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第2章 ジャウ家の住人 ―ムティル(エロ注意)

「本当にいいんですか?」
「はい。困っている時はお互い様だよ」
「友達が困っていたら助けるのは当たり前だしね」
 ジャウ家当主の弟ムシミスは、清泉 北都(いずみ・ほくと)たちの申し出に目を輝かせた。
 北都とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)、そしてマーカス・スタイネム(まーかす・すたいねむ)らはジャウ家の使用人となることを申し出た。
 しかも、無給で。
「それはとても助かります。では、是非お願い――」
「そういう訳にはいかない」
 素直にそれを受け入れようとしたムシミスの言葉を遮った者がいた。
 ジャウ家当主、ムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)だった。
「兄さん! でも……」
「働いてもらう以上、対価は払わねばならない」
 反論しかけたムシミスを押しとどめ、美しい紫色の瞳で北都たちを見つめる。
「でも、僕らはまだ学生の身だからねぇ。執事の勉強をさせてもらってるってことで」
 それを負けじと見返す北都。
 しばし、視線が交差する。
 折れたのは、ムティルだった。
「……分かった。それでは何か不明な点があれば、いつでも他の使用人に聞いてくれ」
 くるりと背を向けると、自室に戻ろうとする。
「あ、待って……ください」
 北都はその背を慌てて追いかける。
 モーベットも無言のまま北都の後を追う。
「勉強だけでなく、ムティルさんの事が気になったから様子を見にきました」
 一瞬、ムティルは足を止めるがすぐまた歩き出す。
「ムシミスさんが自分のせいでああなったと思って責任を感じてらっしゃるのかもしれませんが……だからといって、やりたいようにさせるのは違うでしょう。前にも言いましたが、ムティルさんは言葉が足りなさすぎです」
「……そうかもしれないな」
 ムティルは自室の前に立ち、扉を開けようとする。
 一瞬早くその手を掴んだ者がいた。
 モーベットだ。
 無言のまま扉を開け、ムティルと共に部屋に踏み込む。
「おい……」
「全く、何をやっているのだ」
 文句を言いかけたムティルの唇を塞ぐ。
「恥ずかしくないのか。没落したとはいえ名家の当主が弟に軟禁されているなど」
「……っ」
 唇を離したモーベットの口調からにじみ出るのは、押えきれない怒り。
 いつもムティルが向けられる怒りとは違う種類のその感情に言葉を失ったムティルは、あっさりとモーベットに押し倒された。
「この不興は……体で鎮めてもらうしかないな」
「な、にを……っ」
 身に纏う衣服を取り去るモーベットに、ムティルの抵抗は弱く。とても弱く。

「当時を思い出せ。仕事だからといって、むやみに我が体を預けたと思うか?」
 暫くの時間の経過の後、ベッドの上でモーベットはムティルに語りかける。
「貴様が当主として何とかしようという意志を感じられたから付き合ったのだ。なのに、今は何だ」
「……何も考えてない訳ではない」
 ムティルは重い口を開けた。
 そして、モーベットに告げる。彼の決意を。
「……なるほど」
 ムティルの言葉に、モーベットは静かに頷く。
「かねてから考えていたことだ。俺はそれが最良だと思っている……どう思われようとな」
「我は執事だ。貴様がそれを望むなら、協力は惜しまない」
「協力……してくれるか」
 モーベットの裸の肩に、ムティルは顔を埋める。
 やがて顔を上げ、モーベットと唇を重ねる。
 そのまま、モーベットを押し倒す。
 先程の仕返しだとでも言うかのように。
「む……」
「当主としての意志を感じるなら、体を預けると言ったな」
「確かに」
「なら、今度は“協力”して貰おうか」
 漸く笑みを浮かべたムティルが、モーベットを見下ろす。

   ※※※

 箱岩 清治(はこいわ・せいじ)がムティルの部屋を訪れた時、部屋の主人は北都とモーベットの給仕で紅茶を飲んでいた。
「あれ……」
 予想外の光景に、思わず首を傾げる。
 てっきり部屋の中に籠りきって、他人は中に入れない物だと思っていたから。
 部屋から外に出ないので具合でも悪いのではないかと思ったが、意外にムティルの血色は良い。
 何よりも。
 どこか、自暴自棄になっていると思っていた。
 かつての、自分のように。
 しかし、目の前にいるムティルにそんな様子は見えない。
「あのね……きちんと、話し合いをした方がいいと思うよ」
 それでも、清治はムティルに伝えるべき事を忘れなかった。
「ムシミスさんとこんがらがってるのは、きちんと話し合いをしてないからでしょ」
「……そうか。やはり、皆に心配をかけているようだな」
 清治の真剣な様子を見て、ムティルは表情を曇らせる。
「そりゃ、心配もするよ」
「すまない」
 素直に謝られ、逆に困惑する。
「あの、ムティルさん、お茶のおかわり持って参りました」
 そこに更に、メイド姿の高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が入ってくる。
「それから、煩わしいかもしれませんが提言も……もっと、ご兄弟でお話し合いをされてはどうでしょう?」
 結和の言葉に、ムティルは清治と彼女を交互に見て、ふっと笑みを漏らす。
「何が可笑しい? 今はお前、男として踏ん張り時なんじゃねえのか?」
 その様子にいきり立つ占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)を、結和は慌ててまぁまぁと抑える。
「いや、すまなかった。……そうだな」
 結和と占ト大全に頭を下げると、ムティルは少し考え込む様子を見せる。
「……本当は話はせず、結果的にそうなるのを待つつもりだった。その方が、ムシミスが傷つくことはないと思ったからな。しかし……話し合いをするべきか」
「は、はい……」
「ええ……」
 ムティルの含みのある言い方に、清治と結和は頭の中に疑問符を浮かべながら、それでも首を縦に振る。
 ムティルから話を聞いたモーベットと北都は、そんな彼らを不安そうに見つめていた。