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屍の上の正義

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屍の上の正義

リアクション

「9時の方向に生身で戦ってるやつがいる。巻き込むなよ。」
「無論だ。これ以上の犠牲などだしはしない!」
 漆黒にペイントされた高速イコン機シュペーアの飛行形態に搭乗しているのは、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)
 二人の身からでるもの、それは怒気。
「3時方向に密集してるやつらがいる。旋回してレーザーを叩き込め。」
「了解! 殲滅する!」
 アビリティ『ダメージ上昇』と『急所狙い』を併用し、小型スポーンの群れ方面に旋回後『ツインレーザーライフル』を放つ。
「殲滅確認、次は真後ろに反応アリ。」
「機体に無茶をさせる! 捕まっていろ!」
 先ほどの旋回よりも急な角度で180度回りこみ、またしても群れをなしているスポーンへと狙いを定める。
「そっちには生身の奴等がいる。 レーザーは使うな」
「攻撃方法変更、『機龍の爪』でいく!」
「『不屈の闘志』は展開済みだ。特攻しろ。今回ばかりはお前の無茶も許す。」
 彼らは怒っていた。このイレイザー・スポーンのやった行い。発展途上だった街を潰したことを。
 あそこには彼らの顔見知りもいた。更にイレイザー・スポーンは壊すだけでは飽き足らず、街の人々が作り上げたものに憑依し、また別の街を破壊しようとしている。
 それが、彼らには我慢ならないのだ。
「レリウス……機体ぶっ壊す気で行け。どんな無茶でもサポートしてやる」
「言われずともそのつもりだ。……全て殲滅する。貴様らなど、塵一つ残さん!」
 最早近接攻撃ではなく、その身に滾らせた怒気を体当たりにして直接叩きつけるかのような攻撃。シュペーアが揺れる。
 それでもすぐさまその場から離脱。二人の目には既に次のスポーンしか見えていない。
「次、中型。12時方向に突っ立てる。レーザーとミサイルの後」
「『機龍の爪』で止めを刺す!」
「……その答えで満点だっ!」
 イレイザー・スポーンには今の彼らを捉えることも、抑えることもできなかった。
 空を飛び回る漆黒のシュペーアに、何もできないイレイザー・スポーンの姿は、蛇に睨まれた蛙の姿を髣髴とさせた。

「勇平、6時の方向にいる敵より攻撃モーションを確認。前方のスポーンを排除したのち、回避行動に移ってください」
「わかった!」
 白銀の騎士を思わせる姿のイコンバルムングにて猛威を振るうのは、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)及びセイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)
 現在、彼らは他のイコン機よりも前に出ていた。いや、突出していた、と言うべきか。
「前方の敵、こいつだな! はあっ!」
 『ダブルビームサーベル』で前方にいた敵を排除、そのまま後ろに下がろうとする。
 しかし機体ががくつく。
「後方に小型スポーンに取り付かれました。急いで振り払い迎撃を」
「くっそっ!」
 取り込まれる寸前、小型スポーンを振り払った後『高初速滑腔砲』で迎撃する勇平。
「後退しましょう。突出しすぎています」
(……くそっ! 今日はどうしたっていうんだ!)
 心の中で勇平は葛藤していた。自身から沸いてくる、焦燥感と苛立ちに。
 機体のコンディションは良い。セイファーの精神状態も良好。何一つ問題はないはず。
 だがここぞというとき、機体の操作に僅かながらの違和感を感じる。そして戦闘を通じて気づいた。
 自分が、バルムングの性能を生かしきれていないということに。セイファーの指示、提案に追いつけていないことが更に勇平を追い詰める。
「……勇平」
「っ!」
「後退です。取り込まれることだけは避けなければいけません」
「……わかった」
 焦燥感と苛立ちはなくならないまま後退を開始。だが、その隙を見てか見まいか、一体の中型スポーンが突如として現れる。
 そんな勇平を顔には出さずに心配していたセイファーも、この急襲に意表をつかれる形になる。
「地中から中型スポーンの出現を確認っ。回避行動を、勇平っ!」
 冷静沈着なセイファーが叫ぶ。
(……こんな時、どうする?)
 いきなり現れた敵。セイファーも動揺する状況。そんな時自分はどうするのか?
 何もしないままただやられるのか? セイファーの指示をただ待っているだけなのか?
「……そうじゃ、ないだろっ!」
 あろうことか、敵に向かっていく勇平。しかしそれは捨て身でも何でもない。彼が決めた、バルムングの扱い方。
 スポーンの攻撃により、バルムングの右腕部が宙を舞う。だが、勇平は止まらない。
「はあああっ!!」
 残った左腕部で『スフィーダソード』を取り、中型スポーンの体に突きたてる。そのまま天へ目掛けて剣を振りぬき、中型スポーンを撃破することに成功する。
「ちゅ、中型スポーンの反応消滅っ。今のうちに後退を」
「……ああ」
「まったく……無茶をします。ですが、いい判断でした」
 セイファーからのほめ言葉。
 勇平は確かに感じていた。戦場の中で自分が成長する、そのきっかけを。

