リアクション
場所:披露宴会場
ほのぼのしたりえろえろしているイベント会場を余所に、披露宴は未だ混乱の最中にあった。
「あ……きゃああああ!」
ハデスに浚われた花嫁エリザベタは、ハデスの意図を無視して暴走を始めた触手に絡みつかれていた。
「お、お嬢様!」
それを悲痛な目で見ている使用人が一人。
その人物に、羽純はそっと近づくと囁いた。
「いいのか? 今はどうする時だか、分かるかい。素直に動かないと後悔するぞ?」
「……ありがとうございますっ」
その声に押されるように、使用人は走り出す。
メイド服を翻して。
「お嬢様ぁあっ!」
彼女に伸びる触手を、カードが床に縫い付ける。
投げたのは、エース。
「幸せになろうとする女性の邪魔は、させない」
カードのせいで締め付ける力が緩み、落ちるエリザベタを使用人は受け止める。
「エリザベタ様!」
「モニカ……」
お姫様抱っこをされたまま、モニカと呼んだ使用人に抱き着くエリザベタ。
「モニカ……好きです、大好き、愛しています!」
その告白は、薬のせいだけではなかった。
樹の助言が、ルカルカとリリアの言葉が、エリザベタを後押しする。
「私も……私も、エリザベタ様を愛しています!」
「えーと、これを」
樹がそっとエリザベタに何かを手渡した。
もくもくもくもくぅ〜。
あっとゆうまに周囲に広がる、煙幕ファンデーション。
ちゃちゃちゃちゃちゃちゃら〜ん。
るるるるるるるぅ〜。
同時に響き渡る低いギターの音と歌声は、羽純と歌奈のもの。
「仕上げは、これっ!」
ルカルカが投げたものを、受け止める花嫁。
花束。
それは、新しい彼女たちのブーケ。
「ありがとうございます、皆様。お父様、お母様……ごめんなさい! 私、幸せになります!」
「感謝いたします。そして旦那様、奥さま……すみません!」
煙に紛れ、愛する二人は走っていく。
ヴァージンロードに背を向けて、駆落ちという、新しい道を。
「よかった……これで、良かったのよね」
ルカルカはムティルの方に目を向ける。
と……
「大丈夫だったか?」
「は、はい……」
「なら良かった。先程のお前も、可愛かったがな……」
「そんな……」
ムティルは触手に襲われた丙を助け、薬の効果かそのまま口説いていた。
「えーと、ムティル様」
「ムティル」
注意しようとした北都とモーベットを見て、ムティルは胸元から眼鏡を取り出した。
そしてモーベットにかけて。
「……あの時のお前も、悪く、なかった。たまには、あの顔も……」
眼鏡に、ムティルの指先が伸びる。
それが触れる寸前。
「兄さん!」
アーヴィンとクリストファーに連れられたムシミスが会場に現れた。
「結婚式は、花嫁が逃げて破局だそうですね」
「ムシミス……」
混乱に似つかわしくない幸せそうな笑顔でムティルに駆け寄る。
「ムシミス……お前も、愛してる」
「……も?」
笑顔のまま、ムシミスは何かを取り出した。
がちゃり。
ムティルの手に嵌ったのは手錠だった。
「おい、ムシミス……」
「愛しています、兄さん。もう、誰にも渡したくありません」
「いや、だからお前はもうちょっと視野を広く」
「兄さんさえいれば、何も要りません。だから兄さん。もう二度と結婚なんて言い出さないよう、全身によーく言い聞かせてあげますね」
そのまま手錠を引くムシミスと、アーヴィンの目が合った。
「ありがとうございます、アーヴィンさん。あなた方の助言のおかげです」
「……気にするな。友人を助けるのは当然のことだ」
(そう、友人として……)
視線を逸らさず、なんとか笑顔を作るアーヴィン。
(友人ならば、このままこの少年を放ってはおけない)
だから、彼はムシミスの友人で有り続けようと思う。
「アーヴィンさんに教えてもらったんですよ。いずれ、可能になるって。だから、ね」
歪んだ笑顔の、『友人』は宣言する。
クリストファーや北都らムティルの友人知人、花嫁関係者らが居並ぶ式場の真ん中で。
「僕の子供を産んでくださいね、兄さん」
初めての方ははじめまして、もしくはこんにちは。
「ジャウ家の婚姻」を執筆させていただきました、どうしてこうなった……な、こみか、と申します。
ジャウ家とその関係者の結婚式、そしてブライダルイベントにご参加いただきまして、どうもありがとうございました。
えーと、式は無事破局したのですが、病んでる子を放置してたら大きく育ってしまいました。
花嫁たちは無事幸せな険しい道に一歩踏み出しました。
ムシミスの病みに関わる人がほぼいなかったのでこんな形になりました。
全くの予想外の展開で、このシナリオが終わったらこうとかああとか使おうかと思っていたのが全部作り直しになってしまいそれはそれでアクションの結果による面白さだなぁと結果を噛みしめております。
意外な展開を導き出してくださった方々に感謝しきりです。
また、ブライダルイベントでは幸せな方々を描写でき、これまた楽しくて癒されました。
参加された皆様に、リアクションを少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
そして、機会がありましたら、また次のジャウ家にまつわるお話(が、あれば……)、もしくはその他のお話など、どこかでまた、お会いできることがありましたらとても嬉しいです。