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All I Need Is Kill

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All I Need Is Kill

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 三章 今を生きる者達

 十四時三十分。空京、繁華街。
 眩しい日差しと変わらぬ喧騒に包まれたその場所に、多くの契約者が集まっていた。
 彼らの中心でおどおどとしているのは修道服に身を包み、可愛らしいサイドバックを肩にかけているのはナタリーという名の幼い少女。その隣でへらへらと笑っている忍者の格好の少年は仁科 耀助(にしな・ようすけ)だ。

「うおー、呼びかけてみるもんだ。短時間でこれだけの人が集るなんて」
「そう、ですね。すごいです。耀助さん」

 ナタリーはヒーローを見るかのような憧れを含んだ眼差しで、耀助は見る。彼は得意気に笑みを浮かべ、口を開いた。

「へっへー、これでも伊達に多くの人からアドレスを聞いてないからね。
 お茶はだいだい断られるけど、こんな時にはみんな集まってくれるもんだよ。……まあ、あんたが関わるならお断りって言った女の子もいたけどね」
「そ、そんなことないですよ。私は、耀助さんのことカッコいいと思います!」
「……ほんとに?」
「は、はい!」
「ありがと、君だけがオレの女神だよ。ナタリーちゃ〜ん!」
「きゃっ!?」

 耀助はそう言うとナタリーに抱きつこうと思いっきり両腕を広げる。
 すかさず、近くにいた桐生 円(きりゅう・まどか)が呆れ顔で彼の脳天にゴツンとチョップを食らわせた。

「痛い!?」
「……やめなって。ナタリーくんが驚いているじゃないか。まったく」

 円はそう言うとナタリーを耀助から庇うように自分の背後に回らせて、言い聞かせるように呟いた。

「いいかい、ナタリーくん。男というものはね、等しく狼なんだ。
 あんまり無防備に近寄っちゃいけないよ? 食べられるかもしれないからね」
「た、食べられるんですか?」
「そうだよ。がおーってね」
「が、がおーですか!?」

 ナタリーはぷるぷると小さな身体を小刻みに震わせる。
 円は口元をニヤリと少しばかり吊り上げて、言葉を続けた。

「そうそう。特にそこの忍者の格好をした青年みたいな類は危ないから気をつけることだ」
「意義アリッ! それはオレのイメージを損な――」
「は、はい! 分かりました。肝に銘じておきます!」

 耀助の反論を遮って返事をしたナタリーに、円は優しい笑みを浮かべて頭を撫でる。

「よしよし、いい子だ。じゃあ、あの少年から距離をとろうか。
 それに、ボク個人としてもナタリーくんに聞きたいこともあるしね。ついてきてくれるかい?」
「ちょ、ま、待っ――」
「は、はい!」

 ナタリーは勢い良く返事をして、円と手を繋ぎその場所から離れていく。
 耀助は何とも言えない表情のまま固まり、目尻にはうっすらと水分が溜まっていた。

「ふっ……これが、現実……」
「あはは。やっちゃったねー、耀助」

 そんな傷心中の耀助の肩を、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が笑いながらポンと叩く。

「こんなオレを慰めてくれるなんて。やはりあなたはオレの女神だったのか……!」
「はいはい、そういうのいいから。……でもまあ、こんな風に皆でバカやってるとナタリーの気も紛れるかな?」

 ルカルカは耀助を軽くあしらいながら、どこか憂いだような眼差しでナタリーを見る。
 耀助も先ほどとはうって変わり、真剣な表情で幼い彼女を見つめながらぽつりと呟いた。

「……最近の空京は神隠しやら何やらで物騒だし、ついさっき見知らぬ男にも襲われたんだ。
 そんな中、シスターのお願いのために出かけなければならないんだ。……少しでも、気を紛らわせれたらいいんだけど」
「そうだよねぇ。
 ……それでさ、耀助。話は変わるけど神隠しのこと、どう思う?」
「どう思うって?」
「だってさ、おかしくない? 被害者に共通することは少女だということだけ。それも立て続けに十一件。
 今だ犯人の要求はないから、金銭でも口封じでもなさそうだし。犯人の目的は一体なんなんだろうなー、って思ってさ」

 ルカルカの問いかけを受けて、耀助はしばし考えてから口を開いた。

「正直、詳しいことは分からないかな。はっきり言って情報が少なすぎる。
 それでも推測するなら、誘拐された彼女達そのものに用があるのか? ってぐらいかな」
「だよね。ルカもそのぐらいしか思いつかない。……これがファンタジーなら生贄とかなんだけど」
「……怖いこと言うなよ」
「ごめんごめん。でもまあ、本当に早いとこ解決しないとね」

 ルカルカのその言葉に、耀助はしっかりと頷いた。

「おう。か弱い女の子ばかり誘拐するなんて流石にいただけないからな」
「同感。じゃあ耀助はナタリーの傍に居ないとだから、ルカは少し現場を調べてくるね。――アコ」

 ルカルカの呼びかけに応じて、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が二人の傍に歩いてきた。

「多分、隠密行動になると思うからアコは残してくよ。アコ、耀助やナタリーのことを頼むね」
「うん、任せて。ルカが戻るまで二人は守るからね!」

 アコから頼りになる返事を聞き、ルカルカは笑みを浮かべた。
 そしてその場から去るために踵を返す前に、耀助に向けて拳を突き出す。

「耀助、気をつけてね」
「ああ、ルカも気をつけて」

 耀助もルカルカに合わせて拳を突き出し、二人は互いの拳を軽く合わせる。
 コツンと鳴った小さな音を聞いて、二人はまた笑みを浮かべた。

 ――――――――――

(なんでいつもこうなのよ……はぁー……)

 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)は心の中でため息を吐いていた。
 その原因は今回の一連の事件。せっかくパートナーの竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)と空京に買い物をしに来たのに、立ち寄った繁華街でナタリーが襲われるところに遭遇したからだ。

(せっかくハコと買い物に来てたのに! なんでこんな事に巻き込まれるのよ!)

 ソランはじたばたと足踏みをしてから、ナタリーと話をしている契約者の輪の中にいるハイコドに視線を向けた。

(何が「流石に最近物騒だからね、僕も手伝うよ」よ! ……そりゃ、さ。まぁ、関わっちゃったら見過ごせないけどさ!)

 乙女の心情とは複雑なものなのである。
 ソランはやり切れない思いをもう一度じたばたと足踏みをすることで少しばかり解消した。

(……はぁー……もう少し平和な世界にならないかな?)

 そうしてまた、ソランは心の中でため息をつくのであった。