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リアクション
海辺のトコナッツランド【3】
「美羽の服、いいな」
乗り物に並ぶ前につまむものでも、とワゴンに並んでいるパートナー達を待つ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を見ながら、アリサはふと呟いた。
その声は聞こえていたようで、美羽は振り向くと「ありがとう」と返してアリサを見る。
ノーカラーのデニムワンピースに、ウェッジソールのサンダルは一応の流行を抑えてるのもの、どこか素っ気ない印象だ。
一方の美羽はと言えば、ビビットカラーで纏め、足を惜しげも無く晒した大胆で夏らしいコーディネートだ。
「体形をカバーしようと思うとどうしてもこう……隠す感じになってしまうんだが」
アリサは額と胸に手を当てる。
身長が足りない。とか、胸が足りないとか。
小さくても大きな悩みだった。
同じ様な悩みのある美羽なのに、彼女のコーディネートを見てこんなにもファッションを楽しんでいるのかと驚いていたのだ。
「思うにアリサの服にはさし色が足りないな〜って」
そう言っていた美羽は何かに気付いたように走り出す。
美羽が向かっていたのはアクセサリーの積まれた小さなワゴンショップだった。
「これ、お揃いで付けよう」
彼女が選んだのはこの遊園地のキャラクターがモチーフらしい、ハート型のドット柄の巨大なリボンだ。
カラーは四種類あるらしい。
グリーンにブルーにピンクに……アリサがブラックのそれを選ぼうとした時だった。
「アリサはこっち!」
美羽に止められて、代りにピンク色のリボンをサイドに乗せられる。
そんなアリサの姿を見て、少女達は黄色い声を上げた。
「可愛いですわ」
「うんうん、似合ってる」
「アリサ、鏡見てみて」
ジゼルがアリサの肩を押して、ワゴンの横に付けられた鏡をみせる。
「ぐっと明るくなった感じですね」
加夜が言うようにリボンの明るい色が、今のコーディネートに良いアクセントを加えていた。
「隠しすぎて地味になるよりグイグイ出して行った方がいいって!」
美羽に頷いたところで、買いだしに行っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と聡がドーナツの箱を手に戻ってきた。
「お、アリサ何か可愛くなってる?」
「ふん、早く次の乗り物に行くぞ」
聡のからかうような声に、アリサは少しの気恥かしさを含んだ無表情な声で『ファントムマンション』へと歩いて行った。
「アリサ?」
ずんずん歩いていたアリサの足を止めたのは、宙野 たまき(そらの・たまき)の声だった。
「そなたも来ていたのか」
素っ気ないアリサの挨拶だが、たまきは笑顔を向ける。
一人で来るような場所じゃないと思いつつ、散歩するように歩いていた時に「一緒に来たかったと」ぼんやり思い浮かべたパートナーはまぎれもなく彼女だったのだから。
そんなたまきの白のパーカーに空色のTシャツ、ハーフパンツの私服を値踏みするように見て、アリサは率直に思った事を述べる。
「……普通だな」
「アリサは可愛いな。リボンが良く似合ってる」
「こ! これはその……」
透かさず帰ってきたこちらも思った事をそのまま言った感想に、アリサはどう返したものか分からない。
ただ慌てているのを友人達が少し離れた所からニヤニヤと見ているのに気付くと、アリサは堪らずにたまきの腕を少々乱暴掴んで列へ向かった。
「そなたも一緒に来い!」
「ところでジゼルちゃんは、この乗り物がどういうものか分かりますか?」
加夜の質問を受けて、ジゼルは小首を傾げながら答えた。
「えーと、お化けが出るんでしょ?」
「それから乗り物に乗るんです。コースターって少し速かったりするかもしれませんけど……大丈夫?」
「う、うーん……?」
首を更に捻ったジゼルの耳に飛び込んだのは、彼女達の前に並んでいるアリサとたまきの会話だった。
「イコンの訓練に比べれば――、正直どの乗り物も遅く感じるな」
「それに契約者相手にお化け屋敷って……なぁ?」
ジゼルは曲がってた首を振る様に戻すと、加夜の両肩をばんばんと叩いて笑う。
「余裕余裕! 超余裕!!」
「そ、そうですか。ならいいんです」
*
腹部に降りてきた安全バーは、スタートの前の高揚感を煽る。
だが、乗り場の先のコースは暗く全く見えない状態だ。
たまきは隣に居るアリサの温度に若干の緊張を含みつつも、彼女を気にかける言葉を掛けた。
「そんなに速くないと思うが、しっかり捕まってろよ」
だが、アリサはというと、視線を前から離さず、手も安全バーを握りしめたまま離さない。
少しの残念な気持ちと、嬉しい気持ちを綯交ぜにしながら、たまきとアリサの乗る乗り物はスタートした。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ」
余裕じゃなかった。
ジゼル。そして彼女を心配していた加夜迄もが悲鳴を上げ、抱き合っている。
目を瞑っては意味が無いのに、それでも館内の恐ろしお化けと猛スピードで吹きつける風に瞑らずにはいられなかった。
降りた瞬間からガラガラになった喉で笑いあっていると、後ろから降りてきた理沙が二人の背中をそっとつついたので二人は再びの悲鳴を上げる。
「もう、二人とも凄い声。後ろまで響いてたわよ!」
あははと笑う理沙に、加夜とジゼルと笑い合いながら人差し指を立てて言った。
「大声で叫ぶとストレス発散になるんですよ」