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屍の上の正義

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屍の上の正義

リアクション

『こちらホークアイ。各員へ通達。防衛ラインを突破し始めたイレイザー・スポーンを確認。各自警戒を強めてくれ』
 ホークアイからの通信に、真っ先に動いたイコン。
 「中継基地」と防衛ラインの中間地点にそびえ立つ浮遊要塞HMS・テメレーア。中間地点にて補給などを受け持つ仮の拠点として活躍していた。
「各イコン機の補給が完了次第、防衛ラインを抜けてきたイレイザー・スポーンの迎撃を行う。テメレーア、攻撃準備を始め」
「各イコン機が迎撃を開始する前に、こちらで先頭に立っているイレイザー・スポンを掃討するわ」
「大型型のイレイザー・スポーンは?」
「現状姿を確認できないわね。それだけ防衛ラインが頑張っているようだわ」
 抜けてきたイレイザー・スポーンの先頭を叩くのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)の二人だ。
 二人は簡易的な補給を受け持つ拠点的な役割と、損傷が激しいイコン機があった場合に「中継基地」にある【イコン格納庫】に退ける二つの役割を担っていた。
 そこへ防衛ラインを超えてきたイレイザー・スポーンが来たため、先制打を撃つことになったのだ。
「……来た。一群が11時の方向から接近中」
 『ホークアイ』により高めた視力により、肉眼で敵を確認するローザマリア。その敵の行動を『行動予測』を使い大まかな進路を予測する。
「このまま進行してくると思われるわ。小細工無用、叩くのには丁度いい相手ね」
「よし。【魔道レーダー】とテメレーアの機械系レーダーセンサーを併用し、正確な位置を算出しつつ誤差を修正」
「了解。……位置算出完了、誤差修正異常なし」
「射線上に味方イコン機の機影は?」
「ないわ。テメレーアの砲撃はいつでもいける」
 それまでコンソールに向いていたローザマリアがホレーショへと向き直る。
 ホレーショはうなずき、砲撃の合図をとる。
「これより先に通すわけにはいかん。……テメレーア、オープン・ファイアリング!」
 テメレーアによる射撃が開始される。先行していた小型スポーンの群れは瞬く間に塵となる。
「一群の消滅を確認。次、2時の方向から敵の反応あり。さっきの個体よりもでかいのが数体。……いえ、多方面から敵が接近中。前方から抜けてきている模様」
「テメレーアは2時方向から来る一群の排除をする。後に他イコンとの連携、補給を継続して行い、この第2防衛ラインを維持」
「了解、管制機へ連絡するわ」
 矢継ぎ早、リアルタイムに決められていく作戦。二人に迷いはなかった。

