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第五章 隠された真実を明かせ!


 村の近くを飛び回る数十人のペガサスライダー。その中の一人が撃ち落とされる。
 続いてまた一人。そしてまた一人。
 村の屋根の上にしゃがみこみ、機晶スナイパーライフルでペガサスライダーを狙うのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。
「応援に駆け付けたはいいけれど、切りがないであります」
「村ごと取り囲まれているわね……どうにか打開したいところだわ」
 その隣でパンドラガンを構えるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、敵を狙いつつも周囲を警戒している。
 コルセアの言葉を聞きながら、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)は六連ミサイルポッドでペガサスを撃ち落とした。
 吹雪も同じく、またライフルでペガサスを狙う。
 わざとおびき寄せた一、二陣以降、村の中にはほとんど敵の侵入を許してはいないが、もうそろそろ防衛をしている人たちは皆疲弊してきている。
 そんな中、また一艘の大型飛空艇が村に向かって来ていた。
「……倒すしかないであります!」
 吹雪たちは少しでも敵を減らそうと、またペガサスを狙い撃ち始めた。


 その頃、村長の家の応接間には負傷した村人たちが集められ、手当を受けていた。
「はい、もうこれで大丈夫だよ」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は優しく微笑んで、腕を負傷した村人にヒールをかける。
 ローズは怪我人の救助に当たってだいぶ時間が立っていたが、疲れを見せて村人たちを不安にさせないよう、笑顔を絶やさずにいた。
 パートナーの斑目 カンナ(まだらめ・かんな)もその隣で黙ったまま、他の村人の脚に手際良く包帯を巻いていく。
「医学の知識があるカンナもついてきてくれたし、心強いよ」
 ローズはカンナににっこりと笑いかける。
 ――しかし、カンナは思い詰めたような表情で、包帯を巻き過ぎていることにも気付いていないらしい。
「どうしたの? ……カンナ?」
「え? ――何でもない」
 そう答えて、巻き過ぎた包帯を巻き取るカンナ。カンナの不自然な態度に、ローズは首を捻る。

「敵が村に入り込んだぞ!!」
 村長の家の二階から、誰かが叫んだ。と同時に、カンナが村長の家を飛び出した。
「カンナ!」
 ローズの声が聞こえていないのか、カンナは扉を閉めると、
「……未来は変えられる」
 と、誰にともなく呟く。カンナの視線の先には、空賊が上空から次々と飛び降りてくる光景が広がっていた。
「ああああああああああああああああっ!!!!!」
 カンナの叫びが賊をひるませる。怯まずに近付いてくる空賊を蹴り倒し、カンナは次の空賊へと攻撃をしかけた。
 ドアから飛び出したローズは、空賊目掛けて神威の矢を放つ。
 矢はカンナを斬りつけようとする賊の腕を貫いた。
 その賊の腹にカンナは蹴りをいれる。しかし、敵は後から後から湧いてくる。
「空峡にいる仲間にも連絡を取ろう。――とにかく、中へ」
 ローズはカンナを素早く部屋の中に導いた。
「村長に報告を……、あれ、村長は――?」


 その頃村長の家の地下、隠し倉庫にて。
「……本当のことを話してほしいの」
 リュイシラの母の髪留めを前に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は言葉を紡いだ。
 村長は黙ったまま、じっと髪留めを見つめている。
「嵐の夜に、獣人の男からリュイシラの話を聞いた母を案じていたことも、知っている。何故、そんなあなたが空賊たちにこれほど恨まれているの?
 何十年も先から現在に時間を遡ることができたとして、あの空賊は、おじいちゃん世代の人の仇を取るために命を懸けて過去に来ているってことでしょ?」
 ルカの質問を、夏侯 淵(かこう・えん)は隣で黙って聞いている。
「――わしには分からぬ」
「本当のことを話すがよい。俺には、お前の言葉が嘘か真か見抜くことができる」
 村長の言葉を嘘感知していた淵が、すかさず口を挟んだ。村長はまた、黙り込む。
「わしが空賊に恨まれるようなことをしたとすれば、恐らくこの一点じゃ。
 これ以上、何を隠しても仕方ないじゃろう……」
 村長はそう前置きをして、話し始めた。
「リュイシラの母は、リュイシラの実の父と共に殺された。実の父の住む村の獣人たちにじゃ。
 彼らはリュイシラを村から追放して捨てておきながら、真実を知ったリュイシラが復讐に来るのを恐れたのじゃろうと、わしは考えておる」
「――嘘ではない、か」
 淵は小さく零し、唇を噛んだ。
「当時のわしは、リュイシラがいつ暴走するか分からないという不安と、獣人たちがいつ村を襲うか分からないという恐怖に苛まれておった。
 実際、村人たちから『獣による農作物の被害で、冬が越せるか分からない』という報告も、少なくなくての。
 村人たちに真実を話すべきか、だが話したことがリュイシラに伝わって村を危険に晒したら――と、悩み抜いたのじゃが……」
 言葉に詰まった村長に、ルカはだまって先を促す。
「――悩み抜いた末、わしは秘密裏に空賊と通じた。村の近くからどうにか獣人たちを追い払ってもらえないかと依頼したんじゃ。
 ……じゃが、空賊は獣人を追い払うのではなく、獣人の村を焼き討ちにしてしまった。
 空賊に頼んだのが浅はかであった。話が違うと食ってかかったが、全ては過ぎ去ってしまったことじゃ……」
「その空賊が、今この村を襲ってきている空賊だと考えているわけね?」
「――獣人の村を襲った時に、リュイシラの話を聞いたのではないかと考えておる。
 わしが村人たちに、リュイシラの正体を話せずにいるのをいいことに、今回のような行動にでたのじゃろう、と……」
 村長はそこまで言って、おもむろに椅子から腰を浮かした。
「わしは村を守るために戦わねばならぬ。自棄になって村を投げ出すわけにはいかないのじゃ。
 わしが招いたことは、わしがどうにかせねばあるまい……」

