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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

 呼び寄せたそれが一薙ぎすれば、敵と呼ばれる彼等は簡単に吹き飛び。しかし彼等に痛覚やら間隔やら意識がない為に、その行動はただ“退かす”と言う行為だけにとどまっていた。
「これじゃあキリがないと思うんですけど……」
 心配そうに様子を見ていたミーナの言葉と、それを肯定したそうに沈黙する淳二。二人の様子を見ていたシェリエがふと気づき、声を上げたのは淳二の乗っている名状しがたい獣が七度目の攻撃をした頃だった。
「そこから敵が見えないかしら! さっきから見てると、どんどん敵が増えて来てる気がするんだけど!」
「そうだよね……さっきから吹き飛ばされてる人たちの服装とかが微妙に違う気がするし――」
 パフュームが頷くと、二人の後ろにいたフェイが困った様にため息をついた。
「結えない末っ子……気付くのが遅い。二度目の攻撃の時、六人いた敵の四人が入れ替わっていた。多分残りの二人は別のところに行ってる」
「え」
「いや、“え”じゃない。はぁ……」
「ちょっと待っててください! 今見てみます!」
 八度目の攻撃をしながら淳二が返事を返すと、彼の乗ったそれはゆっくりと上空へと昇って行く。そこで、完全に淳二が動きを止めたことを、地上にいる彼女たちは知らない。
昇った速度と同じ速度で降りてきた彼は、ややバツが悪そうに敵を見据える。九度目の攻撃。
「どうだった?」
「敵、見えましたか?」
 ミーナとパフュームの問に、淳二は頷いてから呟くのだ。
「駄目だ、このまま此処でこうしてたんじゃ、一向に埒が明かないですよ……全く」
「どういう……?」
「此処からでも冷静に見えるでしょ? 右手上空――煙が立ちあがってます」
 彼が指を指した方、確かにそれは煙が天高く昇っていた。
「敵の侵入経路はあそこです」
「じゃあ、あそこを叩けばいいのね?」
「シェリエさん……それは多分、一番骨が折れる事でしょう」
「そうなの? なんで?」
「面白い報告を一つ」
 わざと言葉を溜め、彼は思い切りため息を溢す。面白い報告と言っておきながら、全く面白みも何もない表情で、彼は言った。
「敵の総数は、僕たちの非じゃない。サイズで言ったら十トントラック十数台、その中に全員敵が詰まっていたら――」
「待って……待ってよ。え? 十トントラック十数台って……」
「あそこの煙の昇る場所に、比喩でも例えでもなく事実あそこに、それだけの見慣れない車両が止まっています」

 大型トラックが十四台。

この空間には敵を積載しているそれだけの車両が、到着していた。
思わず言葉を失う彼女たちの前、それは突然に現れた。純白に身を包んだ、人の形をしたそれ。
『諦めるのはまだ早いと思いますよ』
 やってくる敵を蹴散らしながら、くぐもった声が聞こえる。
『闇を切り裂く逆転の切り札! インベイシオン、ただいま参上!』
 名乗りを挙げ、敵を蹴散らしながらにそう言う彼は、尚も彼女たちに背を向けたままに言葉を続ける。
『諦める事は誰にでもできます。時にはそれも良いかもしれない。でもね、それで危険に瀕するとするなれば、諦めて良いはずがない。まだこのくらいの事、諦めるには値しません。最後の最後の最後まで、貴女方を守ってみせましょう。その為の切り札だ。その為のジョーカーですよ』
 顔は見えない。それでも少し、笑顔を浮かべているのがわかる声だった。
「……そうね」
 シェリエが拳を握ると、淳二もため息交じりに攻撃を再開した。 まあ一理あるな とでも言うように。
ミーナとパフュームはインベイシオンなる彼に瞳を輝かせ、その後ろのフェイは無表情のままに呟く。
「何あれ」



 僅かばかり彼女たちの座標軸をずらしたところ。真人は苦い表情を浮かべながらに飛び退き続ける。
「大丈夫ですか、真人さん」
「何とかね……」
「リオン……僕が囮になるから二人で魔法を」
「囮……北都、あの数の前に一人で行くのは危険すぎます。それは私としては……」
「でもやっぱり誰かがしなきゃいけないと思うんだ。大丈夫、危なくなったら飛んで避けるよ」
「でも……」
 北都とリオンが会話をしているのを聞きながら、真人が真剣な表情で対処策を巡らせ始める。