「やはりきたわね。でもここから先は通さないわ」
「防衛ラインを突破されている以上、時間はあまりないわ。攻撃を開始しましょう」
 人型の女性を思わせるイコン機アウクトール・ブラキウムに搭乗している、キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)
「砲撃形態に移行するわ」
 アウクトールが砲撃形態のジェイセルに変形。遠距離から突破され、「中継基地」へ向かっているイレイザー・スポーンを迎撃するためだ。
「よし。こちらアウクトール、鉄心さんに貴仁さん、聞こえてる?」
『ああ、聞こえてるよ』
『こっちも聞こえてます』
「私たち3機は連携しながら防衛ラインを突破した敵を倒した後、防衛ラインの脆弱になってる箇所のいわゆる穴埋めをしようと思うわ」
『異論はないよ。俺は細かいやつらを処理するから』
『俺の方でも細かいのを倒しつつ、近づいてきたやつは斬り捨てます』
「私たちは砲撃で一気に敵の数を減らすわ。まあ、やるのはジェニファーだけどね」
「お二人とも、よろしくお願いするわね」
「さて作戦会議はこれにておしまい。あの大きいイコンだけに頑張らせるのは悪いものね! 通信はこのままで!」
 そう言ってアウクトールが発進、見通しがよい中央地帯から更に前に出て早期に先行してくるイレイザー・スポーンを撃破しようという構えだ。
 キャロラインに続いて、鉄心と貴仁も動く。
 目指していた位置に到達後、すばやくレーダーで索敵を開始する3機。
「うじゃうじゃいるわね……一番速いのが右端のヤツね」
『左端のが次かな』
『中央からのは数が多いけど足はそんなにですね』
「ならまずは右端を潰さないとね。左端のは鉄心さんが、中央の方は貴仁さんで一時的に牽制をお願い。少しでも数が減らし、足が止められればいいわ」
『了解、一旦離れるよ』
『俺も離れますが、すぐに援護に迎える位置にいますから何かあったら言ってください』
 二人が各自に割り振られた敵を牽制するために散開する。
「行動パターンがあるのか、そう思ったけれど。猪のように前へ前へ、あんまり参考にならないわね」
「後方に下がってきた機体と共闘できればもう少し楽だけど、あのラインから離れれば防衛拠点にあるものまで飲み込まれるちゃうし。なんとか私たちだけで抑えないと」
「とにかく、砲撃準備できてるわ」
「ちょっと待って、あいつらの進行速度を計算してっと……オーケー。ここに撃ちこんで」
 指定された場所に何の迷いもなく『ヴリトラ砲』を発射。その着弾地点に小型のスポーンの群れが滑り込むかのよう進行、見事に攻撃が当たり爆散する。
「ジャストミートね! 綺麗さっぱり、相手の消滅を確認。次は左端ね!」
「『ヴリトラ砲』の再発射まで時間がかかるから、『ウィッチクラフトキャノン』を使用するわ」
「了解、その旨鉄心さんに連絡するね。その前に、貴仁さん! そっちはまだ平気?」
『足は遅いからまだ持ちます、そのまま左端の迎撃をお願いします!』
「っていうわけで鉄心さん。撃ち漏らした敵はよろしくね!」

「了解。ティー、聞いたとおりだ。今からシャロンさんから砲撃支援がくる。俺たちはその撃ち漏らしの処理をする」
『わかりました』
 数多の悪魔の中でも屈指の強さを誇る元主天使の名を冠したイコンマルコキアスに搭乗している源 鉄心(みなもと・てっしん)の『テレパシー』による問いかけに、答えるティー・ティー(てぃー・てぃー)
「無理は禁物。戦力が一つ減れば他の人への負担が大きくなる。危なくなったら後退して構わないから」
『はい』
「よし。それじゃあいつらは足が速そうだから、早めに潰さないと。イコナ、捕まっててね」
「は、はいっ」
 マルコキアスに同乗していたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に注意を呼びかける鉄心。
「それじゃ行こうか」
 キャロラインの砲撃準備が完了するまでの足止めを開始する鉄心。
 それに呼応するかのようにティーも動き出す。
 かなり足の速いイレイザー・スポーンにも負けず、前面に回りこんだ鉄心は『ツインレーザーライフル』を用いて攻撃兼牽制を開始。
 相手の動きを読み、更には自機の移動による揺れなども計算し正確に小型スポーンを射抜いていく。

「人間に寄生したスポーンはいなさそうですね……よかった」
 【銃型HC弐式・N】を使って最終確認を行うティー。
『ティー、飛行・小型のスポーンがいるみたい。こうも動いてちゃさすがに当てられない。そっちで対処をお願いしたい』
「はい、わかりました」
『どうやらマルコキアスの周りを飛び回ってるみたいだ。イコナがそういってる』
「……あれですね」
 【レガート】にまたがったティーが飛行・小型のスポーンを発見。かなり動きがすばやく、イコンで狙うのは至難の業だ。
「ぷちどらさん、力を貸してください」
 【ぷちどらアヴァターラ・ボウ】に【ぷちどらアヴァターラ・スコープ】をつけて、狙いを定める。
 動き回る小型スポーンだったが、一瞬だけを動きを止める。その瞬間をティーは見逃さずに、矢を放つ。見事に矢は小型スポーンを撃ち貫いた。
「なんとか、なりましたね……」

