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ジャウ家の婚姻

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ジャウ家の婚姻

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幕間

「ムシミス……」
 ムティルは広い式場内を弟を探して歩いていた。
「ジャウ家のムティル様ですね」
 そこに、声をかけてきた人物がいた。
 ジャウ家より式に招待されていた、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)だった。
「この度は、ご招待感謝する。謹んでお祝い申し上げる。本来なら、弟たちも共に挨拶に来るべきだったが体が弱っているのでね。私だけで失礼する」
「ああ。いや、丁寧な挨拶感謝する。ゆっくりと楽しんでいってくれ」
 ベルテハイトの洗練された丁寧な礼に、礼で答えるムティル。
 雑談し、ベルテハイトが去る頃には既に戻らなければいけない時間になっていた。
 やれやれとため息をひとつ。
(仕方ない。また後で話をするか……全くあいつにも困ったものだ)

(わ、すごい、あの人本物の王子様みたいだ……)
 ブライダルイベントに来ていた嘉神 春(かこう・はる)は、花婿の衣装を纏ったムティルの姿に目を留めた。
 毛一つの乱れなく整えられた衣装は、彼が本日の結婚式の主役の一人だということを如実に物語っている。
 余程じっと見ていたのだろう、視線に気づいたムティルが春の方を見て微笑んだ。
「あ、こんにち、わ……」
「……式の参列者か?」
 すいと音もなく自分の側に歩み寄るムティルに、春は思わず赤面する。
「う、ううん。ブライダル、イベントの方に……」
「名前は?」
「は、春……」
 ムティルは春の額にかかる薄茶色の髪に指を絡ませる。
「なかなか、幸せ者だな」
「え?」
「お前のような可愛い子とブライダルイベントに行ける奴はな」
「え、ええ……」
 褒められた?
 ボク今可愛いって褒められた?
 ぼうっと頭に血が昇る。
 そんな春の頬にムティルはそっと触れる。
「じゃあな」
 一瞬の指の感触だけ残し、ムティルは去って行った。
「あ……」
 頬を押え、ムティルを見送る春。
 そんな春に、燃えるような視線を送っている人物がいた。
(……春は、あんなのがいいんですか? あんなののどこがいいんですか?)
 嫉妬の炎に身を焦がす、神宮司 浚(じんぐうじ・ざら)だった。

   ◇◇◇

「だーかーらっ、許可は取ったと言っておるだろう!」
「いくら何でもこんな怪しげなモノ搬入できる筈ないだろ!」
 式場裏口。
 押し問答しているのは、警備員の笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)と、怪しげなモノを持ち込もうとしていたドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
 ハデスが持ち込もうとしているモノ、それはハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)
 1メートル程の本体に緑色の触手が多数生えたものだった。
 その触手の1本1本がうにょうにょと蠢いている。
「これのどこが怪しいというのだ!」
「これのどこが怪しくないっていうの!」
 価値観の違いとは恐ろしいものだ。
 話し合いは平行線。
 そこに、声をかけた人物がいた。
「本当です。僕が許可したんです」
「君は……?」
「花婿の、親族です。その、式に必要な道具なので……」
 堂々とした態度の人物に、一瞬納得しそうになる。が。
「それでも、何だか分からないモノを入れるわけには……」
「見れば分かるだろう! これは、その……クリスマスツリーだ!」
「早くない!?」
 それ以前に見て分かるのか。
 紅鵡が驚いている間に、ハデスはさっさと発明品を搬入する。
「あ、ちょっと待って……!」
 紅鵡は慌てて追いかけた。