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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

リアクション


◆管制室◆

「さてと! ルカルカ殿からも頼まれたし、そろそろ防犯カメラの映像を確認するとしようかぁ」

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は大きく伸びをすると、目の前に設置されているモニターの操作盤に手を伸ばす。
 一歩後ろに下がった位置では、アキラの肩越しにセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)も覗き込んでいた。

「映像の中で、アリバイと食い違っている行動をとっている人がいないか、確認するんですよね」
「そうだねぇ。ついでに俺は、防犯カメラの映像が途切れた時間も見るつもりだぜ」
「……時間ですか?」
「うん、映像には時刻も一緒に載ってるだろうし、犯人がどんな順番でカメラを壊したのか、気になるじゃん?」

 アキラの意見はもっともだ。
 なるほど、とセレスティアは素直に納得する。
 しかし、彼女達の近場で、既に壊れている管制室の防犯カメラを調べていたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は、ある可能性を指摘した。

「アキラもセレスも、記録が残っていたとしても、あまり鵜呑みにするのは危険じゃぞ」
「え、なんでさ?」

 アキラの問いかけを受けたルシェイメアは、おもむろに【ミラージュ】を使用して自分自身の幻影を作り出した。
 それを見て、いったい何事かと驚いたセレスティアだったが、すぐにその意図を察知する。

「まさか、映像に人が映っていても、それは幻影かもしれないということでしょうか……?」
「無論それは一例に過ぎないがの。他にも魔術的な力を使って、偽装工作を行っている可能性は否定できぬぞ」

 現に───とルシェイメアは部屋全体を仰いで、

「この研究所の、あらゆる場所でサイコメトリが妨害されておったじゃろ」
「そういえば、そうだねぇ。珍しい話だけど、これも魔術をかけて妨害したのかな?」
「あるいは、それに類する何らかの力……。いずれにせよ、不可思議な力の影響は十分に警戒せねばならんぞ」

 ……そこまで言われてしまうと、防犯カメラの映像なんて全く当てにならない気もしてきた。
 頼まれている以上無視はできないが、そんなに人員を割く必要はないかもしれない。

「セレスおねーさん〜。悪いけど、映像確認のほうは任せちゃっていいかな」
「ええ、わかりました。【神の目】を使って、細部まで何度も確認しますよ! アキラさんはどうするんですか?」
「んー。俺は副所長の死体のほうを調べてくるぜ」

 というわけで、セレスティアだけが映像の確認作業に戻っていった。
 アキラの方は、先に副所長の死体を調べていたアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に近寄って声をかける。

「アリス、なんか見つけた?」
「……ナニカというほどでもないケド、副所長サンの死体に違和感はあったワヨ」

 アキラは一応一度拝んでから、アリスの指示に従って副所長の死体を見やる。
 すると示された先には、副所長の死体……の首に提げられたIDカードがあった。
 カードの表面に刻まれた役職から、このIDカードは副所長の物であることがわかる。
 ここで、アキラはピーンときてしまった。

「そうか、わかったぞ……犯人は所長しかいねぇ!」
「エ?」

 急にアキラが声をあげたので、アリスは戸惑いの眼差しを向ける。
 犯人がわかったというアキラだが、ルシェイメアは相変わらず慎重な面持ちで、

「……一応、どうしてか聞いておこうか」
「だって、この管制室のロックを解除するためには、所長か副所長のIDカードが必要だったはずだぜ。副所長のIDカードが残ってるんだから、後からこの部屋に入って犯行が可能だった人物は、所長だけだ!」

 そこまで聞いたルシェイメアは、「やれやれ」と口の中で呟いて、反論をあげる。

「捜査隊が踏み込んだ時は、管制室のロックはかかっていなかったと聞いたじゃろ。それと同じように、副所長がまだこの部屋で生きていた時、ロックをかけておらんかったのだとしたら、どうじゃ」
「───それは、…………誰にでも犯行が可能だな!」

 なんだ俺の勘違いだったかー、と調子の良さそうなアキラ。
 話が途切れてしまったので、アリスは無理やり違和感の話に戻そうと、

「これヨ、アキラ。このIDカード。妙だと思わナイ?」
「ん?」

 アリスに言われて再びIDカードを確認してみるアキラだが、これといって異常は見当たらない。
 よくある首に提げるタイプの透明のカードホルダーに、役職:副所長のIDカードが入れてあるだけだ。

「よく見てミテ。透明のカードホルダーの内側ヨ」
「……あ」

 アキラもようやく気がついた。
 透明のカードホルダーの内側に、血で擦ったような跡がかすかに残っているのだ。
 常人なら見落とすレベルのそれだが、常人ではない身体をもつアリスだからこそ気づけたのだろう。
 身長28cmの彼女にとっては、些細なものでも大きく見えるのだ。

「副所長サンは、うつ伏せで倒れていたワ。その透明のカードホルダーは彼の身体の下に隠れていたのヨ」
「ふむふむ。それで?」
「ダカラ、表面には全く血がついてイナイ。副所長サンの周りは、こんなに血溜まりになっているノニ……」