「何ぼさっとしてんだよ! そんなとこにつっ立ってても殺されちまうだけだぞ? 戦う気がないなら早く建物の中にはいれよ!」

 上空から声がした。故に見上げた三人の上には、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が銃を握って彼等を見下ろしている。
「今考え事をしていました」
 真人の言葉に彼は笑う。
「そうか。それで? 何か良い論文でもかけそうかい?」
「戦う為の思考ですよ」
「そうか。それで? 良いアイディアは浮かびそうかい?」
 シニカルな笑みを浮かべながら、真人に向けて言葉を投げる恭也。その間も数度、敵の太腿を撃ちぬいている。
「躊躇いなく撃つね、あの人。普通の人だって知ってるのかな」
「知ってるんでしょうね。あの物言い……」
 北都とリオンがやや怪訝そうな顔をしている横、真人は数度の言葉で理解する。言葉を交わして理解する。
「良いアイディアが浮かびましたよ。でも、これは僕たち三人では出来ません」
「へぇ。そうか」
「貴方、空を飛んでるから見渡せるでしょう? 何処かに“全体が見渡せて腕の立つ狙撃手”がいれば、僕の策は完璧なんですがね」

 にやりと、笑った。

「………へぇ。ふぅん、なるほどね」
 同じくにやりと、恭也も笑う。
「腕が立つかは知らねぇが、見渡しが利く狙撃手なら一人、都合つかねぇでもねぇぞ?」
「おっと、それは助かりますよ」
 北都とリオンが顔を見合わせ、苦笑する。
「何だかこの手のやり取り、何処かで見たことあるよね。リオン」
「そうですね。此処には不在の誰かさん、が良くする話し方ですね。ふふふふ」
 二人はそう言うと、足を進めた。真人の前に二人で躍り出て、北都は武器を握って構えを取り、リオンは詠唱を初めて自身の周りに光を集め始める。
「さて。我らが策士さん。僕たちはどうすればいいと思う?」
 先程までのやり取りを見て、北都自身もにやりと笑った。まだまだ悪そうとはお世辞にも言えない、爽やかながらシニカルな笑み。
「どうでも良いけど、しょっぱい策はお呼びじゃあねぇからよ」
 高い位置にいた恭也も、手の届く距離まで下りてきて、リオンと北都の間を浮いていて。
「詠唱完了ですよ。さぁ、何なりと」
 にっこりと笑みを溢すリオン。向けた先は敵であり、そしてなりにより、背後の彼。
「乗りかかった船。転覆させたら笑われ者です。全員で乗り切りましょうか。豪快に――」
 全員の言葉を聞いた真人は、手にする杖の先を向けた。ある一点に向け、声を発する。
「誘導地点はあそこです。誘導数は――“ありったけ”。誘導手順や方法は問いません。相手が生きている事。より多くあの一点に敵を集める事。それが僕の持つ、今現在で最高にして最大の策ですよ」

 意味はまだ、わからない。
それでも彼等は頷いて、動きを見せる。

「始めましょうか。俺たちの戦い方を」



 ただ一人――。彼女はどうしようもない程に一人でそこに立っている。敵に囲まれているにもかかわず、彼女は別段焦る事もない様子で敵見つめ、攻撃されれば避けている。
紙一重――どころの騒ぎではない。悠然と避ける彼女を捉えるのには、今対峙している敵では恐らく役不足なのだろう。
そのくらいに、彼女は余裕を持って動いていたし、現に彼女に触れた敵は未だいない。五分、十分、二十分――。際限なく流れる時間の中。彼女は唯一顔色ひとつ変えずに全ての攻撃を躱し、反撃をせず、ただただ見つめる。

「悲しい人たち。操られているのですね。それは本当に可哀想。救う事さえ出来ない私を、せめて許してくださいませ」

 静かに呟いた彼女――フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は手にする苦無で一人、また一人と敵を倒して行く。攻撃を避け、避けた先から苦無を相手の足に、手に刺した。
命を奪う事はしないまでも、それがどれほど彼女の中で辛く渦巻いているのか。既に抑え込まれた表情からは感じ取る事など出来ないのだ。
ただただ、彼女は侘びを入れ。しかし此処で止まる訳にはいかないと、彼女は相手を倒して行く。

一人ずつ、確実に。彼女は敵を倒しつつ、シェリエとパフュームを見送るのだ。自分が引きつけている敵がどれほど多くとも、フレンディスとしては支障なく、ただただやって来る敵を静かに一人ずつ、横たえてやれば良いだけなのだから。