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リアクション
アンデッドと化したペガサスライダーは、合計で四体。
初めは呻くだけだったアンデッドたちは、左面へと狙いを変えたエッツェルに操られるようにして、共に移動し暴れ始めた。
周囲にペガサスの嘶きが響き渡る。その声は澄んだ幻獣の嘶きではなく――狂気を孕んだ雄叫びのように、ティー・ティー(てぃー・てぃー)には聞こえた。
「ペガサスたちに元々罪はない筈です。それなのに――」
ティーの騎乗したワイルドペガサス・グランツのレガートが嘶く。アンデッドのペガサスライダーたちの目を覚まさせるように、高く、強く。
しかし、数頭のペガサスは虚ろな瞳をレガートに向け、更にはレガート目掛けて襲いかかってきた。
「おいおい……これは捕虜の回収どころじゃないな」
スレイプニルに乗った源 鉄心(みなもと・てっしん)が呟く。
鉄心は当初、数名の飛行兵と共にティーや舞香がペガサスなどから落下させた空賊を捕虜にしていたのだが、エッツェルの登場に急遽進行方向を変えた。
「捕虜にした奴らは、沿岸部まで連行してくれ。俺はティーの援護に向かう。イコナも下がっているんだぞ」
「わ、わかりましたですの……」
炎雷龍スパーキングブレードドラゴンのサラダにしがみつき震えるイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)にそう言い残して、スレイプニルはレガートの元へと疾駆した。
アンデッドたちに襲われてワイバーンから振り落とされた空賊の姿に気付いたイコナは、咄嗟に飛び寄って空飛ぶ魔法↑↑を掛けた。
落ちていく賊の体は、柔らかい空気のクッションに受け止められるかのように、ゆっくりと停止した。それを、大型飛空艇ハーポ・マルクスが受け止めた。
「ナイスキャッチ!」
ハーポ・マルクスの船長カル・カルカー(かる・かるかー)は賊に駆け寄ると、手早く縛り上げた。
「このままじゃ埒が明かないよ。あくまでも僕たちの役目は、突入部隊を要塞に接舷させることなんだ」
「カル坊の言う通りだ。早いところアンデッドたちを撃ち落として、要塞に突入してもらおうかのう!」
夏侯 惇(かこう・とん)はそう言って響く声で笑う。
「了解した。しっかりと命令を出してくれよ、キャプテン!」
ジョン・オーク(じょん・おーく)は舵を握り、エッツェルたちのいる区域をじっと見つめる。
そのハーポ・マルクスの隣に、一艘の大型飛空艇が並ぶように船体を寄せた。
『思ったより、突入は難航しそうね』
無線を使って呼び掛けるのは、村の人々に貸してもらった大型飛空艇を操船するフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)だった。
『討伐は無理にしなくてもいいわ。私たちは、外壁を崩して潜入するつもり。とりあえず、あの怪物さえ要塞から引き離してもらえれば構わないわ!』
『なら、俺とティーが奴の気を引きつける』
二艘の飛空艇の前に踊り出た鉄心が、フリューネの言葉に応えた。その隣にティーも佇む。
『じゃあ、僕たちは邪魔になりそうなペガサスライダーのアンデッドを討伐するよ!』
カルも鉄心の後に続く。
『ありがとう! 頼んだわ!』
『了解!』
カルは、惇とジョンの顔を交互に見る。
「――よし、頑張ろう! みんな、命は一つしかないんだからね! 大切に使えば、死ぬまで使えるよ!」
カルの声を合図に、ハーポ・マルクスはエッツェルたちの元へと加速した。
「分離させておいた方が戦いやすいな」
鉄心の放った衝撃波が、エッツェルを取り囲んでいたアンデッドたちを吹き飛ばした。
「今だ!」
カルの指示に合わせて、惇がデッキガンから砲撃をする。
『私は右から回り込むわ! キミたちは左から回り込んで!』
『了解』
ジョンはフリューネの飛空挺と無線で連絡を取り合いながら、アンデッドを挟み撃ちにする。
双方からの攻撃にペガサスライダーたちは吹き飛ばされる。中には身体が砕けていくものもいた。
ティーはそんなペガサスたちの姿から痛ましそうに目を反らす。
「もし生きているのなら、目を覚まして――!!」
ティーの声に呼応するように、レガートが天高く飛翔する。
レガート目掛けて襲いかかるアンデッド、しかし突如レガートの背後から生き残りのワイバーンに乗った空賊が二人、ティーを襲った。
「こんな状況になってまで……!」
ティーがスビアドラゴンを構えるより早く、レガートが恫喝するように嘶いた。
それは、本当に恫喝の意を込めた声だったのかもしれない。あるいは、説得だったのかもしれない。
レガートの嘶きを聞いた一体のワイバーンは、空賊の指示にも従わずに向きを180度変えてエッツェルを正面に見据えた。
そして、炎を吐きながらエッツェルめがけて突進していった。
――止める間もなく、そのワイバーンの口にエッツェルの左腕が食らいついた。ワイバーンの顔を、首を、巨大な左腕が少しずつ飲み込んでいく。
ワイバーンの背に乗っていた空賊は悲鳴もあげられず、ワイバーンの背をずりずりと少しずつ下がっていく。
が、エッツェルの胸や腹から伸びた触手が賊の身体を縛り付け――見る間に、ワイバーンもろとも掌の中へと引きずり込まれていった。
もう一体のワイバーンはレガートに対して吼えると、脇目も振らず戦線を離れていく。
「……一人だけでも、助けられましたね」
ティーはぽんぽんと優しくレガートの首を撫でた。
エッツェルはワイバーンの頭部まで飲み込んだ時、自身に近付いて来る鉄心を目に留め――鉄心の背後に静止しているサラダとイコナを視界に収めた。
一旦ワイバーンを飲み込むのを止めたエッツェルの歪な肋骨が、身体中の触手が、鉄心とイコナに向けて放たれた。
首を失ったワイバーンは、雲海の底と落ちて行く。
「イコナ、下がれ!」
イコナを襲ったエッツェルの触手を、鉄心が大気中の水分を凝結させて作り出した氷の壁が受け止める。
しかし、鉄心自身はエッツェルの触手によって、全方位から取り囲まれた。
間に合わないかもしれない。そう思いながらも、イコナは今まさに鉄心に食らいつこうとする異形の左腕へと完全回復を掛けた。
声にならない叫びのようなものが、大気を揺るがした。
触手の動きが止まった一瞬の隙をつき、飛翔したスレイプニル。
振り向きざまに鉄心の放った重力波がエッツェルを捉え、拘束するように締め付けた。
『今だ、接舷を!!』
無線から響くカルの声を合図に、フリューネたちの乗った飛空挺は要塞の外壁へ接近した。
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