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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

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【五時間目!】


 辿り着いたプールで待っていたのは触手でした。

 この熱血水泳教室が終わった後日、高柳 陣が白い目を向けて吐いた言葉は
「つーか、アキレウス。
 お前……女好き触手怪物ってな……

 変態だろ」。
 プールの水の中から烏賊蛸的な吸盤付きの触手を伸ばし、女性を襲う怪物を前に、
 アキレウスが拡声器で話した
『最後にあの対岸までたどり着いたものが真の勝利者となる』
 とかなんとかかんとか云々言う演説は、誰も聞いていなかった。
 ただひたすらに逃げる。
 泳いで逃げる(服脱がされたくないから)。
 ただ一人、ドクター・ハデス(どくたー・はです)を除いて。

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!
 プールに潜む大海獣よ!
 このような狭い場所に閉じ込められているのは本望ではあるまい!
 さあ、この俺と契約してオリュンポスの怪人になるつもりはないか?!」
 と白衣の下が水着な事以外は大体何時もの通りの勧誘台詞を言ってみたものの、海獣相手にそれが通じる訳もなく……
 また、ハデス相手に「常識的に考えておかしいよ」との正論が通じる訳でもなく。

 ハデスは暫く首をひねっていたのだが、暫くしてやっとまともな考えに行き当たったのか
常に彼の被害者で有り続ける妹高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)を呼びつけた。
「ふむ、どうやら、ここからでは海獣に声が届いていないようだな。
 よし、改造人間サクヤ、暗黒騎士アルテミス。
 お前たち、怪人ナイン・テンタクラー(と、海獣をハデスが勝手に命名)のところまで行き、心をこめてオリュンポスに勧誘してくるのだ!」

 やっぱりまともな考えじゃなかったが、
「って、に、兄さんーっ!
 こんな海獣に、言葉が通じるわけないじゃないですかーっ!」
 という突っ込み的な台詞もオリュンポスの大幹部様相手には虚しいだけだ。
 今回は早々に諦めて命令を受け入れ、海獣のところまで行かされた咲耶は、忠実な騎士であるアルテミスが懸命に勧誘する様子を見守った。
「私はオリュンポスの騎士、アルテミスです!
 ナイン・テンタクラー様。お聞き下さい。私達オリュンポスは世界征服を目的とした――」
――ええ、分かってるんです。
  当然ながら海獣はスカウトの言葉に耳を傾けてはくれないでしょう。
  というか、そもそもあの触手海獣に耳なんてあるのでしょうか?
  いえいえ、ある訳ありませんよね。
「と言う訳でアルテミスさん、そろそろ逃げましょう」
 咲耶が忠誠と常識の中で戸惑っているアルテミスの手を引くが、時既に遅し。
「ちょっ!
 や、やだ……触手が!?」
 いつの間にか彼女達の近くまで触手がやってきていたのだ。
 全速力で泳いでみるものの、すでに追いつかれてしまっているから無駄な力を使うだけだった。
 触手は咲耶の身体に絡み付き、うねうねと動きながら彼女が身につけている水着を勢い良く剥ぎ取ってしまった。
「きゃああっ、み、水着っ!!」
「くっ、で、ですが、その程度の攻撃、このオリュンポスの騎士アルテミスには通じません!」
 念のために剣を持って行っていたアルテミスは、触手を迎撃しようと剣を鞘から取り出した。
 しかし如何に小型の剣とはいえ、抵抗力の強い水中で剣を自在に振り回すのは至難の業だ。
 始めに太腿を取られた時は、触手に突き刺す事で難を逃れたものの、
咲耶を助けようと動いた瞬間、アルテミスは後ろからきた触手につかまってしまったのだ。
 触手はアルテミスのAライン水着の肩ひもをジリジリと焦らす様にゆっくりずらしていく。
「きゃ、きゃあああっ!」
「やっ、だ、だめぇっ!」
 咲耶は、決死の思いで触手に絡みつかれながらも、なんとか自分の身体に光術で謎の光りの橋を渡す事で、プールにいる男性陣から裸を見られないようにガードする。
 その間にもアルテミスの胸元に侵入した触手は彼女の豊かなバストの上を舐めるように動いている。
「いやっ、みっ、水着の中に入って来ないでっ!」
 咲耶は更なる”光り渡し”でアルテミスのピンチを助けた――具体的には何の助けにもなっていないが――

 こちらの話を収録するDVDブルーレイは、テレビでは放送することのできなかったドキドキの映像と音声を全て解禁致します!
 謎の光り解除、セクシーボイス解除でおおくりするディレクターズカット版は、
 原作者書き下ろし小説とミニドラマCD付きで来月発売予定です!



