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か・ゆ~い!

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か・ゆ~い!

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「夢みたい……兄さんが、二人っきりで海に誘ってくれるなんて」
 黒いビキニに身を包み波間ではしゃぐのは、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)
「そうかそうか」
「素敵なビーチですね、兄さんっ! ところで兄さんだけ、なんで海に入らずボートに乗ってるんですか?」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)に誘われて海にやって来た。
 その時点で、怪しいとか思わない彼女は相当に重症だ。
 恋の病というやつの。
 当の本人のハデスは、非情に冷静かつマッドに世界征服の研究手段を練っていた。
(フハハハハ……パラミタラブクラゲとラブイソギンチャク! これは世界征服の為の重要な研究材料だ!)
 一体どこら辺が世界征服に繋がるのか不明だが、ハデスがそう考えたのだから仕方ない。
(実験体にはまっさらな状態で影響を受けてもらった方が良いから、咲耶には事前知識は与えない方が良いな)
 黙ったままはしゃぐ咲耶を観察する。
「きゃっ!?」
「おお、来たか」
 咲耶の足に、ピンク色のハート型触手が絡みつく。
「な、なんですかこれ……イソギンチャク!?」
 触手はうねうねと、容赦なく咲耶を侵略する。
「きゃ、きゃああっ、水着の中にぃっ! あ、っ!」
 抵抗した咲耶は、即座に噛まれた。
「あ、あ、あ、か、痒いいぃいいっ!」
 海の中、半分溺れそうになりながら身悶える咲耶。
「ふむふむふむ。イソギンチャクに噛まれるとこのような症状が出るのか。次はクラゲでも試してみたい所だな」
「あっ、に、兄さん、助けてえええ」
「朔夜」
「兄さん!」
「もうしばらくそのままでいるように」
「兄さんんんっ!」
 カメラで撮影し、動画を録画。
 そしてメモ。
 咲耶を前に、ひたすら冷静に観察を続けるハデス。
 それに彼には自信があった。
 自分には、咲耶の痒みを消すことができると。

   ※※※

 クラゲとイソギンチャクを利用しようとしていたのは、ハデスだけではなかった。
 もっと真っ当な意味で、その利用を考えていた者たちも少なくない。

   ※※※

 ぺしいっ!
「きゃあ、やったわねー!」
 ぺにゅっ!
「ぺぺぺっ、よくもやったな!」
「ふにゃあ!」
「うぉおっ!」
「二人とも、よくやるなぁ……」
 ビーチ・チェアの上で桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は、波間で戯れるエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)をのんびり眺めていた。
 発端は、ヒトデだった。
 いや、煉だった。
 エヴァとエリスに誘われた煉は、二人の押しの強さに流されて海水浴に来ていた。
 しかし、前日の水着選びでもう既にお腹いっぱい状態の煉は海に入ることなく浜辺でゴロ寝を決め込んでいる。
 それに腹を立てたエヴァが、腹立ち紛れにエリスにヒトデを投げつけたのだ。
 そのヒトデがエリスの顔にジャストミートしたのが、不幸の始まりだった。
 仕返しとばかりに両手で海水をかけるエリス。
 更に仕返しと、その近辺のものを何でもかんでも持つと投げつけるエヴァ。
 ヒトデ。
 貝。
 ヤドカリ。
 アメフラシ。
 そして、クラゲにイソギンチャク。
 クラゲにイソギンチャク?
「きゃっ!」
「うぉおおおっ!」
 エヴァが投げたクラゲがエリスに絡みついた。
 エリスが投げたイソギンチャクがエヴァに襲い掛かった。
 うねうねうね。
 投げられて怒っているのだろうか。
 いつもより乱暴に、触手を伸ばすクラゲとイソギンチャク。
 腕を、足を、胸を……身体中を触手が蹂躙していく。
「いやぁ……」
「うっ、くそっ、こんなので……」
 なんとか抵抗を試みる二人。
 しかし。
「は、あっ!」
「ぐっ!」
 びくりと仰け反る。
 噛まれたのだ。
「あ……か、痒いぃ……」
「くっ、なんだこの痒みは……っ」
「だ、大丈夫か二人とも!」
 悶える二人の異変に気づいて、煉が助けに来た。
 二人の腕を取るとなんとかビーチに上げ、クラゲとイソギンチャクを引きはがす。
「痒い……痒いようっ」
「痒い〜っ!」
「とりあえず治療法を探さなけりゃな」
 ティ=フォンを取り出すと検索をはじめる煉。
「って……愛情ぅ?」
 出てきた結果に微妙そうな表情をする。
(愛情?)
(愛情!)
 その言葉に反応したのは、エヴァとエリス。
 すかさずエリスにテレパシーを送るエヴァ。
(いいか、解ってるな)
(ええ、もちろん)
(これはチャンスだ! 今日だけは停戦して、連携して煉をその気にさせるんだ!)
(そうね、今日だけは特別。堂々と煉さんとイチャつけるチャンスなんだから!)
 痒みの中、即座に二人の気持ちが一つになる!
「煉」
「煉さん……」
 エヴァの黒いビキニと、エリスの白いビキニが煉を挟み込む。
「おい、エヴァっちにエリー、どうしたんだ?」
「痒いんだ……とっても」
「お願い、助けて……」
 二人の腕が、煉に絡む。
(こ、これは治療の為に必要なんだよな……)
 自分に言い聞かせながら、己と闘いながら、二人の期待に応えようとする煉だった。

