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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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第二章 作戦の始まり

 ≪ヴィ・デ・クル≫の中央。数段高い位置に作られた博物館。
 その中で生徒達はミッツ・レアナンドを囲むように集まっていた。
「それじゃあ説明するが、何度も教えるのは面倒だ。できれば一回で覚えてくれよ」
 ミッツは資料から読み取った≪三頭を持つ邪竜≫を封印するための陣の描き方を、集まった生徒達に教えていく。
「この博物館を中心に陣を街の十か所に描く。完成するごとに光の柱ができるはずだから、全てが完成したのを確認してからこの場所で祈祷を行う」
 ミッツが傍に置いておいた銀色のアタッシュケースを開く。そこには以前とある家から譲り受けた≪黒衣の巫女装束≫が入っていた。
「それじゃあ、みんな大変だと思うが、街を守るために頼んだぞ!」
 生徒達はそれぞれ陣を描くために移動を始める。
 そん中で、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は資料に描かれた陣の描き方を食い入るように見つめていた。
「なんだ、まだ覚えられていないのか?」
「そ、そんなことないですわ!
 わたくし位の魔道書になるとこれくらい楽勝なのですわ!」
「……ふぅん」
 イコナは資料を置くと胸を張って自信満々に応えていた。
 その様子を見ながら、ミッツは自身の内側から悪戯心が湧き上がるのを感じた。
「そうですわね。例えるならば……この程度は朝ごはんがたまごかけごはんになるようなものですわ!!」
「そうなのか? あ、でも悪い、僕は朝はパン派なんだわ」
 ミッツがしゃがみ込むと笑ってそう答えると、イコナは戸惑いながら一生懸命に別の例えを探し始めた。
「え、えっと……では、食パンがジャムパンに――」
「でも休日はご飯派かな」
「あ、そしたら――」
「いや、惣菜パンを前日に買って食べることも多いか」
「うぅぅぅ……」
 イコナは半べそ状態で背後の源 鉄心(みなもと・てっしん)を振り返った。
 鉄心はため息を吐くと、ミッツに声をかけた。
「ミッツさん、あまりイコナをいじめないでください」
「はは、わるいわるい」
 ミッツが笑って答えると、鉄心は再びため息を吐いていた。
「それじゃあ俺達も封印の作業に向かいますね」
「おう、こっちも祈祷の準備を始めておく」
 鉄心がイコナの手を引いて封印作業へと向かって行った。
 すると、入れ替わるように清泉 北都(いずみ・ほくと)がミッツに近づいてくる。
「ミッツさん。幾つか質問してもいいですか〜?」
「ん、いいけど?」
「なぜこの前遺跡に行った時、ミイラに狙われなかったのかなぁ? それと、親友のジェイナスさんに不審な点はなかったですかぁ?」
 北都の質問に対して、ミッツは腕を組んで考えた。
「そうだなぁ。遺跡に行った時は出ていく時に狙われたよ。
 不審な点というか、変わった点は……呼び方かな」
「呼び方?」
「そう。昔は『ミッツさん』って呼んでたんだよ、あいつ。一応ああ見えて年下だからね。気も弱かったし、旅に出て成長したと思ってたんだけどね……」
 ミッツは博物館の入り口に移動すると、街の外に見える要塞を寂しそうに見つめた。
 儀式装置は土地からもエネルギーを吸いだしているらしく、光の粒子が溢れて街中が淡い光に包まれていた。
「こんな人様に迷惑かけるような奴じゃなかったのにな」
「ミッツさん……」
「あ、まだこんな所にいたんですか!?」
 そこへ、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が駆け寄ってくる。
「どうかしたぁ?」
「どうかしたじゃないです。敵がこちらに目指して大通りを進んで来ているんですよ」
 リオンに言われて大通りへと視線を向けると、いくつか≪氷像の空賊≫の姿と、戦闘を行っている生徒の姿が見つかった。
「僕も迎撃にいってくるね〜」
 北都はミッツに手を振ると、リオンと共に≪氷像の空賊≫の迎撃に向かって走り出した。
 その途中で北都は小さな声で呟く
「あのジェイナスは本当にミッツさんが知っているジェイナスなのかな……」


