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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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◆屋外◆

 清泉 北都(いずみ・ほくと)の予想は当たっていた。

「この位置関係。まず間違いなく、建物に侵入する時に邪魔だったから殺害されたんだろうねぇ」

 というのは、衛兵Cの死体の話である。
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)も、その見解については同意見のようである。

「確かに、割れた窓と衛兵C様の死体は、大して離れておりませんね」
「うん、窓ガラスを割った音で気づかれたから殺害したケースも考えてたんだけど、それならもっと遠くに死体があるはず」

 この距離では気づかれるも何もないだろう。
 窓ガラスを割ろうとした時点で、既に発見されていたはずだ。

「後は窓ガラスの破片を調べて、どうやって何で割れたのかを解析したかったんだけど……」

 北都はチラリと目線を落とす。
 ところが、ガラス片が落ちているべき場所には、ほとんど何も見当たらなかった。
 本当に細かい破片が、点々と散らばっているだけだ。

「大きい破片は、全部大部屋の中に落ちたってことかな」
「……でも、室内側にだけ大量の破片が落ちたという事実から、ある程度の予想はできると思いますよ」
「うん、ちょうどその理由を僕も考えていたんだけど……。きっと、ガラス窓を割った“何か”は、そのままガラス片を押し込んで室内に突っ込んだんじゃないかな?」

 それなら、外側にはガラス片がほとんど落ちていない説明がつく。
 一応、そこまでの推論は情報として同期しよう。
 そして次に彼らが調べたのは、殺害された衛兵Cが持っていた物だという、壊れた『紅蓮の槍』だった。

「これ、変な壊れ方だねぇ。まるで限界まで熱した鉄の棒を、長時間押し当てた結末みたいな……そんな折れ方だ」
「状況から推察するに、外部犯の攻撃を受け止めようとして壊れたんでしょうか?」
「多分そうだろうね。一体どんな武器───あるいはスキルを受けたら、こうなるんだろう」

 しばらく考えを巡らせてみたものの、およそ見当はつかなかった。
 このままじっとしていても始まらないので、今は別の事を捜査しよう。
 そう決めて、彼らは次にシャッターの開閉装置を調べるために移動した。

「これが開閉装置か……このタイプは、モーターが備わったいわゆる電動式だね。確認のために一度開けてみよう」

 そう言って、北都はおもむろにハンドルを捻ろうとしたが、

「あれ、鍵を差し込みながらじゃないと、動かせないみたいだね。当然といえば当然だけど……」
「生き残りの方々が通報の直前にシャッターを開けたはずですから、鍵は衛兵テントにあると思います。私が貰ってきましょう」

 そう言ってクナイは、すぐそばにある衛兵テントへ駆けて行った。
 クナイが戻ってくるまでの間、北都は周囲を観察していた。

(……どうして外側から開けられるシャッターがあるのに、わざわざ窓ガラスから入ったのか? その疑問は解消されたな)

 ここに来る以前、北都がずっと抱いていた疑問だった。
 その答えは、情報さえ整っていれば簡単に導き出せるもの。
 シャッターの位置は正門から丸見えであり、正門には常に見張りの衛兵達がいたからだ。

(これがわかったのも、皆が情報を集めてくれたお陰だねぇ。僕が調べた情報も誰かの役に立つといいんだけど)

 そんな事を考えていると、すぐにクナイが戻ってきて、

「鍵を預かってきました。さぁ、試しに開けてみましょう」
「うん。頼むよぉ」

 クナイは頷き、鍵穴を埋めてハンドルを捻った。
 すると、鋼鉄製のドでかいシャッターに相応しい轟音が───


 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ


 鳴らなかった。

「うわっ、すごい。こんな大きなシャッターなのに、全然音が聞こえないよ」
「きっと最新式のものなんでしょうね。最近は騒音対策など、そういった方面の技術開発も進んでいますから」

 最新式、という事実はさほど重要ではない。
 重要なのは音が全くしない事の方だ。
 仮に犯人が密かに開閉を行っても、研究所の人間は大部屋にでもいない限り、誰も気づけないだろう。

「この事実も報告しよう。何か手がかりになるかもしれないよ」
「ええ。合わせて記録しておきます」

 こうして2人はシャッターを再び閉ざし、この場を後にした。


■獲得情報

<割れた窓と衛兵Cの位置関係> 記録者:クナイ・アヤシ(くない・あやし)
私達が最初に調べた事でございます。
割れた窓から衛兵C様の死体までの距離は、10m程度しかありませんでした。
窓ガラスを割った音を聞かれ、口封じのため殺害したのなら、もっと距離は離れているはずです。
ですから衛兵C様が殺害された理由は、窓へ近づく際に障害となったからだと思われます。

<ガラス片の落ち方> 記録者:クナイ・アヤシ(くない・あやし)
割れた窓の下にあたる場所に、ガラス片はほとんど落ちておりませんでした。
この情報は屋外側を調査したものですから、きっと大部屋側には、その分大量のガラス片が落ちているはずです。
大部屋を担当なさっている方々は、この事を踏まえて調べて頂けるようお願い致します。

<壊れた紅蓮の槍> 記録者:クナイ・アヤシ(くない・あやし)
衛兵C様が携行していたという『紅蓮の槍』なんですが、前情報にあった通り破損しておりました。
ただ、その破損の仕方が妙でして。
北都の言葉を借りるなら、限界まで熱した鉄の棒を、長時間押し当てた結末みたいな折れ方だったのでございます。
外部犯の攻撃を受けて壊れたのだと考えられますが、ここから攻撃方法を判別するのは難しいですね……。

<シャッターについて> 記録者:クナイ・アヤシ(くない・あやし)
モーターが備えられた、いわゆる電動式のシャッターですね。
扉は分厚い鋼鉄製で、とても大きかったです。
本来の倉庫として使われていた時は、トラックなどが荷を降ろす搬入口だったのでしょう。
ハンドルを捻れば自動的に開閉が行われるのですが、ハンドルは鍵を挿しながらでないと回す事ができません。
その鍵はいつもトマスさんが持っているらしいです。

<シャッターの開閉音> 記録者:クナイ・アヤシ(くない・あやし)
こんなに大きなシャッターなのに、開閉時に全く音がしませんでした。
調べてみたところ、どうやら最新式の技術で作られた騒音対策シャッターのようです。
ですから、例え犯行時にこのシャッターが開閉されていたとしても、その音で気づく事は不可能だった思われます。