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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

     ◆

 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)
 「面白そうだから手ぇかしてやろうぜ」と言う、ウォーレンスの言葉を皮切りにやってきた二人はしかし、準備段階も枕詞も決意表明も名乗りもないまま、本当に全く以て突発的に、事態に呑まれていた。

 呑まれた、と言うよりは、もうそれは何処まで行っても“巻き込まれた”と言う以外に形容がない状態で今、武器を構えている。

「なんだよなんだよ。ちったぁ可愛い姉ちゃんでも出てくるのかと思ってたのによぉ……居るのはむっさい野郎ばっかで、しかも戦闘とかなんとかなんて、お粗末過ぎて言うに言えない感じじゃあねぇかよ」
 心の弾んだ音色。ウォーレンの言葉。
「言う割にはおぬし、そこそこ楽しんでおろう? この状況をば」
「なぁんだ、やっぱばれちまったかぁ。そうだよ、そうなんだよ」
 空虚を人間にありったけ詰め込んだような男たちを前に、目をキラキラと輝かせながらウォーレンが手にする槍を振り回し、相手を近付けさせない程の激しい動きを見せてから、改めてとでも言うように構えを取る。
「確かに物凄い強い奴が一人、血で血を洗い、汗と血潮をたぎらせて、殴って切っての繰り返し……それだって悪いとは思わねぇ……。でもよ、いいねぇ! 敵がわんさかいて、絶対絶命が技量ではなく『圧倒的数量』で立つ! これだよ! これこそが殴り合いの神髄だろ!? 正義も悪も、良しも悪しねぇ、単純なる暴力と力の跋扈! 時にはそう言うのに胸躍っても良いだろうよ!」
 両の足を肩幅の倍近く開いた状態で動きを止め、槍を構えて敵を見据える男が一人。
「やれやれ。わしも男だが……おぬしの言う言葉はあまり理解出来んのう。戦わなくともよいのであれば、それこそそれに越した事はない。獲物を取るのはそれが、“仕方がないとき”、“止む無い時”だけでいいと、そう思うんだが?」
「その止む無しなって状況こそが今、この状況だってんなら、お前だって少しはやる気になんだろ?」
「無論」
 どっしりと構えるウォーレンと、凪の様に風に身を預けるルファン。対極にして、相対にして、しかし視線は同じ方向を向いていた。
「来いよ。口もきけない傀儡の人形共。この年で人形遊びも、いいじゃあねぇか」
 先手は相手。動きを見せた彼は、手に斧を持っている。完全に木を割る様な、文字通りハンドアックスたるそれを持ち、ゆっくりと襲ってくる。バトルアックスではなく、ハンドアックス。人を切る為のものではなく、あくまでも木を割る為の作られたそれ。
「ルファン、捌けるか?」
「勿論だとも」
 緩慢な敵の攻撃を受け止めたルファンは、その体を流れる様にして相手の懐に滑り込ませ、そしてそれを放り投げる。
強かに地面へと体を打ち付けた男はのそのそと体を起こそうともがくが、しかしそれも数秒の内に阻害される。
暴風と言って問題のない程の風が、彼の自由を奪っていた。彼の頭上から、地面に向けて吹く風は、自然のそれではない。