 プールにやってきた芦原 郁乃(あはら・いくの)には予想外の事があった。
 一つは彼女のパートナー蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が泳げた事。
「あたしはこんななりですが魔道書なんですよ?忘れてないですよね? ね!?」
「うん、知ってる」
「言うまでもなく、書物は濡れる、燃える、日光を浴びる、カビることを大層嫌うものなんです」
「うん、で?」
「ですから、泳ぐなんてありえないのです」
「でも、水着着てるよ?」
「着たんじゃなく、着せられたのです!」
「まぁ〜それは置いといて」
「……置かないで下さい、張本人なんですから」
「水着着て、プールまで来たんだからさっ! 泳ごうよ!」
「主……人の話聞いちゃいませんね……ハァ」
 なんてやり取りをさんざんやってからここまできたから、すっかり彼女はカナヅチだとばかり思っていたのだが、実はそうではなかったようだ。
 泳げてしまった等の本人も驚いていたから凄く意外な事だったが、蒼天の書 マビノギオンは泳げてしまったのだ。
「んー予想外予想外。
 あんなに濡れるのを嫌がるから泳げないんだろうなぁって思ってたんだけど、結果的には食わず嫌いなだけだったんだねー」
 と一人頷いていたら、もう一つの予想外の出来事が起こってしまったのである。

 気づいた時には触手に捕まりあっという間に水着を脱がされ、彼女自身”恋人にしか見せないだろうな”と思っていたあ?んな事や、こ〜んな事を暫くの間たっぷりと
弄ばれて。
「ああ! そんなっだめっだめっいやああああっ」
 なんて言いながら隣を見たら、マビノギオンは淡々平然としているのだ。
 正直郁乃一人が盛ってしまった恥ずかしい子みたいでイタタマレナイ。
「マビノギオン、大丈夫……なの?」
「所詮この身体は本質ではないですから。
 裸にされたところで問題はありません」
 きっぱりとそう言ってのけるマビノギオンに郁乃は考えてみる。
――感情がないわけじゃないから、きっとそうしたの隠してるんだよね  ……そうなんだよね? ね? ね?
 パートナーの事を慮っている間も、郁乃はあ〜んな事やこ〜んな事もありーのな口に出すのも憚られる状態だ。
「……はぁ……」
 ため息と共に撃出した銃弾で彼女達を助けた御宮 裕樹は、アキレウスに向かって叫ぶ。
「あのな、泳げない子に
『泳げ、海獣に襲われるぞ!』的な訓練に叩きこむのは思いっきりパワ・セクハラだ。やめなさい。

 というかお前ら、常識的に教えてやれよ!」


 因にアキレウスは、まさかの触手に投げ出されて既にどこぞへ飛んで行った後だったのだが。



「きゃあああああ」
 プール内にこだました悲鳴は、連続して起こっている触手被害によるものではなかった。
 パートナーのラトス・アトランティス(らとす・あとらんてぃす)によってプールに突き落とされた七瀬 灯(ななせ・あかり)の声である。
「なんですかあれ、触手!?」
「そうだ、速く泳がないとあの人たちのように酷い目に遭うぞ」
「そ、そんな!」
「嫌ならしっかり泳ぐんだ。いい鍛錬になるぞ!」
「鍛錬って……これじゃ罰ゲームではないですか!!」
 必死になればなんとかなる。
 罰ゲーム的なこの特訓のお陰で、この日七瀬 灯は、生まれてはじめて50メートルを越える距離を泳ぎきったのだった。