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リアクション
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は、カラスたちの後を追って、ツァンダ郊外にある巨木の元を目指していた。
「なんというか、同情するぞ、雅羅……」
雅羅の横を歩く御宮 裕樹(おみや・ゆうき)が、やれやれという表情で呟く。
「俺も大概トラブル体質だが」
お前には負ける、という語尾を、裕樹はわざと濁した。
連れ去られたパートナーを追う雅羅の周りには、彼女からの要請を受けた契約者達が十数人、団子になって進んでいる。巨木の探索になる事を見据え、飛空艇やペガサス、ワイバーンなどの空飛ぶ乗り物を従えているものも多い。そのため、十数人とはいえかなりの大所帯に見える。
その中には、雅羅の親友である白波 理沙(しらなみ・りさ)、そしてそのパートナーのカイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)の姿もあった。
「でも、雅羅が無事でパートナーだけが連れ去られる、なんて今までに無いパターンよね」
理沙が不思議そうに首を傾げる。
「そうね……」
答える雅羅は、心なしか申し訳なさそうだ。いつもいつも自分が呼び寄せるトラブルにパートナーを巻き込んでいる、とはいえ、此所まで直接的な形で被害が及んだのは初めてのことだ。
「大丈夫だって、私達だってついてるんだし、さっさとアルセーネ達を助けて、楽しいランチにしましょ?」
理沙はそんな雅羅を励ます様に、背中をぱしん、と一発叩く。
すると、雅羅はありがとう、と微笑む。ようやく笑顔を見せてくれた雅羅に、理沙もにっこりと笑顔で答えた。
さて、ぞろぞろ進む一行の視線の先に、宙に浮かぶ巨大な森が見えてきた。
いや、正しくは、あれで一本の木、なのだ。
「相変わらずおっきいわね……」
はあ、とため息交じりに雅羅が呟く。
あれだけ巨大な木だ、ツァンダに居住するものであれば誰でも、視界の端にくらいは見たことがあるだろう。
最も高いところになれば、六十階建てのビルよりも高く、悠然と広げた梢はちょっとした森程度の範囲にわたって青々とした葉を茂らせている。離れて見れば、ちょっとした森か、ともすれば山にも見えてしまう。
しかし、こうしてある程度まで近づいて見れば、その青々とした塊が紛れもなく一本の木で或る事は明らかだ。山のように見える部分はぽっかりと空中に浮いていて、その真ん中には立派な幹がしっかりと、地に根を下ろしているのが見て取れる――とても遠くに。
「こんなに大きいと、闇雲に突っ込んでも迷子になるだけかも」
むむぅ、と隊列の中程で呟くのは杜守 柚(ともり・ゆず)だ。雅羅からの救援要請を受けて文字通り飛んできた。小型飛空艇で。
ちなみに運転して居るのはパートナーの杜守 三月(ともり・みつき)。
「ある程度分散して探す必要がありそうだね」
三月の声に雅羅も頷く。
「中からと外から、二手に分かれましょ」
「そうね。携帯で連絡取り合うのを忘れないように」
理沙が一同に声を掛けると、契約者達はそれぞれに顔を見合わせて頷きあった。
「出来るだけ戦闘は避けて、さっさと二人を助けだそう」
な、と雅羅の隣で笑顔を見せるのは四谷 大助(しや・だいすけ)だ。パートナーの四谷 七乃(しや・ななの)が転じた黒いコートを纏っている。
「そうね。いつまでも石化したままじゃ、那由他も可哀想だわ」
パートナーの幼なじみを心配するように、雅羅は巨木を見上げる。その視線を追うように、大助たちも巨木を振り仰ぐ。
やっと幹が見える所まで来たとは言え、幹まではまだまだ距離がある。そのくせ、一行の頭上、はるか高くには悠々と広がる巨木の枝の先端が見えた。
「じゃ、オレ達はこの辺で上に回るよ」
大助が、連れてきていたレッサーワイバーンにひらりと跨がった。他の飛行手段を持つ人達も、それに続こうとする。
しかし、雅羅が慌てて声を掛ける。
「ちょっと待って、迂闊に分散するのは得策とは言えないんじゃない?」
「でも、これ以上進んじゃうと外側から探しに行くの、ちょっと面倒になっちゃうよ」
そう言って、柚が頭上を仰いだ。
柚もまた飛空艇と空飛ぶ箒を使って外から探索に当たるつもりなのだが、見上げた木の枝は縦横無尽に伸びていて、飛空艇やワイバーンなどは簡単にはすり抜けられそうにない。一度この下に入ってしまったら、上に出るためにはもう一度この距離を戻って来なければならないだろう。乗り物があれば苦にならない距離、とはいえちょっとした手間だ。
「では、ここで一旦二手に分かれませんか? そのうえで、中から突入する方達は、一旦根元まで行って、そこから四方に散る――というのはどうでしょう。いずれにせよ飛行手段が無い私達は、幹を伝って登るしかありませんし」
おちついた口調で、しかしはっきりと提案するのはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。
彼らの頭上に広がる枝は、ちょっとしたビルの屋上よりもっともっと高い位置にある。その上、おそらくはこの巨大な木が日光を遮るからなのだろう、梢の下に背の高い木は生えていない。飛行手段なしに枝葉の中を探索しようとするならば、まず幹を登る以外、方法はない。
かといって飛行手段があるチームだけ先に突入してしまっては、後から突入することになるチームが同じ所を探索してしまうかもしれない。それは無駄足になってしまう。いっせいのせ、で四方八方へと散る方が得策だろう。
「オレ達は一度こいつで上まで回って、上から内部を探すつもりだよ」
「あ、私もです!」
と、フレンディスの言葉に大助が口を挟んだ。空飛ぶ箒を構えていた柚もひょこりと手を上げる。
「じゃあ、中から探すみんなは下から順に、オレ達は上から順に探していく、でどうかな?」
「そうね、それがいいかも」
大助の提案に、一同が頷く。おおまかだが、作戦が固まった。
「よし、じゃ、俺達はそろそろいくよ。急がないと、ランチタイムのうちに二人を見つけられないからね」
作戦がまとまったところで、大助の音頭で複数の飛行物体が宙へと舞い上がる。
「じゃ、私達は中から」
大助達を見送ると、残った面々は大木の幹目指して、急ぎ足に歩き始めた。
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