「遅くなりましたぁ。すぐに援護しますよぉ」
「助かります!」
 前線に追いついた北都は、すぐさま佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)の援護にはいる。
「私とアルトリアちゃんで前に出ますので、援護をお願いします!」
「わかりましたぁ」
 北都が【禁猟区】と【超感覚】を発動し、敵の攻撃に備える。
 ルーシェリアは契約者であるアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)の隣に並ぶと剣を構えた。
「アルトリアちゃん、私達は派手に暴れて少しでも敵を引きつけます。だから、手加減はいりません。
 最初から全力でいってください
「……了解しました」
 ルーシェリアの言葉に、アルトリアは嬉しそうに小さく鼻を鳴らした。
 ≪氷像の空賊≫がアルトリアへ向かってくる。
「全力で戦う許可が出ています。悪いですが、手加減無用で叩かせて、いただく――!!」
 アルトリアは地面を力強く蹴りつけると、一跳躍に≪氷像の空賊≫との距離を詰めた。
 そして、すれ違いざまに眩しく輝く剣で≪氷像の空賊≫の胴をバッサリ斬り落とす。
「もう一つ!」
 さらにその先にいた一体を頭から真っ二つにしてみせた。
 二体の≪氷像の空賊≫が氷から水へと変化し、照りつける太陽によって熱を帯びた地面へと溶けていった。
「さて次は――」
 次の標的を探すアルトリア。その背後から≪氷像の空賊≫が近づいてくる。
 だが、≪氷像の空賊≫がアルトリアに攻撃を加えることはできなかった。
「やぁぁ!!」
 ルーシェリアがアルトリアのサポートを担っているからである。
 上下に切断された≪氷像の空賊≫の身体が地面に転げ落ちる。
「アルトリアちゃん、背後にも気をつけてくださいね」
「大丈夫でしょう。そこはルーシェリア殿を信頼していますから」
 アルトリアが振り返って笑いかけると、ルーシェリアはほんのり頬を赤く染め、笑い返した。
「ではルーシェリア殿。一気にいきますのでしっかりついて来てください」
「任せてください」
 構えたアルトリアの剣に炎が灯る。
 掲げるとその勢いをさらに増し――

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 アルトリアは軸足に力を込め、渾身の力で気合と共に炎を灯した剣を振り下ろす。
 振り下ろした剣から炎が飛び出し、≪氷像の空賊≫に直撃すると、火の粉を散らしながら爆散した。
「行きます!」
「はい!」
 駆け出したアルトリアとルーシェリア。
 その後方で周囲を警戒していた北都が民家の上に狙撃手の存在を感じ取る。
「右前方に狙撃手三人ですねぇ」
「了解しました!」
 リオンは空飛ぶ箒シュヴァルベで民家の頭上まで飛び上がる。
 すると、腹ばいになってライフルでアルトリア達を狙う兵の姿を発見した。
「見つけましたよ!」
 兵が存在に気づいて銃口を向けるより早く、リオンの発動した【我は射す光の閃刃】が降り注いだ。
 割れた瓦と一緒に兵が吹き飛ばされていく。
 北都の傍に戻りながらリオンは周囲を確認したが、近くの屋根に敵の姿はなかった。
「他に敵の気配はありますか?」
「正面から向かってくる敵以外にはないと思うねぇ。
 とりあえず、ドッペル配置しとこうかぁ?」
「そうですね。陽動にもなりますし、名案でしょう」
 二人はドッペルゴーストに周辺を歩き回ってもらうことにしながら、アルトリアとルーシェリアの援護へ向かった。

 程無くして彼らの近くに敵影はなくなるが、街の至る所では戦闘を行っている音が聞えてくる。
「ルーシェリア殿、この後自分達は?」
「あれ? もしかして「自分はまだ戦い足りません!」とかいいます?」
「いえ、そういうことでは……ただ、皆さんが戦っているのに見ているだけというのは納得がいかない、と思いましたので……」
「アルトリアちゃんはいい子ですねぇ」
 ルーシェリアがそう口にすると、アルトリアは返答に困った様子であたふたしていた。
 その様子が可笑しくてルーシェリアはくすくすと笑っていた。
「……そうですね。私達も戦いましょうか。
 自分だけサボっているのは私も嫌いです。とりあえず敵の多い場所でできるだけ目立つように戦って、囮役でもしましょうか」
「は、はい!」
 ようやく返す言葉が見つかってアルトリアは嬉しそうに返事をしていた。
「お二人はどうしますか?」
「僕達はこの辺でミッツさんのいる博物館に敵がいかないように迎撃かなぁ。それと、逃げ遅れた人がいないか捜索に当たろうと思うよぉ」
 お互いに次の行動を確認し終えると、ルーシェリアはレティ・インジェクターに、アルトリアはレティ・ランセットに乗った。
「これなら目立つし囮としても最適です。
 それではお二方もお気をつけて」
「うん。ありがとう〜」
「何かありましたら、私の夫を通してでもご連絡ください。
 それでは、お先に失礼いたします!」
 ルーシェリアが颯爽と駆け出し、アルトリアが北都達に一礼してその後を追いかける。
「……それじゃあ、僕達も頑張ろうかぁ」
「はい」
 ルーシェリア達の姿が小さくなるまで見送った北都は、リオンと共に周辺の捜索を開始した。