   ※※※

「うふふ、楽しいですねぇ、洋介さん」
「あ、ああ……」
「宗麟ちゃんも、一緒にどうですかぁ?」
「べっ、別にいらねーよっ!」
 海ではしゃぐのはフローレンス・粟嶌(ふろーれんす・あわしま)
 フローレンスはこの機に滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)大友 宗麟(おおとも・そうりん)をくっつけようと画策していたのだ。
(そのためには、まずお互いの気持ちを煽らなくちゃ、ねぇ)
 急に洋介に抱き着くフローレンス。
「うわっ!?」
「むむっ」
 陽介の動揺と、離れた所にいる宗麟の焦燥が伝わってくる。
「どうですかー、宗麟ちゃん?」
「う、うっせえ! 誰があんた達なんかと一緒に遊ぶもんかい!」
 思いとは裏腹な言葉が宗麟の口から飛び出す。
 言ってからいつも後悔するものの、恋する人を目の前にしたら止められない止まらないツンデレハート。
 洋介とフローレンスにぷいと背を向けると、唇を尖らせる。
 と。
 ぬるり。
「ん?」
 何かが、足に絡みついた。
 勿論、イソギンチャクだった。
「うわぁあああ!?」
 愛情を求める人に集中的に絡みつくラブイソギンチャクは、宗麟の敏感な心に反応した。
 しまくった。
 体中を抱え込むように、どんどんと絡みつく。
「うわあ、大変ですぅ〜」
 あまり大変ではなさそうな口調で、それを見たフローレンスが言う。
「た、大変だと思うなら助けろっ……ぐっ」
 噛まれた。
「あ、かゆ、かゆ、かゆ……っ!」
「うわあ、ますます大変なことにぃ〜」
 口ではそう言いながら、悶える宗麟を『計算通り!』といった風情で見下ろすフローレンス。
「この症状を治すには、王子様のチューが必要なんです〜! さあ、洋介さん! ……あ」
 振り返って洋介の方を見たフローレンスは、ぱかりと口を開ける。
 肝心の王子様は、巻き込まれ体質が災いしたのかクラゲに巻きつかれていた。
「……ぐっ、か、痒い……」
 おまけに噛まれていた。
「大変ですぅ。このままじゃ洋介さんが……」
「あ……ぐ、ま、待ってろ……」
 イソギンチャクに絡まれながら、宗麟が動いた。
 ずるり、ぬるりと引きずりながら、洋介の元へ。
「本当に、これで助かるんだろうな……」
 宗麟の言葉に黙って頷くフローレンス。
 二人の唇が重なった。
 するり。
 二人に絡みついていたイソギンチャクとクラゲが、同時に滑り落ちた。