 ───なるほど。

「それなのに、なんで更に血がつきにくそうな内側が、血で汚れてるのかってことだな?」
「エエ。偶然とは思えないワ」

 言われてみれば不自然だ。
 もっとも、本当に偶然という可能性もあるが、判断がつきかねる状態ではあった。

「まぁ、覚えておいて損はしないかもな。その情報も、皆にも報告したほうが良さそうだぜ」
「エエ。それト、こっちの壁際の制御機材の下にも、不自然な物があるワヨ」
「どれどれ……? ん、なんだこれ」

 アキラは機材の下を覗き込むと、目についた紐を引っ張る。
 その紐にたぐり寄せられて現れたのは、セキュリティスイッチだった。

「副所長サンの身体に、常に所持しているハズのセキュリティスイッチが見当たらなかったのヨ」
「へぇ。それで探したら、こんなところにあったって事か。殺された時に吹っ飛んだのかね?」
「……後ろから撃たれて即死だったノニ、そんなコトってあるカシラ? カードホルダーの方は、ちゃんと着いていたワヨ」
「う〜ん」

 さて、これで管制室の捜査は、一通り完了したと見ていいだろう。
 ルシェイメアだけは魔術的な面での可能性を徹底的に潰そうと、
 今も念入りに調査を続けている(副所長の死体は本当に死んでいるのか、この副所長は本物なのかなどなど)が、
 アキラ達は一足先に集まった情報を同期する作業に取り掛かるのであった。


■獲得情報

<映像記録について> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
まず、映像記録の状態について説明しないといけません。
壊されていた防犯カメラの映像なんですが……残念ながら、管制室に集積されたデータからも消されていました。
このデータを消去するためには、管制室で機器を操作する必要があります。
ですから、犯人の誰かが管制室を一度訪れてこれを消去した事は、間違いないと思います。
でも、壊されていない防犯カメラの映像は、全て確認できましたよ。
こちらは可能な範囲で、ルカルカさん達が調べてくれたアリバイと照らし合わせてみました。
……えーと、記録ってこんな感じでいいんですよね?

<偉い人ルームの映像記録> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
事件発生時の3時間以上前から、トマスさんが事務作業をしているようでした。
最初の変化が、アメリーさんが部屋を訪ねてきた事でした。22時00分ちょうどぐらいですね。
すると、すぐにトマスさんが席を立って、アメリーさんを残して部屋から出て行きました。
アリバイと照らし合わせるなら、アメリーさんに渡す資料を取りにいったのでしょうね。
ここからが妙で……22時05分から、何故か映像が途絶えているんです。
壊れていないカメラなのに変ですよね。
途絶えた瞬間までアメリーさんは部屋に残っていましたが、トマスさんが戻ってきた様子はありませんでした。

<休憩室の映像記録> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
21時50分に、レベッカさんがやってきて夜食をとっているようでした。
多分、カップラーメンとオニギリ2個に、ペットボトルの飲み物だと思います。
その後、22時00分に、レベッカさんが出て行く様子が残っていました。
これもアリバイと照らし合わせるなら、トイレに向かったのでしょうね。
その後は誰も部屋に来た様子はないまま、やっぱり22時05分で映像が途絶えていました。

<仮眠室の映像記録> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
21時45分に、レベッカさんがやってきてロッカーから白いビニール袋を取って出て行きました。
アリバイと照らし合わせると、中身は休憩室で食べるための夜食なんだと思います。
しばらくすると、今度はトマスさんがやってきてロッカーの中を漁り始めました。
アメリーさんに渡す資料を取り出すのかな……と思ったのですが、
トマスさんは何も手にしないままロッカーを閉じて、南側の扉から出て行ったんですよ。
これって、アリバイと矛盾してますよね……?
あ、この映像も22時05分で途絶えていたのですが、
トマスさんが出て行ったほんの数秒後の事でしたので、ギリギリ矛盾を発見できたんですよ。

<その他の映像記録> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
全部、22時05分で映像が途絶えていました……。
ここまで条件が揃うと、作為的なものを感じますよね?
えっと、それ以前の映像では21時40分頃の冷蔵庫にレベッカさんが現れて、
ペットボトルを持ち出して行った事くらいしか、変わった点はありませんでした。

<カードホルダーの違和感> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
アリスさんが見つけた情報ですね。
副所長さんが首に提げている透明のカードホルダーの内側に、血で擦ったような汚れがついていたらしいです。
だからどうしたって言われると辛いのですが……状況から考えると不自然ですよね?
ちなみに副所長さんのIDカード自体は、ちゃんとカードホルダーに収められていましたよ。

<セキュリティカードの位置> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
これもアリスさんが見つけた情報ですね。
副所長さんが首に提げているはずのセキュリティスイッチが、見当たらなかったので探してみたらしいです。
そうしたら、壁際の制御機材の下なんていう、見つけにくい場所から発見されたとか……。
常に携帯が義務付けられているはずなんですけど、なんでこんな場所にあったんでしょう?

<ルシェイメアの証言> 記録者:セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
こっちはルーシェさんが指摘した事です。
サイコメトリが妨害されている件についてですが、
この一帯に何らかの不可思議な力が、犯人によってかけられたのだといいます。
ただ、魔術に詳しいルーシェさんなら、一般的な方法はすぐに見破れるはずです。
それなのに見当がつかないことから、犯人は解明していない未知の力を習得している可能性が高いとか……。
それほどの力を持っているとしたら、きっと内部犯ではなく実行犯の方をやると思います。
実行犯を追って市街地に向かった方々は、どうかお気をつけて……。