*****



 街の正面に位置する門を潜ってすぐの位置。
 押し寄せる敵の相手に神凪 深月(かんなぎ・みづき)が両手に持ったひぐらしのナタを振っていた。
「向かってくるのなら、われわが全て相手になってやるのじゃ!」
 深月は左手のナタで≪氷像の空賊≫を斬りつけると、もう一方で四本脚の機械兵器にナタを突き立てた。
 機械兵器は爪となっている四本の足をバタつかせてながら、深月によって空中に持ち上げられる。
「そらっ!」
 深月が身体を回転させて遠心力を加えながら、ナタを突き刺していた機械兵器を≪氷像の空賊≫に放り投げつけた。
 機械兵器はボーリングの球のように密集した≪氷像の空賊≫にぶつかると、周辺に砕け散った氷塊を撒き散らす。
「ふぅ、さすがに数が多いのぅ」
「何をいまさら言っているんですか……」
 久遠・古鉄(くおん・こてつ)は移動しながら、無駄のない動きで次々と照準を切り替えながら両手に持った銃で敵を打ち抜いていく。
 そうして深月の近づき、背中を合わせた。
「マスターが彼らを手助けするために陽動をすると言い出したのでしょう」
「そうじゃな……騨よ」
 深月が街に近づいてくる機動要塞を見つめる。
「あゆむを助けるのはお主じゃ……頑張るのじゃぞ……」
 機動要塞の下部からは四本足の機械兵器が次々と地上に投下され、街に向かって侵攻してきていた。
「おいおい、まだ来るんか? わい、結構倒したで?」
 狼木 聖(ろうぎ・せい)が身の丈ほどもある巨大な十字架パニッシャー零式を振り回しながら、うんざりした様子で口にする。
 黒いスーツの下に着込んだワイシャツは汗で肌に張り付き、聖は時折引っ張っては隙間に空気を送り込んでいた。
「氷の奴だけでも面倒やのに、小うるさい機械まで相手せにゃあかんのか……」
「ちゃんと後で彼らの弔いをあげてください」
「マジでか!? これまで何体倒したと思ってんねん!?」
「……私達が倒した数だけでならば、『 4 3 8 』体です。氷像の空賊だけの数ですが、機械兵器も含めますか?」
「いや、いらん。……頭が痛くなりそうや」
 淡々と答える久遠から背を向けて、巡回牧師を名乗っている聖は額を手で押さえていた。
「二人とも喋ってないでせっせと働くのじゃ!」
 深月は目にも止まらぬ速さで二本ナタを振り、≪氷像の空賊≫を十字に斬り裂いた。
「敵が密集しているのぅ。ここはこやつの出番じゃな!」
 向かってくる機械兵器を見て、深月が大惨事スーパーアル君人形を取り出す。
「それではアル君。ここはお主に一働きしてもらおうかのぅ」
 深月が【式神の術】をかけると、大惨事スーパーアル君人形が「あるだにゃー!!」と叫んで起き上がる。
 そして深月の指示を受けて、機械兵器へとテクテク歩いて行った。
「二人とも伏せるのじゃ!」
 深月が叫ぶと同時に、機械兵器の足元へ行った大惨事スーパーアル君人形が――自爆した。
 爆音と共に熱風が吹き荒れ、様々な破片が周囲に飛び散る。
「………………」
 頭を庇うように伏せていた深月が、手を頭部から離して手のひらを空へと向けた。
 すると、その手の中に頭がアフロに、服はアロハシャツになった大惨事スーパーアル君人形が戻ってきた。
「……おかえり」
 深月が声をかけると、大惨事スーパーアル君人形が疲れ切った声で「あるだにゃー……」と言っていた。
「これで少しはスッキリしたかのぅ」
『一時的に』ではありますが……」
「そこ強調すんなや。……ま、その間に氷のやつをどうにかしちまおうや!」
 久遠が六連ミサイルポッドを発射し、聖が溜めた一撃で街中に亀裂を走らせながら≪氷像の空賊≫を倒していく。
「すまんな。少年少女のええ未来の為に……あんたらの未来狩らせてもらうわ。
 恨むんならわいを恨めや?」
 聖はダメージを恐れず≪氷像の空賊≫の中に飛び込む。
「私達は仲間を守る盾です。
 ……ですが一つ言っておきましょう。この盾は貴方がたを食い殺す牙であるという事を――」
 久遠は跳躍して距離を止めると、右手を≪氷像の空賊≫の顔面に押し付け、そのまま地面に叩きつける。
「撃ち貫かせていただきます」
 右手に内臓された杭が≪氷像の空賊≫の頭を貫いた。
「ふむ。ではわらわも――」
 仲間の活躍に感心していた深月は自分も負けていられないと思った。その時、離れた所で眩い光が放たれ、大気を震え上がらすほどの雷鳴が鳴り響いた。
 しかし、空は見上げても雲一つない晴天だった。
「――奴か」
 深月が民家の屋根に上って光が放たれた方角に視線を向けた。
 そこには、かなり離れた通りを我が物顔で進む≪猿虎の魔獣キマイラ≫の姿があった。