「こっちは順調なのに、あっちはそれ以上の物量で攻めてくる。いやはや……」
「亮一さん、各イコン機のおかげで土佐の周りにイレイザー・スポーンの反応はありません」
「なら、いけそうだね。準備開始だ」
 宇宙から見た地球を思わせるカラーリングの大型機動要塞土佐が戦線よりやや下がった位置にいた。
 搭乗者である湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)が慌しく準備を開始。
「こいつは、まだまだすごい数だな」
「管制機より連絡。魂剛機及びバロウズ機が2時方向から接近してきていた大型スポーンを撃破。
 現在12時方向から来る大型スポーンに向かっているが、時間がかかるため、本艦に迎撃要請が来ています」
「了解、迎撃すると伝えて」
「はい」
 梓が管制機に連絡している間に、亮一が最終的な準備を始める。
「有効射程内に入るまでそう時間は掛からない、味方機影は現状なし。敵は少数いるが、『要塞砲』でこと足りるだろう」
「管制機に通達完了しました。……大型スポーンを目視で確認。かなりでかいです!」
 二人の目に映ったのは今日確認した中で一番大きな個体のイレイザー・スポーンだった。四肢があるように見えるが、歪すぎて形容が難しい。
「当てやすそうだね。さあ、大詰めだ。照準の誤差修正、発射後のデータを記録できるようにデータベースにも接続しておいて」
「誤差修正、完了。データベースに接続、異常なし。発射準備完了しました」
 全ての準備が整う。目標はゆっくりと進行してくる異型の大型スポーン。
「全機へ通達後、発射するよ」
「各イコン機へ。こちらは土佐、これより前方からくる大型スポーンに対して30秒後に『艦載用大型荷電粒子砲』による攻撃を行います。速やかに退避をお願いします!」
 既に射線上に味方機はおらず、大型スポーンと土佐がにらみ合う形。
 徐々に土佐の周りの大気が揺れ始める。そして発射まで残り数十秒。
「土佐の周りに味方機がいないことを確認。いけます!」
「なら、やっちゃおう」
「荷電粒子砲、発射!」
 貯められたエネルギーが一点に集められ、放たれる。極大な一本の光の矢が向かう先は大型スポーンの中心。
 着弾と同時に凄まじい風が巻き起こった後、爆発が大型スポーンを包み込む。
 その威力たるや強力無比。長距離射程からの有無を言わさない攻撃。着弾地点に、大型スポーンの姿はもうなかった。
「……大型スポーンの反応消滅しました。代わりに小型スポーンの反応が僅かに増加」
「倒しきれなかった、ということだね」
「誤差が修正されきっていなかったようです」
「照準精度はあげているんだけど、まあテスト段階としては上々の結果だね」
「管制機より連絡。大型スポーンの消滅を管制機からも確認。魂剛機、バロウズ機も戦線へ復帰したとのこと。以後は他のイコン機と連携を頼むとのことです」
「そうだね。まだ何か出てくるかもしれないし、荷電粒子砲分のエネルギーは温存して連携を取ろう」
「了解しました」
 圧倒的な射程と破壊力の前に大型スポーンは消えてなくなり、亮一たちも他のイコンと連携し戦線を維持するのだった。
 ここまで各契約者たちは八面六臂の大活躍だがイレイザー・スポーンの数はそれを凌駕し、防衛ラインだけでは抑えきることができなくなっていた。
 それをカバーするべく、他の契約者たちが動き出す。