 ウォーレンの放つ風術。風は攻撃には向かない。が、相手の動きを止めると言う目的で言えば、それ以上に適している物があるだろうか――否、それはない。実体を伴わない以上、破壊する事も抜け出す事も出来ない。純粋な自身の推進力を持ってしなければ、風の枷を払う事などは叶わず、万物は平等にその鎖に繋がれる。
 構えを取ったままのウォーレンは、次いで槍を構えない方の手、親指と人差し指を立てて銃に似せ、それを風で停止させている敵へと向けた。
「んでもって、風が止む前にこれを見舞えば、完璧だろ?」
 指の周り、小さな青い弾が現れる。それはゆっくりと彼の親指から人差し指へと流れていき、そして射出された。
 小さな雷術で出来た弾丸が、彼の指から放たれると、動きを風術で殺していた男の首筋を通る。小さくはじける音がした後、抵抗し、もがいている男の動きが止まった。
「所詮体は電気信号で動いてんだ。麻痺させれば暫くは動けんだろうな」
 にやりと笑う彼の横、次の攻撃がやってくる。故に音なく忍び寄ったルファンが、相手が武器を握る手を柔らかく掴み、今度は肩から男の鳩尾目掛けて突進した。推進力を利用し、相手の勢いをそのまま生かして打撃に変える。それは地味な様に見えて、個人が出せる力をいとも簡単に超える事が出来る武技。
「口が利けぬ、殺意を持たぬ。と言うのが些か厄介ではあるが、視覚的に見えない訳ではない。意識を集めれば、所詮は烏合の衆、と、そう言う訳なのだな」
 詰まらなそうに呟ルファンと、わざとらしく拍手を送るウォーレン。が、彼等の動きを見ていた他の敵たちがふとそこで、彼等を取り囲む様に動き出す。一斉に攻撃できるように、彼等は二人の逃げ場を奪う。
「そうなるよなぁ……此処で風術やら雷術のでっけぇのをくれてやっても良いが、俺やらお前やらをまとめて攻撃しなきゃいけねぇってんだ。場所どりがミスった」
「そう言うところだけ冷静に判断するでない。だったらもっと初めから考えて動け」
 ため息交じりに構えを取るルファンと、「うるせぇや」と軽口を叩くウォーレン。互いに余裕のあ表情ではあるが、それは表情だけであり、窮地になっている事は変わりない。
だから二人は身構えて、無傷では済まないと意志を固めた。が、それも結局は、誰かが来れば要らない決意。
突然に声がした。
「ぴっぴきゅう!」
 独特の鳴き声が二人の耳に入り、思わず構えを解いてその声の方を向いた。と、何かふわふわした物が(遠目から、しかも暗がりの為、二人には良くわかっていない)飛んできていた。
「……何だ? あれ」
「さぁ。少なくともわしにはわからん」
 ふわふわした塊が、二人を囲む敵の近くに到達するかと言った瞬間、ふわふわした塊が突如として女の子へと姿を変える。姿を変え、飛んでいる勢いを使って敵の内の一人を盛大に殴り飛ばした。
「ぴきゅっ! ぴきゅきゅっ!」
 唖然とする二人を余所に、敵が立った今現れた女の子――ピカに攻撃しようと振りかぶれば、今度はその脇腹へと拳が入る。
体をくの字に曲げた敵がゆっくりと地面に倒れ込むと、指で眼鏡を押し上げ、笑顔で見つめる直樹の足を掴もうと手を広げた。
「ごめんね、そう言う命乞いは、趣味じゃあないんだよ」
 軽くジャンプをした彼は、男の手が届かない高さまで飛び、着地と同時にその手を踏みしめる。
「ぴきゅっ! ぴきゅきゅきゅ!」
 何かを呼ぶようにその場で両手を広げて飛び始めたピカと、唖然としたままにその光景を見つめるルファンとウォーレン。