『飛行・小型のスポーンを倒しました。イコナちゃんにも、位置を教えてくれてありがとうと伝えておいてください』
「だそうだ、イコナ」
「こ、怖くない怖くない……! 大丈夫、大丈夫……」
「……あ、そうだ。イコナ、佐野さんから取り込まれた街で何が作られていたかの資料、届いたよ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、それを元に何か気づいたことがあったら言ってくれ。他のイコンや佐野さんにも伝えておくから」
「わ、わかりましたですわ! 頑張りますわ!」
 先ほど感じていた恐怖も忘れて、資料の解析に入ったイコナ。
『お待たせ! 砲撃準備が完了したから一旦引いて! 10秒後には発射するよ!』
「了解。ティー、後退だ」
『はい』
 後退する鉄心。その数秒後には自分がいた地点近くで盛大な爆発が巻き起こる。
 残った小型スポーンを的確に排除する鉄心。危なげなく左端の一団も排除することに成功した。
「さて、そっちはどうかな? 貴仁さん」

「足は遅いんですけど数が多すぎて、一人じゃ処理しきれませんね」
『俺たちも今から合流する。それまでは持ちこたえてくれ』
「わかりました」
 鮮やかな色合いが特徴かつ補給もこなせるイコンゲシュヴィントヒルフェの武装である、
 『レーザーマシンガン』で引き撃ちをしながら敵の数を減らしているのは鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)の二人だ。
「そうだ。シャロンさん、鉄心さん、エネルギーか弾薬切れそうなら言ってください。補給するので」
『こっちは問題ない』
「私たちの方もまだいけるわ」
「了解です。白羽、相手の特性はわかりました?」
「んー主に鉄骨とか、建築材料を取り込んだみたい。足は遅いけどちょっと硬いかも」
「ああ、道理で」
「あとさ、殺気看破とかずっと使ってると疲れると思うんだ。だから使える人手ローテーションしてもいいって思うんだけど」
「成る程、あとで提案してみましょうか。ともかく今は相手を削るのが先決ですね」
 喋りながらも引き撃ちでバラけようとするイレイザー・スポーンを重点的に排除していく。
 バラけてしまうと、キャロラインの砲撃でまとめて倒せない可能性が高まるためだ。しばらくして、左側から援護攻撃が来る。
『遅れてすまない。合流して敵排除を支援する』
『こっちもあと少しで砲撃準備完了だよ! さあ、さくっと終わらせて防衛ラインの穴を埋めないとね!』
 ゲシュヴィントヒルフェの隣にマルコキアス、その後方にはアウクトールが構える。理想的な隊形だ。
「ボクは右側を、鉄心さんは左側をお願いします」
『了解』
 言葉も置き去りに、二人は着実にイレイザー・スポーンの数を減らしていく。
『よっし! 砲撃、いけるよ!』
「それじゃ引きましょう」
『そうしよう』
 2機がスポーンの群れから引き、アウクトールの射線が確保され、再充電された『ヴリトラ砲』が放たれる直前。

――――――――ドーンッ……。

「な、なんですか!?」
 貴仁の目の前が揺れる。貴仁だけはない、鉄心も、キャロラインも、この荒野にいるもの全ての視野が揺れた。遠くから聞こえた小さな音と共に。
『ちょっと!? こんなときに』
『砲撃、ブレるわ! 流れ弾に注意して!』
 地面の揺れの弊害をモロに喰らったアウクトールの砲撃がブレた状態で小型スポーンの群れへと向かう。
 辛くも攻撃は当たったものの敵の三分の一ほどしか倒せず、更に事態は悪化する。
「貴仁! 敵の反応が一つになりつつあるよ!」
「……合体か!」
『二人とも、後退できるかい?』
「こっちは大丈夫です!」
『アウクトールは変形しないと逃げ切れないかも……って、さっきの爆発の反動でこっちに飛んできてる!?』
 キャロラインの言うとおり、何体かのスポーンがアウクトールへと飛んでいた。
 それを見た貴仁がアウクトールへ向かってくるスポーンを『ダブルビームサーベル』で斬り落とす。その背後から来るものは鉄心が撃ち落とす。
 しかし陣形は崩れたままに、合体して大型となったスポーンがこちらに向かってきていた。