「――村長は、嘘をついておらぬ」
 村長が倉庫を出て行ってから、淵が口を開いた。
「不自然な点がある」
 黙って全ての話を聞いていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、すかさず言葉を紡いだ。
「何故この村や獣人の村の出来事が、周囲の人々に広まっていないのかということだ。
 村人たちは何かを隠している様子もないが、まずこのような狭い社会ならば、隠したいことも隠し通せるものではないだろう」
「言われてみれば、そうね……」
 ルカが難し気に唸る。
「特に、乳児とはいえリュイシラの交換を村人が不信に思うこともなく、ボロが出なかったというのは不自然だ。
 一番おかしいのは、父親でさえもリュイシラの交換に気付いていないこと……」
 そこまで言って、ダリルは言葉を切った。
「ここにリュイシラの正体の謎があるように、俺は思う。
 リュイシラが何の動物に変身する獣人なのか、何故抽象的に『呪われた子』などと呼ばれていたのか――」
 淵もルカと同じように、悩み込んだ様子で腕を組む。
「リュイシラの正体は、ほとんど想像空想の域を出ないがな。――もう一つ、俺が疑問に思ったことがある」
「どのようなことだ」
「空賊がリュイシラが危険だと知りながらリュイシラを捕まえたこと。リュイシラを捕まえているにも関わらず『今日、この村が滅びる』と空賊が主張していることだ」
「確かに……リュイシラが村を滅ぼしたと言っているくせに、村が滅びることは確定しているような口ぶりだったわね」
「リュイシラが村を攻撃することができず、この村を襲う空賊たちも村の滅亡に無関係だとするなら――この後、村は何かに襲われるのではないかと」

「ツァンダ東の森方面から敵襲!」
 隠し倉庫に通じる部屋を見張っていたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、ルカたちの元へ駆け下りてきた。
「何があったの?」
「大勢の獣人たちが、この村に向かって押し寄せているらしい。……以前、襲われた復讐だと言ってな」
「ってことは、リュイシラの故郷の獣人たち――?」
 カルキノスはルカたちに背を向けると、隠し倉庫の扉に手をかけた。
「敵の狙いだの、過去の真実だのはどうだっていい。子供を攫ったり、子供を迫害した奴らは、俺の敵だ」
「……獣人たちとも戦わなければならないであろうな」


 ルカたちが家を飛び出して行った後、村長の家の裏手にはローズとカンナが佇んでいた。
 二人に向き合った村長は、小さく口を開いた。
「……もし、そなたたちの仲間がリュイシラを救い出したなら、彼女をここには連れ戻さず、どこか遠くへやって下さらんか。
 今更リュイシラを獣人たちに引き渡してお互いが幸せになれるとは思わぬが、彼女が望むならそれでもよい。
 あの子の呪いをも受け入れてくれる場所が、きっとどこかにあるはずじゃ」
「村長、この村はリュイシラの故郷です。彼女がどんな生い立ちであれ、この村の住人全員で受け入れればいい」
 ローズは、首を横に振った。
「全てが終わった後で良いのじゃ……」
 しかし、村長の目はどこか遠くを見据えたまま動かなかった。