとそれは、『あの方』も望んでいたことだろうと思う。
(そうですよね? バルバトス様……)


「はぁ……てんで的外れだったわ。姫子に事務仕事を手伝ってもらうつもりだったのに、普段は讃良でたまに姫子じゃほとんど役に立たないじゃない」
「道真、そんなことを考えていたのか……。
 文句を言っても始まらない、今日中に出来る限り片付けてしまおう」
 はぁ、とため息をつく道真を横目に、馬宿が机の上の書類に目を通し、必要な箇所に記入をしていく。
「そういえば、讃良は?」
「ああ、今は姫子様のようだが。「大事な者に会いに行く」と言っていたな」
「ふーん……」
 呟いて、道真も机から起き上がり、書類仕事を再開する。まあ、塞ぎこんで何かまた変なことを企むよりは、マシかもしれない。
(あの子の『祟り』は、ちょっと半端ないからね……)
 姫子に比べたら自分や小次郎、顕仁なんて可愛いものね、道真はそう結論付ける――。


「イタタタタタタ!! 痛い、痛いッス魔穂香さん、もっと優しくお願いするッス!」
「我慢しなさい。これでも十分優しくしてあげてる方よ?」
「美羽さんにしてるのと全然違うッス――あ、ちょ、やめ、ぎゃーーー!」

 ピクピク、と身体を震わせる六兵衛を横目に、魔穂香ははぁ、とため息をつく。あの時の戦いで受けた傷は回復しつつあったが(美羽は自分より傷が深かったらしく、まだ入院している)、心に受けた衝撃は今も胸を締め付ける。
「私もまだまだ、力不足ってことね……」
 こうもハッキリと現実を突きつけられると、思わず目を逸らしたくなる。今まではそうやってネトゲに逃げていた気もするが、これからはそれじゃダメなんだろうな、と思う。魔法少女のお仕事というのも、少しはやってみないといけないのかもしれない。
「……ま、いいわ。明日から考えましょ」
「……魔穂香さん……あんたやっぱりダメな子ッスね……」
 呟いた六兵衛を黙らせて、魔穂香は端末の電源をつける――。


「あっ、姫子さーん!」
 空京の街並みの中、ぶんぶん、と手を振る姫星に、姫子が呆れたような表情を浮かべて呟く。
「人前でみっともないわね。もっと落ち着きなさい」
「えへ、ごめんなさーい☆」
 姫星が姫子の手を取って歩き出し、姫子もまんざらでもないといった様子で続く。ちなみに二人が普通に街を歩けているのは、姫子が姫星を普通の女の子として見えるように術をかけているからであった。つまり姫星は、姫子と一緒に居る間はまさに『普通の女の子』なのである。

「よかったですねー、お友達が出来て」
 楽しげな様子の二人を、豊美ちゃんが空から見守る。
 ……結局、魔法少女でも全ての人がハッピーエンド、には出来なかった。ある人は悲しみ、ある人は苦しみ、またある人は怒り、叫びもしただろう。
 どれほど幸せを願っても、その通りにならないことはままある。どれほど相手の生を願っても、届かないことだってある。
 ……そうだとしても、自分は街に平和と安心を届け続けようと思う。

「私は、魔法少女ですからー」

 溜まった涙が、キラリ、輝いて流れる。スカートを翻らせた豊美ちゃんが空へ舞う。
 今日も魔法少女は、街の人に安心と平和を届けるため、頑張っている――。

『終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4』完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。
『終身名誉魔法少女豊美ちゃん!』最終回をお届けします。

魔族ネタはどうしてもシリアスになりますね……。
なかなか心が痛かったです(涙 も、もうないと思います、多分。
多くの方を泣かせてしまいましたし。

ともかく、4回に渡って続いた(なにげに4回って、自分がこれまでやってきたシナリオの中で最長なんじゃないですかね?)魔法少女シリーズも、これにて一段落です。
何やら今後に繋がりそうな描写が見られたと思いますが、それがどうなるかは今後次第ということで……。


なお、この場を借りまして、特定のアクションをかけられた方へまとめてコメントを返させていただきます。

●『姫子・バルバトスの下へ向かう』アクションをかけた方向けコメント
姫子とバルバトス、それぞれにPCが味方としてついた影響で、本来姫子やバルバトスに対してかけられたアクションの対象が変わり、結果として意図しないリアクションになっているかもしれませんことをご了承ください。また、判定のかなりの部分を、『こう言われたからこうする』というのではなく『彼なら(彼女なら)こう言われたらこう言うのが聞こえてくる』というのに頼っているので、その日の気分によって『ブレ』が生じているかもしれません。やはり意図しないリアクションになっているかもしれませんことをご了承ください。

●『パイモンの説得』アクションをかけた方向けコメント
判定した結果、最良の選択をしたつもりですが、意図しないリアクションでしたら申し訳ありませんでした。


それでは、参加していただきどうもありがとうございました。
またの機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。