 今度は女の子が、頭上から降ってきた。

「どいてどいてどいて!」
 慌てて手を振りまわす、上空から飛翔してきたプレシアを思わず抱き留めたウォーレン。
「……あれ?」
「あ、ありがとう! やっぱさ、思い通りにならない空中散歩って怖いんだねっ! 学習したよっ!」
 首を傾げるウォーレンなどお構いなしに、彼女は手にする光条兵器を振り回し、ファイアストームを唱え出す。
「ま、待て待て待て! お嬢ちゃん! んなもん此処でぶっ放したら、こいつ等みんな燃えカスになっちまうよ!」
「えー」
 ウォーレンの静止に、物凄く不服そうなプレシアが頬を膨らませる。
「これウォーレン。もういい加減その子から手を離せ。ちょっとラッキーとか思っとるだろう?」
「はっ? 思ってねぇよ!」
 ルファンの言葉に慌てて反論するウォーレンは、しかしはっとなって自身の後ろへ目をやる。

 蝙蝠の獣人の彼。 少しだけ羽が出ていたりする。

「な?」
「いや、“な?”じゃあねぇよルファン、テメェ! しかも何でそんな意味深な含み笑いした今!」
「ファイアストーム!」
「おーい! こっちで話してる内に勝手に打ってんじゃねぇよお!」
 大忙しのウォーレンお兄さん。
直樹とピカが一度しゃがみ、プレシアの放つファイアストームを回避しながら、しかし三人の元、即ちその塊の中心点へと向かってきた。
「何やら面白そうな事をしてますね」
「面白いよ! このお兄ちゃん! あはははは」
「良かったな。可愛らしい女子に褒められた」
「よくねぇ! なんか嬉しくねぇ! ちっとも、全然面白くもなんともねぇよ!」
 と、遠くからやって来るのは結を抱えて走る孝高。彼の前にはつばさ、又兵衛がそれぞれ槍を振るいながら敵を蹴散らし、彼等、彼女等の元へと向かって走ってきていた。
孝高の後ろには薫が後ろからの攻撃を全て打ち払い、彼等を守っている。
「結……何で来ちゃうかな。此処で危ないのに」
 今度は直樹が頭を抱えながら、走ってくる彼等を見てため息をついた。
「さあさあどいたどいた! 通り道を開けやがれぇ!」
「又兵衛さん! テンションおかしいよ!」
 槍を振り回しながら敵を突き飛ばして進む又兵衛とつばさ。
「別に結ちゃんが悪いわけじゃないんだがよ……なんで俺が、何で俺が……!」
「え? どうしたの孝高さん……え、泣いてる!? ええぇ!?」
「孝高、何で泣いてるかはわからないけど、今はそれどころじゃないのだ! 人命救助、人命救助! なのだっ!」
「わかったよっ! ……くっそうぅ……」
 殆ど意味が分からない孝高の嘆きと共に、物凄い速度で敵を打ち倒して行く彼等がルファン、ウォーレンの元に到達する頃には、敵の群れの中に道が出来ていた。
「とりあえず、我たちはラナロックさんのところに行くのだ! 一緒に行く?」
「是非そうさせて貰おう」
 合流した薫は、ルファンに提案する。
「そのラナロックってのは、前に言ってた姉ちゃんか?」
「そうだぞ。おぬしの好きそう、かは知らんが、女子だ」
「ひゃっほー! んじゃあさくっとこいつら伸して、早くベッピンさんたち見に行こうぜ!」
 張り切って構えを取った彼に、つばさと又兵衛が反応する。
「あ、槍使い」
「……又兵衛さん……いや、シショー! 大丈夫だよ!」
「……何が」
 二人のやり取りに突っ込みを入れた孝高は、薫、直樹立っての願いで未だに結を抱きかかえている。
「大丈夫! 回復とかはするからね! みんな全力で暴れて良いよ!」
「応援がおっかねぇなぁ……まあ、んじゃあやる事やりましょか? つばさちゃん」
「わかったよシショー!」
「良かったね、又兵衛! 弟子が出来たのだ!」
「弟子とか良いから。普通に呼んでくれれば良いから」
 そうこう言いながら、彼等は進む。

初手――再びわたげウサギに戻ったピカを直樹が押し出す。押し出して勢いをつけたピカが人間の姿に変わって打撃を加え、周囲の敵を直樹と共に蹴散らす。
二手――先鋒が道を切り開いた空間にウォーレン、又兵衛、つばさが入って道を拡大。槍のリーチを使って敵を蹴散らし、後続の進行を促す。
 三手――孝高が結を抱えて移動、その間に味方に手傷を負った物がいれば通り過ぎ際に結が回復魔法を唱えて回復。
 最後尾、受け手――孝高と結が進んだ先は後ろから敵が追ってこない様にルファンと薫が敵を押し退けて進んで行く。

 それはまるで、囲いのままに進む将棋の盤面の様に、一瞬の隙なく突き進むのだ。