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リアクション
第10章 ウェザーの出品
「さあ、次はいよいよ本日の目玉商品!」
「雑貨屋ウェザーより、名家ゆかりの品の数々です!」
翡翠と美羽の声のテンションが一段高くなる。
ネット上での評判の結果、どんどん注目度があがり最終的にオークション一番の目玉と言われるようになったウェザーの出品物。
それらを持ったサニーたちが緊張気味に舞台に上がる。
「この値で!」
「いや、その倍で!」
「更に上乗せ!」
どんどん釣り上がる値段に、サニーは笑顔のまま固まっていた。
「まずいな」
白熱する競りを見て、ダリルは呟いた。
「これ以上値が上がっては、とても買い戻せない」
「もうジャウ家の手から離れたものだ」
どこか他人事のように、ムティルは告げる。
「――盗品です!」
オークション会場に、響き渡る声。
会場中の注目を集めたその声の主は、ムシミスだった。
「ムシミスくん」
「その商品は……その紋章は、我が家ジャウ家のものです。それが、知らない間に競売にかけられています!」
ざわ……
アーヴィンの嗜める声も聞かず主張するムシミスに、会場がざわめく。
意外な展開に青くなるサニー達。
場内で唯一この展開に笑みを浮かべているのは、ブローチを狙っていたアスカ一行。
「いや、正規品だ」
そこに、会場を鎮める低い声。
「……兄さん?」
クリストファーと共に立ち上がったのは、ムティルだった。
「ジャウ家当主が直々に、この雑貨屋に依頼したものだ。品の鑑定書もある」
「兄さんが、どうして……」
当惑するムシミスを余所に、会場のざわめきは方向性を変える。
本物だ。
正規の品だ。
当主が保障した。
「か……買うぞ!」
「いや、私はその値より高くつける!」
「私もだ!」
再び過熱し始める競りに、サニーたちはほっと胸を撫で下ろす。
「……いいの、ムティルくん? 手から離れたとか言っときながら、保障なんかしちゃって」
「売った責任もある。雑貨屋に迷惑はかけられん」
「でも、これで本当に買い戻すのは難しくなっちゃったよ」
クリストファーの囁きに、ムティルは黙って唇の端を歪めた。
「さあ、素晴らしい値段がつきました! そして次は最後の出品。ジャウ家のブローチです!」
「こちらも見事な品ですねー。いくらで落札されるか、楽しみです」
指輪と首飾りが良い値で売れ、サニー達の顔に笑顔が戻る。
しかし、油断するのはまだ早かった。
「……あれ?」
上がらない。
前2品と比べると不自然な程、ブローチの値段は動かない。
「うふふ〜。裏工作は効いているみたいね」
ほくそ笑んだのはアスカだった。
オルベールたちによって流されたブローチの悪評。
それは、ジャウ家の品であることが確定した今でも、オークションの値段に深く作用していた。
(え……ど、どうしよう。今のままじゃ赤字確実……)
(サニーさん、落ち着いて。動揺を見せないで、笑顔笑顔)
焦るサニーに、三月が耳打ちする。
なんとか笑顔を見せるが、それは引きつっていた。
「ふふふ〜。それじゃあ、余裕で落札してあげましょうかぁ」
アスカが手を挙げたその時だった。
「その値の、倍出すで」
救いの声がした。
「え……」
「倍の声がかかりました! 他に入札者はいませんか?」
「あ、だ、出すわぁ!」
「ならこっちもや」
再び競りに入る救いの声。
アスカとその声により、ブローチの値段はじりじりと上昇していく。
「うぅん、これ以上は……無理っ」
(……ならこの辺で止めとこか)
「見事落札したのは……芸術家の方でした!」
司会の翡翠が、アスカの落札を告げる。
アスカの手持ち、ギリギリの値段。
ホープがアスカの絵をネットオークションで売り、更にダイヤも競売にかけ。
それら全てを結集し、更にオルベールが値を下げ。
謎の声の乱入で予想以上に値上りしたものの、なんとかアスカはブローチの入手に成功した。
「ふぅ……危ないトコだったわぁ。でもウェザー的にも良い値だったし、悪くない結果だったんじゃない?」
アスカが声をかけるが、ウェザーの面子ががそちらを向くことはなかった。
(ふふん。やっぱ正規の値段で売買されるのを見るのは気持ちえぇなあ)
(……そなたには一銭の特にもならぬものじゃろ? 酔狂な……)
救いの声の軽口に、呆れた様子で笑う声。
声の主は、泰輔だった。
ブローチの価格があまりにも低いと見てとった泰輔は、こっそりサクラとして値を上げて行ったのだ。
(価値のあるモンが、不当な値で売られるのを見るんは耐えられんタチでなぁ)
「ううううう……でもやっとこれで、赤字解消! お店も売らなくていい!」
「よかったね、サニーさん」
「うん。やったぁーっ!」
解放感からか大きく万歳すると、そのまま目の前の三月に抱き付く。
「わっ」
「わ……? え、きゃああああ!?」
「え、あの……」
「お、弟と間違え……ごめんなさいいいっ!」
「あ、待って(どっかで見たような光景だ……)」
三月の制止も聞かず、サニーは顔から蒸気を上げ走り去って行った。
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